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※キリヤ×ハウンド

ここ最近ホモエロ書いてねえなあで書き上げた創作軍人ホモでござる。アカマツくん( @ymkm_akmt )からのリクエストです。元戦闘機パイロット現航空隊教官185p無愛想傲慢の権化ウールフェード少佐(34歳)×戦車隊小隊長195cmガチムチおっぱい論理派温厚サイコパス軍人ハウンド少尉(40歳)がエッチしているだけ


******

物事には順序というものがある。人が生まれてくる、料理を作る、運動する前の準備体操、考えればそれだけ多くの順序がある。何故順序、つまりはそういう規則があるのか。飛ばしても構わない過程や方法もあるだろうが、要はその道筋を経ていた方が最終的な結果としての事実がより良く成熟したものになるからである。恋愛をする人間の心を仮に考えてみてみよう。意中の人間に対して、いきなりベッドへ誘う人間はそうごまんといないはずである。何故か、という問いは愚問だ、見知らぬ人間と直接肌と肌を触れ合わせる距離に近づくだけでも嫌悪感を示す人間が多いと言うのに、好意を持っているからといってその傲慢さを押し付けるのは甚だしい限りである。また、銃火器を手にした子どもを例にとってみると、こちらも滅多なことがない限り、子どもと銃火器というアンバランスさに気付くはずだ。子ども=純真さ、銃火器=争いの種という平均的な人間が思う普遍なイメージがつきまとう。まず子どもが銃火器を持つことはなく、逆にそのイメージが合致してしまう子ども(つまりは少年兵という単語が当て嵌まるであろうが)は、前述した状態になるはずの過程が必ずあるはずである。このように、何かしらの事象に至るまでの道筋は、本来ならば簡略化されるものではないのである。順序良く組み立てて、最終的に完結する物事の理想像を形成する。これは、人間として普通大抵は行うことの一環のはずだ。
見上げてくる視線は戸惑いも躊躇いもないが、些か理解出来ないとでも言いたそうな感情が込められているのは分かった。シーツに沈んだ自分よりも鍛えられた肉体を跨ぎ、小首を傾げるようにして答えても男は翡翠色の目を背けずただひたすらにまっすぐ見つめてきた。どうかしたか。煙草を持っているかどうかを聞くのと同じぐらい単調に低く問う。
「きみにしては珍しい行為をしていると思ってね」
男の言い分としては、「何故ベッドに押し倒されているのかが分からない」ということらしいが、そんなことは今聞くことではなかった。酒が入り、チェスで十戦五勝五敗という互いに切りの良い数字で終われば、やることはひとつしかなかったからだ。男二人で狭い部屋に篭もりセックスをしないで終われるわけがないだろう、そう言うと男はやや驚いたように目を丸くした。
「ヘテロセクシュアルではなかったかな、少佐は」
「長いこと軍にいたら嫌でもペニスを使うようになる」
「それはご尤も、だがそれは私を抱く、ということで間違いはないのかな」
男はまるで神に愛された敬虔な信者のように指を胸で組んだ。やけに様になるその姿を見てせせら笑うようにして肩を揺らしてやると、少しだけ顎髭が生えた男の顎を掴んだ。
「俺が抱いてはいけない理由があるのか」
「そうは言っていないが、体格的な差を考えて譲歩しているのだが」
ウールフェード少佐、そう言って男はこちらの腰をそっと擦った。この大きな手のひらに幾度か抱かれたことはある。だが今日この瞬間まで抱いたことはなかった。金銭が絡んでの所謂“タチ”をしたことはあるが、この男とのセックスはあくまで娯楽の一種だった。酩酊する前まで深酒をし、くだらない論理や思想をぐだぐだと話しながら性交をする、それが案外興味深いのだ。どこまで意識をなくしても、朝起きると大抵この男はしっかりとした足並みでシャワールームから出てくるからだ。だらしない喘ぎ声を上げていた俺自身はと言うと、記憶はあるがどこまでが明瞭なのかは定かではないのだ。だからそれを、一度試してやろうと思ったのだ。例え体格差があったとしても、どこぞのゲイ大将とそう変わらない体躯をしているこいつならばあるいは、と。腰に回された手のひらを手首ごと掴んで、男の頭上でひとつにまとめた。盛り上がった筋肉は抵抗の意志を出さずに沈黙したままだ。そうだそれでいい。物分かりのいい人間には好意的に接したい。
