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膝枕

「……何やってるんですか」

山崎の見つめる先には、妙と妙の膝の上に頭を乗せて寝転がっている沖田。
風通りのよい縁側で、とても気持ち良さそうである。

「何って、昼寝だろィ」
「いやそれは分かってるっていうかそもそも昼寝してんのもダメなんですけど、この状態は…」
「膝枕です」

にっこりと笑って妙が答えた。

「膝枕ですね…」
「膝枕でさァ」
「…あーもう!分かってるんですよそれは!」

山崎は未だに妙の膝で寛いでいる沖田をびしっと指差して声を張り上げた。

「なんで隊長がお妙さんに膝枕してもらってるんですか!おかしいでしょ!だいたい局長に知れたらっ」
「いいんですよ山崎さん」

荒立った山崎を宥めるように柔らかい声で話した。

「賭けをしたんです。そしてそれに私は負けたんです。だからこれでいいの」
「賭けって…」
「オセロでさァ」

沖田は寝転んだまま、床の上に広げてある、見事に黒に占領されたオセロ盤を指差した。

「沖田さん強いのよ。どんどん返されてしまうの」
「そりゃァこういう相手を攻め立てるゲームは得意中の得意ですからねィ」
「確かに隊長が負けてるのは見たことないですね。――ってそうじゃなくて!土方さんにバレたらまた怒鳴られますよ!」
「土方さんより姐さんでさァ」
「まあ、嬉しいわ」
「そりゃ俺だってそうですよ!でもっ」
「そうカリカリするんじゃねェや。急ぎの用もねェってのに。第一、こんな晴れた日にゃ縁側で昼寝が一番だぜィ。なァ姐さん?」
「ええそうね。あ、山崎さんもオセロします?」
「……」


「総悟ォ!っつかやぁまぁざぁきィィィ!テメェまで何遊んでんだコラァァァ!」

登校

「あ」

声が重なった。自分のものと、もうひとつは前から歩いてきた、あいつの。

「奇遇だね、こんなところで会うなんて。全く嬉しくないけど」

俺が気まずい顔をしていると、向こうはあまり気にもしないように声をかけてきた。相変わらず嫌な野郎だ。
こっちだって朝っぱらからテメェの顔なんざ見たくねェ。できるだけ嫌味たっぷりに返しておいた。
しかし、それを澄ました顔で流して、ところで、と話題を変えやがった。こういうとこが余計に嫌いだ。

「どうして君がここにいるんだい?それに、いつも近藤君たちと一緒じゃなかったかな」

眼鏡の奥から俺を見据えるように言う。

「近藤さんは寝坊、総悟はなんか知らねェけど先行ったから、たまにはと思って回り道通って来ただけだ。テメェこそ何してんだ」
「何って、学校に行く以外に何があるんだい?」
「だったら逆方向じゃねェか」
「何しろ、志村さんを迎えに来たからね」

ふふ、といちいち頭にくる笑みを浮かべて、視線を横に移した。
「志村」と達筆で書かれたネームプレートが目に入る。
ここに志村の家があるのは知っていた。別に意図して来たわけじゃない。うん、別にそういうわけじゃないけど。
なんでこいつが志村と一緒に学校行くんだよ!

「約束はしていないんだけど、昨日話題になった本を家まで持ってきたんだよ」

読まれてる。心の中読まれてる。

「一方君は誘う勇気がない、というところかな」

優越感に浸ったような顔を俺に向ける。
ああイラつく。何か言い返したいが、何も思い浮かばない。やつの言うことは間違ってはいないのだ。俺だって無意識でここに来たわけじゃない。気分転換でわざわざ遠回りしたわけじゃない。だからこそ、それが癪にさわる。

「先に学校行ったらどうだい?」

ネームプレートの近くの呼び鈴に手を伸ばした。
そのとき。

「あれ、土方さんに伊東さん、おはようございます。何か用ですか?」

眼鏡が玄関から姿を現した。手に鞄を持っているところを見ると、ちょうど今から登校するつもりだったらしい。

「おはよう新八君。お姉さんはいるかな?」

俺に対してとは違う、嘘にしか見えない爽やかな態度で眼鏡に尋ねる。
しかし眼鏡は、あいつの目的に気づいているかのように笑顔で答えた。「姉上なら日直で先に学校に行きましたよ」
「え」

口をポカンと開けて固まる伊東。なんつう間抜け顔だ。ざまあみろ。

「残念だったな、伊東。俺先行くわ」

悔しそうな顔をしているやつの横を通り抜け、俺は学校へと向かった。
――そうか、日直だったのか。誘わなくてよかった…。
しかし日直って知ってたら、もう少し早く学校に行ってたのにな。…ん?
総悟ォォォォ!お前知ってたのかァァァ!
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