少し前に死後の世界はあると科学的に証明されたが、死後の世界は一体どんな場所なのだろうか
これは彼岸に一歩踏み込みかけた人の話だ
その人は若い頃、バスガイドの仕事をしていた。
ある日、観光バスの清掃を任され床を掃いていると突然、強烈な目眩に襲われた。
それと同時に酷い動悸に見舞われ立っている事に耐えられなくなり、咄嗟に座席に手を掛けようとしたが力が入らず、そのまま床に倒れてしまった。
激しく心臓が脈打ち、呼吸もままならず意識が朦朧とする。
『あ、ここで死ぬんだな』と覚悟を決めたらしい。
そこで何も分からなくなったそうだ。
暫くしてカラカラと何かが回る乾いた音で気が付いた。
死なずに済んだのかと安堵して辺りを見回すと、バスの中で倒れた筈なのに石が積み上げられた寂しげな場所に居た。
更に周りでは無数の風車が風も無いのに回っており、それは白い背景とゴツゴツとした無数の黒い石に映えるような朱色をしていた。
『あー…死んだんだな』
昔、何かの話で聞いた死後の世界と何と無く似ていたらしい。
覚悟を決めたとは云え、そんな所に訳も分からないまま足を踏み入れる事になりショックだったらしく呆然としていると、誰かに名前を呼ばれたのに気が付いたそうだ。
それと同時に景色がグルグルと回り始め、再び強烈な目眩に襲われたかと思うと、ぷつんと糸が切れるように意識を失った。
次に目を覚ますと、見慣れたバスの中で同僚の運転手が頬を叩きながら名前を呼んでいた。
頬に感じる痛みに、無事に戻ってきたんだなと実感したのだと云う。
そんな話を聞かせてくれた彼女は、未だにカラカラと云う音と風車の鮮やかな朱色が耳と目から離れないそうだ。
2014-5-11 15:10