「体格差が気になるのならば、俺の上で踊るか少尉」
「それこそきみの腰が砕けないか」
「砕けないように踊ってくれるだろう」
それこそ、ここは初めてではないんだろうしな。耳元でそう呟いて、カーゴパンツ越しに男のケツ穴へと指を添わせた。男の――少尉の視線を頬に感じた。いつも沈着冷静な彼にしては珍しく、焦りではないがやや困惑しているらしい。
「酔っているのか少佐、」
「酔っていたらあんたを押し倒せない」
そう言って、もう黙れハウンド少尉、と喉奥から掠れた声を出した。煙草でかすかすになった喉を、喘いでこれ以上ひどくしたくはなかった。そのままハウンドのベルトに手をかけると、自分のと同じ構造のそいつは簡単に外れた。見上げた顔は紅潮もせず至って冷静ながら、最早言う言葉も見つからなさそうな顔をしていた。一部の兵士からカルト的な人気のあるこの男、取り乱す様は見たことがない。まさかセックスでケツ穴を掘られる身になってもこのままのつもりだろうか。黒いタンクトップを些か乱暴に捲り上げると、ジャガーの身体で見慣れた構造が目についた。女の身体とは違う固い腹筋、盛り上がった胸筋、おまけ程度の乳輪。これのどこに欲情するのか、ゲイであるあいつの下で働いていて随分経つが何も理解出来ない。触れられて気持ちが良くなるというのは実地訓練で学んだが、触れて気持ち良くさせるというのは未開の地である。戯れ程度にハウンドの乳首を革手袋越しに掴んでやった。親指の腹で撫で上がる。ハウンドは反応を示さないが、いつもの透き通った瞳は曇りがちにも見えた。照明のせいか、と右手を伸ばしてサイドランプを灯す。眩しそうに目を細めたハウンドの額に、若干ながら汗が見えた。
「暑いか」
「室温は問題ない」
「身体がか」
「…まあそれなりに、か」
短い応答をするのは、ハウンドにしては珍しかった。僅かだが普段とは違う姿を見れたのは気分が高揚するというより知的好奇心を満たされるのに程近い気がした。そうして乳首を弄くられ、腰を擦られ、首元を舐め上げてやって腰が浮くということは、この男が“バージン”でないことをも示唆していた。ならばやることはとっととやらねばなるまい、ハウンドの低い音の吐息を近くに聞きながら、重たそうな上半身を肩から掬い上げるようにして自分の方へ引き倒す。どうした、と聞いてくる声を無視する。俺の股間は素直なようだ、大将の教育の賜物か、他人とベッドに入ってそれらしいことをすると勃起するらしい。ハウンドは少なくともジャガーよりかはいじらしい反応だ、好印象を持てた。
「腕を回せ」
「、少佐、待ってくれ」
「俺はあまり気が長くない、理解しろ」
はっきりと主張してきている自分自身を寛げたカーゴパンツから覗かせる。ハウンドはそれを下目で見て、あまり気乗りしない顔をしていた。嫌なのか。そう問うと、そういうわけではないが、とどうも釈然としない答えが来る。
「あんたを相手に無理強いをする趣味はない」
「だがここまで来てあとには退けないだろう?」
「そうだな。咥えて抜くか、下の穴に収めるか、どちらが良い」
「全く以てひどい選択肢だ。きみの口から聞くことになるとは思わなかった」
ハウンドはそう言って、下着ごとカーゴパンツを半分脱ぎ捨てた。勿論俺がこいつのケツ穴に股間を押し当てているのを察してのことだろう。理解の早い男だとは前々から思っていたが、ここまで気が利くとは。誰かさんにも見習って貰いたいものだ。慣らし方は、と聞かれ、ある程度は分かる、と答えた。潤滑油代わりのローションなどあるわけもなく、仕方なく代用品としてボディローションをハウンドは提案してきた。男の部屋にあるか普通、と思ったがそこまで口に出すこともなく、静かに革手袋を取った。代わりにと言わんばかりに、手のひらへボディローションを広げた。指先に広がる柔らかい感触、清潔な香りが漂う。さて、と腰をベッドへ深々と沈み込ませ、自身の上で待つハウンドの尻へと手を伸ばす。
「少佐、ひとつ訊いても構わないかな」
ケツ穴に指を挿れようとした矢先、ハウンドの声が上から降ってきた。無言で見上げる。
「何だ」
「今までどのくらい同性を抱いたことがある?」
「経験数か。それ程多くはない」
「不安を煽るな」
「その分経験値は積んだ、とあるテクニシャンでな」

