恐らく植物園だろうか

草木が鬱蒼としているが整備された場所に私は居た
空を見上げれば硝子で出来ている屋根が青い空を透かしている

顔を正面に戻すと葉を鋭く伸ばしている背の高い植物が目の前にあり、それを挟んで向かい側には男が居る
眼鏡を掛け、見るからにうだつの上がらなさそうな顔をしているが、目の前の植物を見つめている目は真剣だ


『やぁ夜刀君、これは大発見だよ。この植物は新種の生き物の巣になっているようだ』


植物から視線をこちらに向け彼は云った
その声は嬉々としている


『生物学者冥利に尽きるね。まさか自分が生きている内にこんな発見が出来るなんて』


どうやら彼は生物学者らしい
自分の名前を知っている事から察するに、恐らく私は彼の助手なのだろう
一人で喜んでいる姿をぼんやりと眺めていると、それに気付いた彼が私の手を取り掌に何かを置く

その何かに目をやると思わず声が出た
『うわっ』とか『ああっ』とか情けないようなそんな声だ

掌には濃い茶色と薄い茶色のグニグニとした見た目の何かが蠢いていた
それは一見、蛞蝓のような見た目だが触覚は見当たらずヌメヌメとした光を放っており、身体を風船のように膨らませたり萎ませたりを繰り返しながら私の手の上をぬるぬると這っている

あまりの気持ち悪さに呆然としていると彼はそれをつまみ上げ、自分の掌に乗せると口を近付けた
そして、


ズズズッ



まるで蕎麦を啜るような音を立て、その生き物を吸い取ると咀嚼する
その生き物の声なのか、彼が口に入れたそれを噛み締めた瞬間に『きゅう』と云う音が微かに聞こえた
ああ、あれは生き物だったんだな…そんな事を考えていると、粘液だらけになった口をねちゃりと開き、目の前の男は笑った