info twtr box 

 

スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

SHR

あ…再提出だ。
机の上に置かれた問題集の付箋を見つけて、山崎は目を見張った。
課題の存在を忘れていたり答え合わせを忘れていたりというのはしばしばあることである。が、この課題はちゃんと完成形に持っていったはず。
四角の中は全部埋めた。丸もつけた。答え合わせのときに調子に乗って花丸までつけたのも鮮明に覚えている。
なのに、自分は何を抜かしたのか。

「きりーつ。れーい」
「おはようございまーす」

頭をボリボリかきながら教室に入ってきた担任との定形の挨拶を軽く流しながら席に着くと、ペラペラと問題集のページをめくった。
…やっている。間違いなくやっている。記憶してたものと全く同じものが目の前にある。なのになぜだ。なぜ再提出なんだ。
ふと、山崎は付箋に目を移し、気づいた。淡い黄色の上に赤ボールペンで『再提出』と書かれた付箋。その根本が今開いているページに、ない。
まさか、課題のページを間違えたんじゃ……。

「ね、ねぇ長谷川君、この前の英語の課題ってユニット8だったよね?」
「え?あー、いや確か7じゃなかったかな。えーっと…うん、7だわ」

隣の席の長谷川は、自分の問題集を開いて確認すると答えた。

「どうかしたの?」
「いや、その、ちょっとね、あははははー…」

その、まさかだった。課題のページそのものを間違えていたのだ。
ああ、これは抜かす以前の問題じゃないか。
山崎は深く深くため息をついた。


「――というわけで山崎、頼んだぞー」
「へ?何が?」
「何がってお前聞いてなかったのかよ」
「放課後のワックス掛け当番アルよ」
「よろしくな山崎!」
「さすが山崎でさァ」
「え、ちょっと待っ、え?なんで俺!?というわけでまでの流れが全く想像できないんだけど!」
「お前が一番ワックス掛けやりたそうな顔してた」
「それただの押し付けじゃないですか!やりたくないよ俺だって!理不尽だァァ!」

「持ってきやしたぜ」

どす、と教卓にプリントやら問題集やらを山積みに置いた。
ちらりと視線を落とすと一番上の山崎退と書かれた英語の問題集に再提出の付箋が貼ってあった。ばーか。

「ありがと沖田君。助かったわ」

黒板に時間割の変更を書きながら、彼女が顔を向けた。

「どーいたしまして」

手をひらひらと振って返す。
教卓の近くの席に腰かけて教室を見回せば、当然のことながら二人以外誰もいない。カリカリというチョークの音も、耳をすませば聞こえる呼吸音も、今は自分しか知らない。
彼女を独り占めしているような優越感に浸って、にんまりとほくそえんだ。

「ねえ沖田君」

どうやら書き終わったらしい彼女が自分のもとへ歩み寄る。

「なんですかィ?」
「放課後、空いてる?」
「放課後?部活サボったらまあ空いてやすけど…どうかしやしたか?」
「今日のお礼がしたくて。アイスでも奢ろうと思ったんだけど…部活サボっちゃダメよね」

即座にブンブンと首を横に振る。

「全然大丈夫でさァ!土方はテキトーにごまかしやすし」

総悟ォォォ!という土方さんの声が聞こえた気がしたが無視だ。

「そう。じゃあ放課後ね」
「ええ。あ、でも」
「何?…もしかして甘いモノ嫌いだったかしら」
「いや、そうじゃなくて」

もっと甘いモノ、欲しいんですけどねィ。
彼女の細い手首を掴んで引き寄せて、耳元で囁く。

「え、ちょ、沖田くんっ」
「お礼、くれるんでしょ」
「なっ」

顎をとらえると、眉をひそめると同時に耳がだんだん紅く染まっていく。
そのとき、廊下からドタドタという凄まじい足音が響いてきた。やっぱり来たか。死ね土方。
少し心残りはあったが、顎から手をそっと離した。

「冗談でさァ」
「…びっくりした。もう少しで殴るとこだったわ」

ポキポキと指を鳴らす様子からこちらは冗談ではなかったらしい。
やめておいてよかったのかもしれない。惜しいけど。
そこに、例のイラつく野郎が現れた。肩で息をしてるから、相当走ってきたみたいだ。

「死ね土方。あ、間違えた。おはようごぜーやす」
「どんな間違え方ァ!?明らか本心出たよね!?っつか総悟!お前」
「おはよう土方君。今日は早いのね」
「っお、おぅ、まあな。…総悟!ちょっと廊下来い」
「はいはい。朝からうるせェ人でさァ。じゃあ姐さん、放課後に」
「放課後ってなんのことだ」
「土方さんには関係ありやせん死ね」
←prev next→