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1時間目

キーンコーンカーンコーン
低音のチャイムは朝の眠気を飛ばしてくれるわけもない。むしろ気が重くなる一方だ。
まだいささか眠たい目をこすりながら、僕は一時間目の教科はなんだっけと醒めていない脳みそを働かせ記憶を巡らす。
……化学か。僕はそっとため息をついた。

「じゃあ授業始めるぞー」

すぐに前の扉が開いてのしのしと先生が入ってきた。
化学は源外先生だ。この先生は、テレビのげん○ろう先生みたく、おもしろい実験をところどころ挟みながら教えてくれるから楽しい。おかげで化学に親しみを感じ、知識も身につきやすい。
しかし、いくらおもしろくても化学は化学だ。それ以上でもそれ以下でもない。現在進行形で習っている化学式がどーたらこーたらなんてちんぷんかんぷんで、話を聞いてるうちに眠くなる。僕のため息の理由はそこにある。
…あ、神楽ちゃんもう寝てる。

「今日は一度息抜きで初歩的なところから復習しようかな。そろそろ頭ん中こんがらがってきたころじゃろ」

そう言って、先生は持ってきた手提げかごの中から2本の試験管を取り出した。白衣は着ていないものの、こうして実験道具を扱う姿はなんとも理科の先生らしい。理科の先生だけど。

「こっちは酸素、こっちには水素が入っとる。これらを反応させたら何ができるかくらいは分かっとるな。ほれ、起きんかい」
「んー…何アルかご飯アルか…」
「違うわい。まだ1時間目始まったばかりじゃぞ!じゃあお前さん答えてみなさい。酸素と水素が合わさったら何ができる?」
「んー…」

まだ半目で、授業だという状況をいまいち理解していない神楽ちゃんはしばらくぼーっと固まってから答えた。

「勇気アル」
「化学物質でそんなもん生まれたら世の中ブレイブストーリーだらけじゃ!」
「ぷぷぷ、勇気だって!お前寝てばっかだから基礎的なことも分かってねーな」

ちょっと前まで同じく机に倒れて爆睡してた近藤君がいつの間にか起き上がって神楽ちゃんを笑う。

「うるさいネゴリラ!そういうお前はもちろん分かってるんだろうな」
「当たり前だろ。酸素と水素くっついたら汗と涙の結晶ができるんだよ」
「二人とも何も分かっとらんわい!それからなんで答えが青春ぽいんじゃ!…おいそこの眼鏡、お前は分かっとるな」
「ぼ、僕ですか?えっと、水です」
「そうじゃ」

いきなり僕にふった先生は、やっと正解が出てホッとした顔をした。
そして、黒板に化学反応式を書き始める。

「酸素と水素を反応させたら水ができるんじゃ。化学反応式はこれな」

これくらいなら僕も分かる。発展こそちんぷんかんぷんなものの、基礎はしっかり身についていることに安堵する。といっても、ほんとにこれは基礎中の基礎だから知っていないとまずいんだけど(だからこそ神楽ちゃんと近藤さんは危ない)

「誰かこの反応実際に試したいやつはおらんか?」
「はいはーい!私やるアル!さっきの汚名挽回ネ!」
「いやいや先生、俺がやります!っつーかお前、名誉返上だし。国語もできねェのかよ」
「二人とも違うよ。汚名返上に名誉挽回ね」

僕が一応訂正を入れたけど、二人は全く聞いてないみたいだ。どちらが実験するかで揉み合いへし合い試験管の取り合いしている。源外先生も、それを使うんじゃないと集気瓶を差し出し叫ぶが一向に聞いてない。ああ、そんなに引っ張り合いしたら蓋が――



ドーーン



僕は何が起こったか分からなかった。一瞬にして広がる煙、塞がる視界。水素の扱いには注意が必要だとは聞いていたけれど、まさか爆発するなんて。何このギャグマンガみたいな展開。いつの間にか全員髪の毛チリチリに焦げてるし。

「ちょ…教室爆発したんですけど」
「…まあ大丈夫じゃろ。次の時間にゃ元通りじゃ」
「そんな漫画みたいな!」
「これも小説じゃし」

呆れた。まあ僕もそんなに大袈裟なことだとは思ってないし。マンガとか小説とかもう、いいや。
化学物質の取り扱いには気をつけよう、それが実験を持ってこの授業で学んだ重要ポイントだった。
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