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ふたりの名は罪悪(百合ミステリを考える会)

詩歌は好きだけどそこにこめられた詩情をわかる・わからないで語ることは好きではない。
冒頭から何を、という感じだがあとで拾うのでとりいそぎ個人の意見を。

あるきっかけで、少女と少女のあいだに巻き起こるホワイダニットという現象についてのんのんと考えていた。(どういうこと)
危害を加えるために事件を起こすのではなく、相手に対する肯定的な何らかの動機によって銃の引き金に指をかけてしまう、そんな事件および関係性について。いわゆる「百合ミステリ」という分類なのだろうか。

ここから下はかるいねたばれがあるよ!
私が百合だと感じたミステリをあげていくよ。







そういう作品としては(だいぶアバウトなくくりだけど)北山猛邦の「さくら炎上」という短編がなんとなく浮かんでくる。


百合度……★★★
物語性……★
罪悪感……★★★

まあ百合といえば、と言わなくてもたぶんこの作品のふたりはいわゆる「百合」というそれに近いとおもう。その点では動機もいい感じ。ただ、感情に対して行動が行きすぎているきらいはあるかも。動機が見せどころだけど動機のおかげで最後の最後、非現実的なところに足がついているかんじ。
同じ作者の作品なら、「恋煩い」のほうが少女と少女の関係性としてはリアリティがあるかもしれない。

百合度……★
物語性……★★
罪悪感……★★★(★)

この結末もある意味、一抹の百合だと私は思って……思うこともある。

相沢沙呼「チョコレートに、踊る指」


百合度……★★★(★)
物語性……★★★
罪悪感……★★★

チョコレートはいい百合ミステリ。百合をはずしても、そもそもの作品としての完成度が高い。私にはそう見える。トリックと動機と物語のバランスがうまくとれている、ような気がする。私にはそう見える!
やや百合の比重が強いといえば強いか。

北村薫『秋の花』



百合度……★★
物語性……★★★(★)
罪悪感……★★★(★)

こちらはミステリにとどまらず文学作品として非常に高いところにある作品なのでなんだかあれなのだけど、ここにいてもいい作品だとはおもう。
誰が何を、どうして、どうしたのか、すべての要素が繋ぎ目のないなめらかな線になっている美しさ。ある。
少女と少女だからこそ生まれた物語という雰囲気。ただ、美しすぎることが逆に唯一の瑕といえるかも。もっともっとどろどろと、汚れていたほうがより現実味をおびたはず。(あえて、なのだろうけれど)

今野緒雪『マリア様がみてる 〜ウァレンティーヌスの贈り物〜』


百合度……★★★
物語性……★★
罪悪感……★★

マリみてシリーズは良質な百合ミステリでもあるのですよ
この話では、主人公の祐巳さんがあこがれの「お姉さま」が校内に隠したカードを探すというデート争奪戦に参加します。(商品が一日デート権)
祐巳さんがアタリをつけた場所からはどれだけ探してもカードは出てこなくて時間切れを迎えてしまいます。けどお姉さまの話ではカードは祐巳さんの予想通りその場所に隠したというのです。おそるおそる、再びそこを暴いてみるとカードは平然と置かれていてーーー。

いったいなぜ?
そのホワイはのちのち明きらかになるのだけど、とてもよい少女小説。明快かつほろ苦い。ホワイだけでなくフーダニットとしても楽しめます。


『ロサ・カニーナ』もホワイダニットとしては素敵です。

マリみてでミステリちっくだと言われるのは『いばらの森』ですが私はあまりそうは思わないかな。フーダニットではある。

マリみて十六年くらい前なの冷静に考えてやばくないですか。


桜庭一樹『少女には向かない職業』


百合度……★(★)
物語性……★
罪悪感……★★★

桜庭さんは『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』、『七竈』『赤×ピンク』『推定少女』『読書クラブ』が好みなのです。でも百合ミステリとしては、この作品が一番に浮かんでくる。ミステリのつくりとしては『砂糖菓子』のほうが好きなのだけど。
たぶん少女ふたりの連帯感というか、もっと重い、運命共同体というか、つまりは読んだあとにのこる罪悪感が最も重いからだ。
ちなみに桜庭作品の構成で一番いいなと思うのは『私の男』だったりします。

サガン『悲しみよこんにちは』


百合度……★
物語性……★★★
罪悪感……★★★(★)

