うねる肉体は皺がなかった。背中に筋肉がしっかりついている人間の身体は、お偉いさんが作った美術品のようだった。テレビでしか見たことのない何とか像を思い出しながら、そんなことをぼんやりと思っていた。反対に、腰を振れば振る程ベッドのシーツはしわくちゃになっていく。いつか俺が爺ちゃんになったらこんな顔になるのかな、そんなことを言ったら、この張り詰めた肉に覆われた背中の彼は何と答えるのだろうか。聞こえないかもしれない。セックスに夢中で、発情期のライオンのような声を上げているから。それでも言うのはただだろうけど。
さっきから何度もペニスを出し入れし、股間の付け根と相手の固い尻がぶつかってどちらも真っ赤になっていた。ニホンザル、と言うアジア圏の猿は確かこんな色の尻をしていたと思う。人間は元々猿と同じだそうだから、あまり大きな違いはないのかもしれない。それはそうと、今野太く喘いでいるベフはどちらかと言うと猿よりはゴリラに似ている。分厚い胸板とか、鍛えた肩とか、締まった尻とか、何もかも好みだった。
窄まった肛門の際は、腫れぼったくなっていた。ローションでぐずぐずに蕩けて、柔らかく包み込む割に中は良く締まる。最高に気持ちが良かった。そこら辺のアダルトショップに売っているオナホなんかと較べたら失礼な話だ。汗と体液とよく分からない臭いに包まれて、これが人生の幸せなんだなと改めて実感してしまう。ベフの前立腺と結腸は、いとも簡単に俺を幸せと絶頂に導いてくれる。殴るだけが気持ちいい訳じゃないとちゃんと学べたのは最良だったのだと思う。
ぎゅうぎゅうに締めて離してくれないベフの、固い尻をぺちんと叩いた。ちんぽ取れたらどうしよう、と息も切れ切れに言った。病院連れて行ってやるよ、と枕越しに返事が返ってきた。やさしい。当たり前のことだったとしても、それを言葉にしてくれる人は案外少ない。
変な笑い方のまま腰を動かしていると、ラザロ、と呼ばれた。暗くてあまり見えない中、ベフは後ろ手でこっちに来いと手招きしていた。上体を倒して、汗だくのベフの背中に引っ付いた。傾斜角度がきつくなると、ペニスの入り方も変わる。気持ちいい、とベフはいつも通り笑っていた。滑る背中越しに、忙しない心臓の音が聞こえる。思わず口角が緩んだ。もう一度風呂に入り直さないといけないくらいのぐしゃぐしゃの頭を、ベフは乱暴に撫でてきた。俺の気分としては、動物園で頭を垂れるキリンのようだった。
「な、ベフ」
「ああ?」
「今度さ、動物園行こ?」
馬のペニスはでかいと聞いた。だけど動物園ならばもっとでかいペニスを持つ動物もいるだろう。それを見て、なるべくベフと笑いたい。あんなのとセックスしたら、なんて笑い話を作りたい。
皆までは言わなかったが、ベフは小さく笑って、いいぜ、と掠れた声で肯定してくれた。
いつがいいだろう。来週の日曜日とか、どうだろう。お留守だぞ、こら、と締められて、変な声が出た。考えるのは、一旦いってからにしておこう。そんなことを思って腰を動かした。