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Shangri-La of the last theorem 2

競り落とせ。救いたいだけ、競り落とせ。欲張ってはいけない。本当に大切なモノを見失ってしまうぞ。

闇が嘲笑う





――――――――



優雅な音楽、100人以上の出席者を一挙に仕舞える程の広さを持つ会場。いつもであれば壁の花となっている黒兎も今回はレイとは別行動で手掛りを探す。

幸か不幸かこの夜会は皆がそれぞれ仮面を付けている。おかげで身元の判別がつかないが、それは此方も同じなので良しとするしかない。
あくまで今回の依頼は闇商人の検挙である。此方から先に攻撃を仕掛けてはならない。


そろそろ合流するかと、反対側にいる黒兎に視線を投げる。視線の意味を損なう事なく受け取り、歩き出した。が、何か頬がモゴモゴしている気が…しかもその場に居たウェイターに皿を返し、ニッコリ微笑んでいる(目元が隠れるハーフの仮面なので口角を上げるだけで微笑んでいるように見える)


「…………」

「………ごめん…でも、美味しかったもん」

「そうか……。帰ったら味を教えてくれ、そしたら作る…」

「やったぁ♪」



バツン。

広間の明かりが一瞬にして全て消えた。人の気配はする。どよめきは少ない。反応しない客は余程の回数参加しているのだろう。慣れきって暗闇に怯える事なく談笑を続けている
傍らの黒兎が辺りを見回し、壁側へと移動した。


「今から、なんだね」

「…………」

「レイ?……大丈夫?」

「……ん、あぁ。問題ない」

「あんまり無理しないでね…?一応、徨夜もいるから……」


黒兎の言葉を遮るように、レイは人差し指を立てた。
未だに明るくはならないが、何かが中央に運び込まれている気配がある。ヂャリヂャリと耳に付く、あれは


「可哀想に…繋がれてるよ……」

「鎖か」

「きっとね。でも、これって本当に僕らだけでやるの?」


この仕事、依頼主はあくまで匿名。検挙した売人、及び購入者は首都クレアシオンが設立したNCT( Not Creatures Trafficking)の役人へ引き渡す事。ただし、両被疑者への手出しを禁ずる。それ以外への手出しは自己責任で行われたし。


気になる点がいくつもある。

始めに、名は売れているとは言え、あまりにも無茶苦茶な依頼。手出しはするな、逃がすな。どうしろと言うのだ。出入口は2ヵ所、客用の扉と使用人用の扉である。このうち客用の扉は塞ぐ事が出来るが、もう一方の扉は無理に近い。役人が外で待機してくれているのを期待するしかない。

次に、手出しは禁物。だが、被疑者以外への攻撃は自己責任?まるでこの会場に売人と購入者以外が居るかのようだ。


そして、先程から気になっていた、


「あの鴉面……」


鴉のような仮面。他と同じようにハーフマスクで口許こそ見えるが、そこから上は隠れていて、しかもご丁寧に眼部分には青いガラスが嵌め込まれている。

そんな仮面を付けた輩がチラホラ。明かりが落とされた後も談笑を続けている事から常習者だと判断出来るが、もしかしたら役人なのかもしれない。

こちらから声をかける事は無いが、念のため。


―紳士淑女のお集まりの皆さま、大変お待たせいたしました。ただいまより始めさせていただきます。


声に導かれる様に明かりが灯り、正面に鎮座している2つの檻の、その中にいる商品へと視線が注がれる。



覚えている、覚えている。忘れたくとも覚えている。あの檻から出され、群衆の眼に晒される。暴れないようにあらかじめ薬を打たれ、購入希望者の元へと連れていかれる。そこで商談が成立すれば良し、それすらなく、ただひたすらに晒されるのみの商品は終わった後に………


「……今もまだ殺されているのか…」

「レイ……?」

「いいか、金に糸目はつけん。全てを買う。あの子達の安全を確保してから役人に合図を出す」

「了解」




――――――



―100!!

―190!!

―220!!

―220、220でよろしいですか?……よろしいですか?