誰とまで言及しないが、聡い少尉殿は得たようにして肩を竦めた。それ以降何かを聞き出そうともしなかったため、俺も無言で行為の続きを始めた。愛撫らしい愛撫をしていなくとも、少し触れば男の逸物は簡単に勃起する。生理現象、そして普段とは違う状況下にいることによる緊張感かは定かではないが、眼前の少尉のペニスも勃起していた。左手で軽く扱く。体格の良い男だ、逸物も立派なもので俺の手のひらから存分にはみ出している。抜いている最中にも、右手はケツ穴にやって指を差し入れた。ボディローションのおかげで滑りがいい、簡単に中指は第二関節までずぶずぶと入っていった。もう一本増やす。人差し指を挿れる。俺の肩をつかむハウンドの指が、めり込んできた。痛いわけではなかろうに、とちらりと視線をやる。息を荒らげてはいないが、低く吐息が漏れていた。まあそうだろう、ここは排泄器官だ、クソを出す場所に指を挿れていいわけがない。待てと言われたら待ってやったが、さっさと昂ぶりを抑えこみたかったため、俺は何も言わずもう一本指を増やし、掻き混ぜるようにしてそこを広げていく。呻き声がようやく漏れた。
「、少佐、っ、」
「痛いのか苦しいのか気持ち良いのかはっきりしろ、階級だけではどうしたら良いのか分からん」
「き、気持ちが良、い、んだが、ぁ、ぅ、ゆ、びが、」
「指がどうした」
いつもの彼らしくもない口調を耳に受け止めながら応答する。すると、ハウンドから指が長くて、とよく聞く台詞を返された。生まれ持った身体は恵まれている方だと認識していた。長い指が何に使えるか、を考えた際に、セックスぐらいしか出てこなかったが褒められて嬉しく思わない人間は希少だった。当たり前のことを言われたまでだったが、俺は微かに機嫌を良くして「お褒め頂き光栄だ」と悪戯に返した。
「だがまさか、あんたほどの男が指だけで満足するようなことはしないだろうな」
そう言うと、ぐずぐずと溶けたような肛門から指を三本抜いた。ボディローションが半透明になっている。前を見れば大きく膨張して張り詰めた男根が、これでもかと主張していた。左手で抜いてやれば良かったか。そう思ったが、おそらく中に挿れて揺さぶればすぐにでも射精しそうな様相だ。重たそうなハウンドの腰を両手でしっかり掴むと、俺の逸物がある距離まで縮めた。体格差は大きい、運動量がいつもの比ではなく、額に汗が滲んできた。挿れるぞ、と唸る。少し緩くなったそこへ、逸物が飲み込まれていく。腰を落としていく度に、ハウンドの身体が時折びく、と震えた。重い。荷重がかかる。
「腰を、落とし過ぎだ、少尉、」
「は、ぁ、…う、っ…すま、ない、」
重みですぐに飲み込まれてしまい、あまりの熱さに呻き声を漏らしてしまう。大きな胸板が眼前にあるが、汗で滑ってしょうがなかった。腰を引っ掴んだまま、ベッドのスプリングを利用して上下に揺さぶりをかけた。ぎし、ぎし、と小さな軋みの度にハウンドは呻いた。喘ぐというには些か低すぎる声だった。
「う、は、ぁ、っあ、っく…っ、」
「…セックスの最中にしては、上品な声だな」
揶揄するように片手で彼の顎を取る。余裕のある顔とは言い難い。こいつを恐れている兵士どもに見せてやりたいぐらいだ。扇情的だとでも言えば妥当か、平素があれだけ淡白な顔つきならば、こうも豹変すれば誰でもそそるだろう。腰を変則的に突き上げてやれば、低く掠れた声が漏れ出る。汗を顎先から垂らし、喘ぐまいとする姿はどこか健気だ。処女ではなかろうに、せせら笑って律動を激しくした。スプリングのリズムが変わる。股座で爆発しそうになっている少尉のムスコを握ると、初めてやめろ、と声を上げた。
「触られたくない、か、」
「、っく、ぅ、ちが、…あっ、ぁ、ん、ああ、」
ぎゅっと途端引き締まった肛門に眉根を寄せた。絶頂が近い。急に締まるのは正直勘弁してもらいたかった、もう少し堪能する時間は欲しいのだ。だがこうも締まられてはいかないわけにもいかず、腰に乗ったままだったハウンドを押し倒して身を乗り上げた。重力で下から突き上げていた体勢から、上から貪り食うような姿勢に変わった。掠れた声を耳にしながら腰を突き動かした。ふつふつと汗が出て心臓は早鐘を打ち、目の前が白くなる。出すぞ、と言った瞬間身体がこわばった。爪を立てて、固い筋肉へと指が食い込む。歯を食い縛る。ハウンドの声も漏れず、一瞬だけだったが無言のまま胸板に額を預けて絶頂を遂げた。は、と吐息を漏らす。その瞬間、がくんと重たい相手の身体が前にずれた。お互いの呼気が当たる中、サイドランプで照らされたハウンドが汗を甲で拭きながら身体をのけた。ずる、と腸液と俺の精液まみれになった逸物が現れる。呼吸を整えて、べたつく己の身体に笑った。随分と盛大に出してくれたものだ。
「溜まっていたのか、少尉殿は」
「…我慢する方が難しいとは思わないかね」
ご尤もなことを言われぐうの音も出ない。あれだけ上で踊っていた男がこうも冷静な事後になると調子が思うように行かず、俺はふんと鼻先で笑うだけにした。疲れた身体を清めたかったが、今は一服をすぐにでもしたかった。ハウンドはシーツを下半身に覆うと、サイドテーブルから自分の煙草を持ってきて火をつけた。習うようにして己の煙草のブースターを潰す。二人分の紫煙がふわふわと浮かぶ中、そう言えば、とハウンドは切り出した。
「もう少し順番を考えてセックスに臨む、という考えはなかったのかな少佐は」
何のことだろうかとぼうっとした頭で考える。おそらくハウンドが順序よくセックスに臨んで欲しかった、と言いたいのだろうか。愛撫もほぼなくフェラもなし手コキもなしで不十分だったのだろうか。この男に限ってそういうことは思わないだろうが、唐突だと言いたいのだろう。俺はふうと白煙を吐き出してから、隣でもう一本目を吸おうとしているハウンドに小首を傾げた。
「イレギュラーなものを相手にしていては難しいだろう」
「イレギュラー?」
そうだ、イレギュラーだ。順序という決まりはレギュレーションに対して有効的であり、男と男という自然ではあり得ない(無論それが自然であると言える人間にとってはヘテロこそがイレギュラーになり得るのだろうが)状態でのセックスでは、順番も規則もないものだと考えているのだ。俺はペニスをケツ穴へ入れるようにはなったが、元々ヘテロセクシュアルだ、と先にハウンドに聞かれた言葉を繰り返す。すると、ハウンドはくつくつと含んだ笑いを返してきた。
「何がおかしい」
「これでは大将閣下も大変だな、と思ってね」
「何故あいつが出てくる」
「少佐の手綱は彼が握っているのでは?」
そう言ってふわりと浮かんだ白煙を見て、ふんとせせら笑うように口角を上げた。誰かに手綱を持たれるようなタマではない。もしも手綱を持たれるようなことがあれば、すぐにでも飼い主に噛み付いてやる。恐ろしいことを、とハウンドはくすくすと笑った。煙草の火種を消すと、スプリングを鳴らして俺はシャワールームに行く、と伝えてハウンドを残し風呂場へと向かった。順序立ててやるのならば、汗を流すのは最後がいい。その過程が大抵と違うものだったとしても、誰かのにおいを身体に残しておくのは好ましくなかった。残るのは煙草のくすんだ香り、それだけでいいのだ。