えっ?と思われるだろうか。
私としては読んでいるとき「えっ?なんでそんな?」と思う主人公の行為があって、あとから考えると女と女の複雑な関係性をよくあらわしていた物語だった。だからある意味百合だといえる(いいたい)。
読後に見るタイトルの余韻がたまらないくらい好き。朝ごはんの場面が好き。百合かんけーねぇ。

石持浅海『わたしたちが少女と呼ばれていたころ』

百合度……★★
物語性……★★
罪悪感……★★

よくも悪くもドライな作品だとおもう。登場人物に対して客観的な姿勢を崩さないし、ウエットになりきらないから百合にもなりきらない。そんな感じ。ミステリとしてはよくできた短編集だと思います。感情にまかせずこまやかなロジックで丁寧に謎を解くところが◎。

百合を語るまえにおまえの百合の定義を説明しろよと思われてそうですが、自分でもわからないので詳細は省きます。が、しいていうなら「好きにおさまりきらない罪悪感」かなと思います。
それを説明するにあたって急にBLのはなしをします。

私がBLっぽいと思って、なおかつ好きだと思うものってたいてい無意識のうえに成り立つ関係性が描かれているのです。
それに世間一般でBLの二次創作がつくられるものも、元の作品すべてが公式のBL漫画ではなくて、普通の漫画の空白の部分からBLを想像したものがとても多い。
本人たちが自覚しないままに関係性がどんどんできあがっていく、そういう現象が多く起こるのがBLの世界。

でも百合の関係性では、少女はどこかで相手に対する想いを自覚している、そんな描写がはっきり書かれているものが多いように思います。
コンプレックスだったり好意だったり、精神的なつながりが重視されるからというのが特徴かなと。
気持ちを自覚しているからこそ、共犯者、もしくは罪人としての罪悪感がどこかに潜んでいるのが百合かな、と個人的にはおもうのでした(完)。

ただし自覚と罪悪感のあるBLも私は好きです。


心のうごきが繊細に描かれる百合は、ミステリ作品との相性もよいといえます。うまくかけば上質な物語、かつ意外な真相、深みのある謎解きに結び付くからです。
ただ、上記のレビュー(?)でも幾度かふれたとおり、百合をミステリに置き換えるときにはバランス感覚が非常に重要になってきます。
恋は盲目なのに解決は論理的にしなくてはならない、この相反するふたつの魅力をどこまで同じ線上に導くことができるかの勝負。

推測できない、説得力のない、あまりにとっぴな感情の動き(動機)だと、それはよいミステリだとは言ってもらえないからです。

でも私は、動機に合理性を求めるのが好きではないのです。
詩歌も物語もそうだけど、感情をわかる・わからないの○×クイズみたいに判断されるのが嫌いなのです。個人的な意見です。


「この詞のここはこれこれこういう意味でこういうときのこういう気持ちをあらわしていてだからそうした背景をふまえて」みたいに一語一句詳細に暴いていくのがいやなんだーーー


というのは最早わがままなのだけど。

ただ物語としては、
はじめから終わりまで読んだときに、つながっているものがないといけないと思う。
好きなことを好きなタイミングで書く、それは物語ではなくてただ好き勝手書き散らした言葉の集合体に過ぎないし、誠意でもない。

だから、合理的なものがよいとかいう話ではなく、ひとつの動機があるならそれをその感情から巻き起こる行動とともに、一連の流れとして書ききることが要なのだろう。
あるいはひとつの行為の奥に、かならずその原因があり、そこにいかにすとんと、しかし魅力的にたどりつくのかということ。

百合の話じゃなくなっている……


恋は盲目を地でいく百合ミステリというのがたまにあって、ハッ、というよりはっ?とさせられる、サイコパスな物語もあります。

百合度……★★
物語性……★
罪悪感……

なかなか百合なのに完全に無意識です。罪悪感もないです。かといってドライでもない。すごい。
終盤の彼女の「はっ?」な行動は好きだし、その直後の彼女の「……え?」な隠蔽もすごく好きです。


百合度……★★★
物語性……★★★(★)
罪悪感……★

自己愛が強くて夢みがちな思春期の自分勝手さがリアル。少女と少女の関係って実際そこまで尊いものじゃなくて、こんなふうにエゴとエゴで出来ている部分が殆どだとおもう。



つかれました。
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