「260だ」


―260!!260でよろしいですか?………よろしいですか?………おめでとうございます!!この子も貴方の思うがままですよ。



これで11人目。あと4人。あと4人残っている。
これまですんなりと落札出来たのは疑問だが、所詮は金を積めば良いだけだ。卑劣な考えに吐き気がする。が、仕方無いのだ。弱者は強者には勝てない。よしんば勝てたとして、平和は続かない。


黒兎と交互に買い上げた子供たちは必要もないのに檻に入れられ、身を寄せあっている。檻の傍らには例の鴉面の男。黒兎の背後にも同じように檻があり、同じように男が立っている。

やはり役人か。


「どうぞこのままこの子らをお救い下さい。」

「ん?」

「今回の行いが、我々と相対する者達への抑止力となりましょう」

「分かっている」



残るはあと4人。先に(勝手に)潜入していた徨夜が何処に居るか分からない以上、気を抜けない。


ふと、会場の中央に飾られている巨大な鳥籠が視界に入った。中には精緻な人形がひとつ。どういう趣味かは分からないが牡鹿の仮面(しかも丁寧に角付き)を付けている。


天井を仰いだ人形。その、眼が、此方を向いた



ガタン!!

斜め後ろに座っていた黒兎が椅子を蹴飛ばして立ち上がり、出口へと視線を向けている。他の参加者はこの音に興味を示さない。新しい商品の提示だ。


「黒兎、おい、座れ」

「る、」

「は?」

「すばる!!!!、昴が!!」




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Shangri-La of the last theorem 2-2

剣を、振り下ろしたはずだ。しかし、感触がない。目の前にいたはずの化け物も消えた。


「何処に消えやがった!!!!化け物がっ!!」


明らかに普段の冷静さを欠いている。無機質ばかりが残された会場にひとり、吼えたところでなにも変わらない。と、突き破らんばかりに扉が開かれた


「レイ!!大丈夫!?」


翼を持つ虎を従えて、黒兎がレイの元へと駆け寄った。上から下まで眺めて問題ないと判断したのか腕を取り、地下室を後にする。黒兎の傍らにいた虎は霧のように消えた。


「何処にいたんだ」

「幻を追い駆けてた」

「徨夜は…どうした?」

「分かんない。でも、レイが無事で良かった」


黒兎の手が微かに震えている。お前が勝手に行ったんだろう、とは言わないでおく。オークション会場であった地下に限らず、黒い手は城内を蹂躙したと見える。まるで廃墟のような静けさ。まぁ、実際的にも廃墟に変わりない


「………幻ってのは、」

「前に話した幼馴染み。」

「幼馴染みは、死んだんじゃないのか?」


ぎゅっ、と握られた手に更なる圧力がかかる。


「確かに僕の目の前で、その、」

「ならば何故?」

「見間違いだと思ったんだ。きっと僕の記憶がぐちゃぐちゃになって、だから、きっと、見間違いで、昴は、死んで…なくて」

「命が終わった者は蘇らない。死霊にしたいのなら別だが、あれは終わった者への冒涜だ」


地上だ。黒兎の手を取り直し、スキップ(空間移転)の詠唱を促す。辺りを見回すが徨夜はいない。黒い手に殺られたとは思わない。きっとギルドに戻っているはずだ。いつもの様に地下の自室でニヤニヤしているのだろう。きっと、そうだ。死ぬ訳がない。









――――――――――――――――――



嗅ぎ慣れた匂いに目を開ければ屋敷の、レイの自室。
水の入ったグラスに声を落とす。黒兎の心配そうな顔がこちらを伺う


「おい、徨夜。無事か?」

「……」

「おい、聞いてるのか?」


返事がない。
徨夜は戻ってきていない。

黒兎の視線が刺さる。部屋を見て来てくれ、部屋にはいるだろう。譫言のように吐き出して黒兎を部屋から追い出す。

ふと、窓の外にカラスが。こちらを覗き込むように首を傾げている。その背後、忍び寄る黒い手。
そのカラスがギャアギャアと鳴き、手に呑まれ消えるのとほぼ同時にグラスから黒兎の声が響く。



―徨夜が、いない。




外ではカラスの羽根が未練がましく舞っている。









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