チョコレート/ヴォルフ×少年オルカ

#りぷもらった単語やお題でSS書く


夕暮れの空は複雑な色をしている。地平線に混じっていく赤と橙、そして夜になるにつれて紺青の深みが増して、世界は月明かりに照らされる。いつも見ている光景の癖に、今日はやけに目に付いた。その視界の中、火の手が上がった戦場から、塵芥が空気中に舞って夜闇に消える。何人も死んだ。死にたくなかったであろう人間や、死ぬつもりではなかった人間が。そうして自分は今日も生き残った。そういう力がある人間は、簡単に冥府へ、それこそ夜の世界には足を踏み入れられない。
「何だ生きていたか」
聞こえた声は聞き慣れた男のものだ。大振りの銃を携えた彼は、酷薄な科白を吐いて肩を上げた。
「お前が死ぬわけがないか」
「...ひどい言い様だな。人を化け物扱いか?」
「事実そうだろうがよ」
彼はアサルトライフルを肩に担ぎ直して、胸元から煙草を取り出した。風が強い中ジッポで火をつけて白煙が舞った。俺はそれを見ながら、つい最近吸うようになった嗜好品をポケットから取り出そうと胸元に手をやった。...が、目当てのものはなかった。戦闘中に落としたか。ついていない。そう思っていたところ、目の前にずいと男の手が出てきた。なんだ、と言う前に問答無用と強引に渡された。支給品だ、と彼は言った。
「俺は好きじゃねえ味だ。ガキはそれ食って寝ろ」
男は咥え煙草のまま眉根を寄せていた。己は言葉が出なかったが、彼が渡してきたそれが、支給品ではないことぐらい分かっていた。
身長伸ばせ、ガキ。去り際に彼が吐いた捨て台詞を反芻して、俺は甘い板をぱきんと割った。


(チョコレート)

茨の百舌鷹(1)/モズ(原典)

“People need to be more thinker, but majority of them never think about that coz they stopped to consider what they are.”





