その日の夜、何故か眠れなくて―…眠ってはいけないと思って珍しく夜遅くまで起きていた。
そしたらこんな時間に鳴るはずのない携帯電話が鳴って、一通のメールが届いた。
差出人はお兄ちゃんの英次さん。
メールの内容は「起きてるかな?まだ起きてたら、部屋の窓を開けてくれるかな?」という不思議なもので、とにかくお兄ちゃんの言うように窓を開けてみることにした。
窓を開けて何気なく外を見れば、お兄ちゃんがこちらを見て立っていて、驚きのあまり声が出そうになったけど、お兄ちゃんのしぃーっという動作(口の前で人差し指を立てた)を見て咄嗟に手で口を押さえてなんとかやり過ごすことができた。
そんなことをしている間に、私のところまでお兄ちゃんはどんどんよじ登って(私の部屋は二階にある)ついには私の部屋まで辿りついた。
「今晩は、奈津子ちゃん」
「こんばんはってこんな時間にどうしたんですか!?何かあったんですか!?」
「何もないよ。ただ寝付けなくてねー…奈津子ちゃんがもしも起きてたら相手でもしもらおうと思ってメールしたんだ」
「そうなんですか。私も今日は珍しく眠れないんですよ。同じですね!」
「だね。じゃあ、眠くなるまで俺とおしゃべりしてくれる?」
「もちろん、いいですよ」
「よし!ならちょっと移動しよか」とお兄ちゃんが言い出して、家の屋根に上に登ることになった。
*
お兄ちゃんに手伝ってもらって屋根の上に登る。
屋根の上に登ったことなんてもちろんないからちょっとドキドキ。
「さてと…。さっき奈津子ちゃんに言った寝付けなくてというのは嘘なんだ」
「えっ?」
「本当は奈津子ちゃんに話しとかなきゃいけないことがあってね。だけど、重い話だし奈津子ちゃんも聞きたくない話しだろうから俺も言いたくなくてね…。ちょっと賭けてみたんだ。奈津子ちゃんが起きてたら話して、寝てたら止めようって」
「そう、なんですか……ボンゴレ関係の話なんですね?」
「うん。そうだよ…。どうする?…と言っても、いずれ誰かから聞くだろうけど。違いは俺から聞くか、他の誰かかから聞くか…」
「……ずるい」
「うん。その通り。俺はずるい人間だよ」
「…本当に、ずるい人ですね……他の誰かから聞くぐらいならお兄ちゃんの口から聞きたいです」
「…対外的には俺は養子なっているからという理由は置いといて、正妻との間の子ではないにしても奈津子ちゃんより年上で男である俺がいるというのにも関わらず、11代目候補として名前が上がっているのは奈津子ちゃんだけだ。どうして奈津子ちゃんだけかっていうと、俺には11代目になる素質が無いからなんだ」
「でもお兄ちゃんに無いなら、私なんて尚更無いと思うんですけど…」
「俺のこと買被りすぎ。そして自分を卑下しない!奈津子ちゃんにはバッチリあるんだよ、これが」
「嬉しくないです…」
「あー……うん。奈津子ちゃんの死ぬ気の炎の色ってオレンジ色だよね。俺は藍色なんだよ」
「えっ!?たかが色が違うってだけで!?」
「たかがじゃなくてこれが結構重要なことなんだー。そして、もっと決定的なのが…俺には超直感が無い」
「えっ、でも、それはまだ覚醒してないからとか…」
「じゃないんだよ。遺伝しなかったっぽいよ。父さんより母さんの血の方が濃いらしい。というわけで、俺は11代目にはなれません、となったわけ」
「お兄ちゃん……ぶっちゃけちゃっていいですか?というかぶっちゃけます!ずるい!!」
「だよねー…俺も奈津子ちゃんの立場だったらそう言っちゃうよ…それよりもさ、さずがに眠くない?」
「え?そう言われると…なんだか…」
お兄ちゃんにそう言われると急にものすごい眠気の襲われて…
瞼が重くてたまらない…
目を開けていられない…
「心配しなくていいよ。ちゃんとベットまで連れてくから大丈夫。ゆっくり眠るといい。おやすみ」
うん
おやすみ、お兄ちゃん…
「奈津子ちゃん、覚えておいて…どうしても、何が何でも、たとえ全てを失ってもいいと思うほど11代目になりたくなかったら…俺に言うんだよ。俺が――…。でもこれは二人だけの秘密だよ」
完全に眠りに落ちるという直前にお兄ちゃんが耳元でそう囁いた。
そこからの記憶はない。
起きたらきちんと自分のベットにいて…昨日のことはもしかして夢なんじゃないかって思ったけど、携帯には確かにお兄ちゃんからのメールが残っていて…それが夢じゃないことを私に告げていた。