息苦しさに目を覚ますと、暗く狭い場所に丸まる様に入っていた。

手に携帯を握っている。
ライトで周りを照らすとどうやら押し入れの中の様だ。

何故こんな場所に居るのか疑問にも思わなかったが、息苦しく不快だったので押し入れの戸を開けると其処からずるりと這い出した。

這い出すと目の前に人形が座っていた。

人間と同じ大きさの男の人形は、こちらを無表情な顔で見つめている。

『死ぬんだろ?』

人形が喋った。
その言葉に思わずハァ?と聞き返す。

『さっき死ぬって云っただろ?』

そんな事を云った覚えは無い。

『意気地無しだな。自分が云った事にも責任取れないのかよ』

そう云って人形はゲラゲラと笑い始めた。やたら頭に響く下品で不快な笑い声。

くらくらと目眩がする。



五月蝿い!

五月蝿い!

五月蝿い!



耳押さえようと手を上げると、持っていた筈の携帯がいつの間にかナイフになっていた。

これで人形を…否、だけど…

人形を刺したところで黙らせる事は出来ないだろう。生きてないんだから。

笑い声を不快に感じつつ、ナイフを手に取ると首にあてた。

「うるせぇんだよ!お望み通り死んでやるから黙れ!」

そう云う様な事を叫んでナイフを一気に引いた。

ボタボタと音を立て、辺りが赤くなるのが見えた。

首の状態は見えないが、ひんやりとした感覚と辺りに広がる血の量に『これで死ぬだろう』と嬉々とした感情が湧いてきた。

だが

『まだ生きてるじゃないか!』

一瞬、静かになった人形が再びゲラゲラと笑い始めた。

『死に損ない!死に損ない!死に損ない!』

腹を抱え、のたうち回り死ぬほど笑いながらこちらに罵声を浴びせてくる。


畜生、畜生、畜生、畜生、畜生、畜生、ちくしょぉぉぉぉお!!!!

気が可笑しくなりそうだった。

ナイフを握り締め、滅茶苦茶に首を切り付ける。

口から血を吹き、目の前の全てが赤く染まっても死ぬ事が出来ない。悔しさで流れた涙と口や鼻から流れた血とが混ざり、顔がぐちゃぐちゃになる。

人形は相変わらず不快な笑い声を出し続けていた。



何で死ねない?誰か助けて…



頭の中でそんな言葉がぐるぐると廻り、目の前が暗くなった。