キャノピーから眺める世界が逆転する。あんなに求めた青は、随分遠くに行ってしまった。降下していく度に高度計がアラートを出す。サイドスティックを引いてピッチを上げなければならないのに、身体が一向に動かない。呼吸が出来なくなり、耐Gスーツが身体に食い込む。HUDを視認し、高度がみるみるうちに下がる。もう、上がれない。角度がきつすぎる。うるさいアラートを切ってしまいたかった。HOTASの操作をしようにも、頭が働かなかった。ピピピと鳴った電子音が遠くに聞こえる。急降下により朦朧としかけた意識で、フラットパネルに映し出された文字に目を見開いた。“See you again”――そこで、俺の意識はぷつりと途切れた。暗転。世界は、黒くなってしまった。


茨の百舌鷹【1】


混じりけのない青が好きだった。誰も汚していない鮮烈なまでに眩しい世界が、どこか羨ましかったのかもしれない。その領域に、自分自身が立ち入れたら、と思えば思うほどのめり込んでいった。だが、そう言えば彼は鼻を鳴らして笑ったものだった。「それは無理な話だ」と。何が無理なものか。俺だって飛べる、と意気込んでも、飛べるのは力がある者だけだ、と一蹴された。力。力とは何か。問うても、彼は首を横に振るだけだった。力は、自ら見つけるものだと。
「難しい顔してどうかしたんすか」
燦々と日が照る太陽の下、どうやら自分は小難しい顔をしていたらしい。機体の整備士の兵士が缶コーヒーを片手に、こんちは、と軽く挨拶してきた。自分の機体のメンテナンスを主に担当する整備士だが、一向に名前を覚えられない男だった。俺はベンチにかけたまま、差し入れです、と渡された缶コーヒーを手に取ると、ベンチを少しだけ空けてあげた。青年は会釈をして隣に座り込み、で、どうしたんですか、と親しげに聞いてきた。
「いつも難しい顔してますけど、今日は一段と強面でしたよ」
「そうか?そうでもないさ、普通に考え事さ」
「モズさんの考え事って、オレには想像つかないっすけど」
 馬鹿なんで、オレ。そう言って彼は脇に仕込んでいた整備関係の書類を捲る。馬鹿な男に機体を任せるようなことはしないが、と言わずに、小さく肩を竦めるに留めた。あまり言い過ぎるとこの手の性格は調子に乗る。…とは言え、難しい顔をしてしまったのにも理由があった。空を飛ぶということ。前任のパイロットの“遺産”を引き継ぐということ。ここの基地に来てからはとんとん拍子でことが進んでいった。パイロットになるのは簡単だった。ある程度の頭とある程度の体力、そして実力と適正がものをいう世界だったからだ。夢だけでなれるものとは思っていなかったから、ある意味己の力が認められたようなものだった。それにも関わらず、「彼」はこの世界(空)にいる俺をそう簡単に認めてはいなかったようだった。随分前に飛べなくなったとある前任のパイロット。…翼を失ったくせに、何を言うんだこいつは、と何度も思った。余程俺の方がうまく飛ぶし、きっと敵も多く屠れる。…面倒事に巻き込まれるのは嫌なので、おくびにも出さないが――。
「…俺の考え事が分かったら、お前なかなかのものだぞ」
「え、まじすか?うわー何だろ、えーと、今日の夕飯とか?あ、オレハンバーグ食いたいっす」
「食堂行って来いよ」
いつも通りの乾いた笑いをもって、少し頭の緩い整備士との応酬は終わった。そうだ、悟られてはならない。極々ありふれた普通のいちパイロットとして、俺はここに存在していたいからだ。脚光を浴びたりするのもいいが、そんなことより平凡な――テストパイロットとしてありたいだけなのだから。

キリヤと田中

"If it would be spoiled out, you can make it up, right Doc."
I just said that, and went forward my dearest "Combat".

