「ふと思ったんだけど、A子って護衛され慣れてるよね」
窓の一つもない異様な執務室の主である綱吉の発言にソファーで寛いでいたA子とリボーンは顔を見合わせた。
そしてリボーンは大きな溜息を一つこぼし
「……今さらだぞ」
と一言。
A子はというと、大げさに拍手を綱吉に贈り
「さすが、ドン・ボンゴレ!!格の違いを見せ付けてくれるわ」
と芝居がかった台詞をはいた。
「俺のこと馬鹿にしてない?」
半眼になって綱吉が確認せずとも、明らかに馬鹿にしているのは明白である。
「気にしすぎよ」
「そんなことないと思うんだけど?」
二人は笑顔を浮かべていた。
二人の間に流れる空気は冷たいものだったが
**********
A子は屋上に向かって階段を登っていた。
普段ならそこに近づきもしない。
屋上で昼ごはんを食べる習慣などA子にはないし、そこにはフェンスと大空があるだけで他に何もなく、何もない所にわざわざ出向く趣味もない。
そんな彼女が屋上に出向くはめになったのは一通の手紙を貰ったからだ。
屋上にて待つ
簡潔すぎる内容。
どう好意的に見ても愛の告白をするような感じではない。
むしろ嫌な感じがする。
それでも出向いたのは差出人に心当たりがあったから、そして出向かわなければ面倒な事が起きる予感をひしひしと感じたから
屋上へ繋がる扉を開くとすぐに声をかけられた。
「チャオっす」
「……どーも」
そこにいたのは中学校で出会うはずもない赤ん坊
初対面なのにその赤ん坊が誰なのかなんとなく察しがつくのは、何か自分の身におこるたびに話をしにくる幼馴染の彼のせい
「えっと、どなたですか?」
「分かってるのにわざわざ聞くな。ダメツナから聞いてるだろ」
「ああ、家庭教師のリボーンさんですか。」
「俺はまどろっこしいのは嫌いなんだ。お前、何者だ?」
「何者だと聞かれても……綱吉と同級生で斜向かいに住むただの女子中学生ですけど」
「今時の女子中学生は監視されていることに気がつくのか。恐い世の中になったもんだな」
幼馴染の家庭教師が言うとおり監視の目にA子は気付いていた。
だからといって何かするわけでもなくただ監視されるがまま、放っておいた。
監視されようが過去を調べられようが何か出てくるわけがもない。
今のA子に調べられて困ることなど何もないのだ。
「他の奴の目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せないぞ。」
「私にはなんのことだかさっぱり分からないんですけど」
「お前の行動に不信な点は何一つ見つけられなかった」
「だったら「それが不信なんだ。何もなさずぎる。」
A子は黙るしかなかった。
まさか不信な行動がないことが、何もないことが、逆に仇となるなんて考えてもみなかったからだ。
「それだけじゃないぞ。右利きのお前が右手に腕時計をつける意味とかな」
「それは癖で……」
「そいつは物騒な癖だな。女が身につけるにはごつすぎるうえに頑丈すぎるだろ」
確かに女子中学生が身に付けるにはものものしいそれ
それはただ単に時間を確認するためだけのものではなかった。
身に危険がせまった時に武器の代わりを果たすためにつけられていた。
非常時に腕から外しナックル代わりに使用するために
「ああ、私の平穏な生活が遠のいていく……」
「白状する気になったみたいだな」
「白状するもなにもないんだけどなー」
「それは俺が判断する」
「じゃあ、言うけど……あなたは輪廻転生とかそういったものを信じますか?」
これ以上誤魔化すのが無理というか面倒になったA子は自分の身に起こった全てのことを話し始めたのっだった。
**********
「別に隠してるわけじゃないのよ。聞かれなかったから話さなかっただけで……」
「じゃあ、話してくれるよね」
疑問系ではなく断定系な綱吉に大きな溜息をつくA子
そしてそんな二人に真面目な顔してリーボンが口を挟んだ
「ツナヨシ、一つだけ言っておく」
「なんだよ?」
「覚悟して聞けよ」
「どういうこと?」
「笑いすぎて腹が痛くなるぞ」
「それはそれは、楽しみだな」
「いや、まったく私は笑えないんですけど……」
ものずごくいい笑顔な二人に対してA子は嫌そうな顔だった。
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転生トリップしていろんな立場にたったことがあるので護衛されるのも護衛するのも慣れてるA子さん
監視されていることに気付くのも、監視されてても平常心を保てるのもそうです
今まで結構物騒なことに巻き込まれることが多かったので身の回りに武器がないと落ち着かなくなってしまってるA子さん
とにかく哀れなA子さん