その喫茶店には自由にコメントを書けるノートがあって、「夏の終わり、恋の終わり」という文字がページにあった。これを書いたのは一ヶ月ほど前の私だ。
その下に「恋の始まり」という言葉が付け加えられる今日。書いているのは私ではない、恋を始めたばかりの人。
君は今が一番楽しいとき。
そして、もうひとつ恋の始まりの報告を聞く。夏の終わり、恋の終わり、恋の始まり。

車を運転していると遠くに入道雲が見える。ここ最近の天気はまるで夏が戻ってきたみたい。夏の出戻り。香川は空気がきれい。

夜はまさかの人から電話がかかってくる。私が書いたある言葉を読んでくれて、面白かったよ!と言ってくれる。嬉しくて笑ってしまう。

なんだか不思議な縁がたくさんあった一週間。そして幸福な一週間だった。たくさんの人とたくさんの言葉を交わしたが、その中のいくつが本当のこととして果たされ、いくつが嘘になってしまうのだろうか。

高村光太郎『智恵子抄』

初めて読んだ中学生のときは美しい純愛の記録だと思っていたが、いま読めば光太郎の残酷さに気づいてしまう。
美しく書くことがかえって皮肉になってしまうような。
智恵子は淋しかったのかもしれない。