ぱたぱたと窓を叩く水の音で目が覚めるのは、そう珍しいことではない。着任したこの土地は、乾燥した空気が特徴だったが、極端な雨不足に陥ったことはないそうだ。湿地帯もあれば広大に広がる針葉樹林が辺りを覆い尽くす場所もある。任務に出た際に上空から目視したとき、干からびているのはむしろ街に近付いた場所が多かった。ごつごつとした岩肌や、乾ききった大地。ヒトが住まう地域に近づけば近づくほど乾いているのは、どうにも人間の「本性」を表しているようにも思えた。心の中を覗けば覗くほど見えてくる汚い「性」。…うっすらと開けた視界に入る小さな雨粒を見て、くだらないものだと再び目を閉じた。あの「ケモノ」―――彼らは「害獣」と呼ぶ―――に比べたらどれほど知性をつけたのかは知らないが、森林破壊だ何だのでうるさく言う割には、やることはやっているじゃないか。…そういう自分も、人間の恩恵に浸かりまくっているのだが。何度も出てきそうになる悪態の代わりにふわっと欠伸を一つすると、身体を起こした。時刻は0415。任務の直前になると勝手に起き出す頭と身体が疎ましかった。早朝警戒任務、要は朝のお散歩をしてこいということだった。この時間帯に何も警戒任務に当たらなくてもいいだろうとあの馬鹿上司を問い詰めたくなるが、ラボからのれっきとしたデータを根拠にして、俺を出撃させるのだろう。くそ忌々しいにも程があるが、飛べるのならば文句は言うまい。起き抜けのぼさぼさ頭をひっかきながら寝室を素足のまま出て、リビングの冷蔵庫から一リットル入ったミネラルウォーターを取り出した。喉を潤していく冷たい水の感触に身体を震わせながら、まだ明けきってない町並みを視野に入れた。軍の住み込み寮から一望出来る、遠い町並み。しんと静まり返る中、どんよりとした雨雲から流れ出る小さな雨は、止むことを知らないようだ。北北西に、今街にかかっている雨雲よりも大きな雲海が見える。これは一雨どころじゃなさそうだ。口元を拭って、椅子に引っ掛けたままのパイロットスーツを一掴みすると、右腕につけた時計を見やる。おそらく、ドクターはもうハンガーにいる。ノータム提出と、今回の哨戒任務をするに辺り、「調べて欲しい」ことがいくつかあるはずだった。きっと害獣以外にも、俺の「機体」に関しても。また無理難題を言ってくるのだろうが、愛機を良くしてくれるのならばその期待に答えようではないか。口角を少しだけ上げて、俺はカーキ色の仕事着を身にまとった。

***

「コンディションは良好か」
いつもどおりの白衣姿に声をかけると、スクエア型の眼鏡をかけた、陰鬱そうな男が振り返った。隣で暖気を始めている機体に声が掻き消されたようで、眉根を寄せていた。
「何か言いましたか」
「コンディションは良好かと聞いた」
「…ああ、これですか」
換装したてほやほやの新型エンジンを積んで唸りを上げる「彼女」を見て、ドクターはいつもとそう変わらぬ顔で頷いた。特徴的な前進翼、カナード。その割に随分と胴体が長く、揚力をもろに受けそうな作りをしている。爆発的な推力を作ればいいだとか推力偏向システムを搭載したらいいとかこの男は言っていたが、操縦する身にもなれというものだった。
「IFFシステムを少し修正したのと、この間のフライトで機銃がダメになっていたので換装してあります」
「毎分1600発撃っていいのか」
加熱した機銃は銃身内でオーバーヒートを起こして暴発しやすい。愛機に積んでいる30mm機関砲は、それこそそれなりの耐久性が期待されていたが、何分俺の乗り方が粗いせいでよく故障するのだ。つい先日、任務で帰ってきたところ、右主翼のところに取り付けた機銃が、戦争でもしてきたかと問い詰めたくなるぐらいボロボロになっていたのだ。それを見越して言った言葉だったが、ドクターは涼しい顔をしたのちに、どこか楽しそうな――それこそやってみろと思わせるような口ぶりで静かに呟く。
「1800発でも、2000発でも。ダメになったらまた取り替えるんで」
「…それはどうも」
開発を生き甲斐にしているような男に何を言っても無駄である。実験体に等しい俺は、今まで通りにこいつを乗りこなすことが任務だった。肩で小さく笑うと、マーシャラーの横を通り、機体の舷梯に足をかける。思い出したかのように愛飲している煙草をポケットから取り出すと、咥えた先にジッポで火を灯した。
「火気厳禁ですよ」
「燃えたらまた作ってくれるんだろう」
機体をな、と言ってドクターに笑うと、ひらひらと手を振る。腕組みをしたままの彼はいつもと変わらず仏頂面であり、きっと俺の帰還よりかは「こいつ(機体)」の一刻も早い帰還を望んでいることだろう。これだからあの男は面白い。煙草のくすぶった煙が、閉じきったハンガーから、開け放たれたゲートの先へ流れていく。開門されたハンガーの奥に、誘導灯混じりの滑走路が見えた。明け方に見た薄暗い空模様は未だ晴れず、本格的などしゃぶりとなっていた。嫌なものだ、雨の中のフライトか。寒いし視界不良だしで最悪極まりない。…ただ。
ただ、あの人間の本性やら何やらが丸見えの、汚い街並みを見ずにいられるのは、不幸中の幸いか。フライトヘルメットを抱えながら、もう短くなってしまった煙草をぽいと投げると、キャノピーの中に身体を滑り込ませた。
じりじりと焼けていく煙草の残骸。その炎の揺らぎの中に、閉じ込められたかのような小さな街並みが映り――そうして消えてなくなった。
灰色の朝に雨音すら掻き消すような鳥が、一羽飛び立った。

ジャガーとキリヤ/生理男子パロ

※Is it really INFECTION, or maybe?







ひどい頭痛がするのは日常茶飯事だったが、これほどまでに鈍痛が激しいものはなかなか体験したことがなかった。機体の中できつい加圧を受けてブラックアウトする一歩手前のあの感覚が、まさか地上で起こるとは思わなかったのだ。気圧は地球の重力と変わらない、最大9Gにまでなるあの空の厳しさに慣れている俺としたことが、妙な頭痛に襲われるとは。歳だろうか、とぐつぐつと煮え込んだ頭が思うが、処理が間に合いそうにない。脳のシナプスがぶち切れているのではないのだろうか、と心配になってしまう程度には激しい頭痛。覚醒しかけた頭を振って、むくりと半身を起こす。隣には昨晩の相手であるデカブツ軍人がすやすやと眠っている。ローテーブルの上にあるデジタル時計は0545を示していて、完全遮光のカーテンの隙間からは、薄青い朝方の光が差し込んできていた。ひやりとした朝の空気に身体を震わせながら、軽く呻く。否応なく続く偏頭痛。薬を飲むか、それか治らないようだったらメディカルセンターに足を運ぶ他ないが――今はとりあえず、自分で出来ることをするしかなかった。そうと決まれば薬を使うしかないだろう。しかし今日は日が悪かったのか、ここは俺の自宅ではない。ほぼ第二の自宅と化しているが、他人の住まう家だ。よって薬の在り処など、知る由もない。故にここの家主である、隣で惰眠を貪る男――ジャガーを揺さぶりにかかったのだ。
「おい起きろ」
「ん〜、そんなとこ、ダメだって…」
妙な寝言を言ってきた挙句腰に抱きついてきたので、問答無用で柔らかい金髪が群生する頭に拳を落としてやった。痛い、と悲鳴にも似た声を上げたジャガーは、だらしがない顔をふわりと緩ませておはよう、随分早いねキリくん、と笑ってきた。
「いつもなら俺が起こす立場なのに、どうしたんだい?眠れなかった?」
べたべたと触れてくる腕を一蹴すると、俺は奴の質問には答えずに薬は、とだけ言い放つ。ジャガーはぽかんとするが、こいつもあの戦車隊の脳筋のような馬鹿ではない、俺の様子に何かを察したのだろう。先程までののらりくらりとした動作はどうしたのか、ベッド脇のシェルフの上から三番目に手を伸ばすと、メディカルキットが収まった白い箱を用意してきた。
「具合が悪いんだね?」
「…起きてから頭痛が治まらない」
今回のは尋常じゃない、と言えば、水なしで飲める頭痛薬を取り出しながらジャガーは平気かい?と気味が悪いぐらいのやさしさを与えてきた。笑ってさえいればやわらかい表情を出すこの男だが、今は髪が下りているためか随分幼く見えた。ジャガーはううん、と一つ唸ると腕を組む。
「飲み過ぎ、でもないよね…昨日はそんなに飲んだわけでもないし…変なものなんて――、」
「最近はご無沙汰だ」
ひどい容疑がかかっているらしく、俺は頭痛のせいで普段より三割増しほどきついだろう眼差しをジャガーに送ると、薬を口に入れて嚥下した。苦味を舌先に感じるが、良薬口に苦しと言うようにきっと効き目があるはずだった。これで治らなければとっととメディカルセンターに行くしかない。新兵教練のスケジュールも押しているし、カリキュラム案の再編成も戦車隊に合わせねばならない。面倒なことに有給は取れない状態だ。オヤジさん、それから戦車隊の少尉に仕事を押し付ければあとが怖いのもあったが――。兎角、今の俺に休める時間などなかったのだ。
薬の後味が気持ち悪かったので、口を濯ぐために立ち上がる。視界が歪む。本当にひどい頭痛だ。偏頭痛持ちだが、こんなものは経験したことがないのだ。大丈夫かい、とジャガーの腕が伸びるが、俺は一人で行ける、とそれを払って広い洗面所に向かった。今だけは無駄に広いジャガーの家を恨みたくなったが、体調が悪い今は些細なことに腹が立ってしまうらしい。ガンガン鳴る脳の奥を無視してしまいたい気持ちになりながらも、洗面所に自力で辿り着く。大きな一枚鏡の前に、ひどく不機嫌そうな男が映る。濃い群青の髪は目元にかかり、やや青白くなった肌が人工灯に晒されている。笑ってしまいたくなるくらいひどい顔だ。妙な病気にでも本気でかかったのか――まさか性感染症か、と汗が吹き出かけたが、ここの基地ではそういった類の予防策はきちんと為されているのだ。上に立つ男があれだけ性に奔放であったら、そうなるのもおかしくはないだろう。だがこれは――本当に異常だ。身体は弱い方ではない。弱かったらパイロットなどやっていられないものだし、今だってそれなりに鍛えている。自分の身体でどうしようもなくなっているのは、胸の辺りにぷかりとある肺だろうが――。そこまで考えていた丁度そのとき、妙な奇声が耳に入った。ジャガーの声だった。頭痛で悩む俺にとってはどんなものでも痛みの増幅剤にしかならないと言うのに――。うるさいぞ、と聞こえないだろうが呟くと、どたどたと足音が近付いて来た。
「うるさいと言っているだろうが――」
「キリくん、ちょっと」
俯き加減で鏡を見ていた俺は、ジャガーの声で視線を上げた。鏡越しながら視界に映ったものに、俺は思わず目を丸くした。所々、染みのように真っ赤に――血色に染まったシーツを胸に、ジャガーが立っていたのだ。
「…何だそれは」
「起き上がってちゃんと見てみたらこうなってたんだけど。…キリくん、怪我なんてしていないよね?」
言われ、ジーンズだけ履いた下半身と裸の上半身を見やる。傷はない。平らな腹も胸も、大丈夫だ。――そう言おうとしたが、ジャガーは長い腕で以って俺を抱き寄せた。唐突のことだったので何をする、と手が出かけたが、ジャガーが随分と真面目な顔をしていたもので、呆気に取られてしまう。抱きすくめられるような形で待っていると、ジャガーはすん、と鼻を鳴らした。
「…キリくん、何か血の臭いがする」
言われ、腕やらを鼻先に持ってくるが。俺にはボディソープの香りしか感じられなかった。頭痛のせいで鼻が鈍っているのかもしれない。そう言って肩を竦めたが、ジャガーはどこか思い詰めたような顔で俺を見つめてくるだけだった。端正な顔、薄赤い双眸と分厚い睫毛に睨みを返す。…何なんだ、さっきから。
「…ごめん、先に謝っておくから」
「何を――おい!」
ジャガーは言い切ると――俺の緩いジーンズに手を突っ込んだのだ。こいつが昔から変態なのは知っていたが、まさかここまでとは――!人が具合が悪いのにいきなり性器を掴むだなんて鬼畜生にも程がある、俺はずきずきする頭を放り、分厚い筋肉の壁に右拳を突き出し、ふざけるな、と声を荒らげた。
「いきなり何をしている!離せこのくそ野郎!」
ジャガーとの力関係は歴然としているため、どれほど俺が暴れようが意味が無いことは知っていた。だがそれでも俺にも矜持というものがある。いきなり揉まれてぐずぐずにされるなど言語道断――。そこまで考えて、俺ははて、と揉まれる感覚に既視感を抱いた。朝起ちをしていないにも関わらず、ジャガーが触れるそこは何故か濡れた感触があった。俺自身は自分の逸物が興奮しているようにも見えないし――感じないのに、だ。おかしい。何かがおかしい。俺は真剣な表情のジャガーを見上げる。
「…キリくん、ジーンズ濃い色ばっか好きだもんな。これじゃ染みても分からないわけだよ」
ジャガーは言うと、俺の股ぐらにあった手のひらを取り出した。大きな骨ばった手のひらは、今や真っ赤になっていた。さっき視界に入れたシーツと同じような色合い。ふ、と鼻先に香ってきたその臭いに、俺は眉を顰めざるを得なかった。
「…血が出てるね」
どこから、なんて質問は愚問になり。俺は更にひどくなった頭痛に、まさに頭を抱えたくなった。
時刻は0600。のどかな鳥の鳴き声に混じって、絶句に近い溜め息が漏れ出していた。


(続かない)
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