色がまるで違うと認識するのはベッドの中が多かった。丸裸になって肌が重なるとき、白いシーツの上で散らばった相手の髪の毛を眺めたとき、決まってそう思う。自分の肌は元々浅黒く、彼の肌は白人らしい色をしていた。その二つが折り重なるときなど、セックス以外になかったから余計だった。
あたたかい感触があった。ルーヴァンの手のひらが頬に触れていた。意識が戻る。また物思いに耽ってしまっていたらしく、素直に謝った。すまない、と言うとルーヴァンはおいおい、と掠れた声で笑う。
「やりたいって言い出したのはお前だろ」
集中しろって、と結合したままの肛門がぎゅっと締まる。熱くて狭い感覚が陰茎へと伝わると、むず痒さと快楽が同時に襲い来る。ルーヴァンは意地悪をするのが得意だった。セックスが得意というわけではなく、悪戯じみたじゃれ合いが彼は案外好きらしい。男と遊んだことはないと本人は言っていたが、この好色っぷりを見ると彼が益々分からなくなる。
モデルらしい無駄な脂肪がついていない脚を抱え込み、膝を深く折り曲げる。挿入部がより角度がきつくなると、ルーヴァンは呻きとも喘ぎともつかない声を漏らした。
「、っ、き、つ、…」
「ぼんやりしていた詫びをしようと思って」
「いい、度胸…だな…、ぁっ、は、ガル、エラ、動くな、よ、ん、」
動くなと言われて、この状態で素直に従う男がいれば会ってみたかった。悪戯に煽ってくるのならばそれに応えるまでだと思い、白い脚を掴みながら腰を打ち付けた。
「あ、ぁ、う、ごくな、って、っ、バカ、やろ、ぁ、」
「動かなくては、射精、出来ない」
「っ、う、くっ、そ…!」
罵りだろうか、フランス語に親しくなかった為ルーヴァンが言った言葉は理解出来なかったが、何となく仕返しのようなものは出来たらしい。がくがくと揺れるルーヴァンの頭を支えて耳朶を噛む。中へ舌を入れると逃げようとするがそうはさせない。モデルをしている人間の肌に情事の痕跡を残すのは愚者がすることだが、舌を耳に入れるぐらいは許されるだろう。気持ちが悪いのなら手が飛んでくるのは分かっていた、それがないと言うのならば答えは一つだった。
「ルーヴァン、」
「、みみ、しゃべ、るなっ、あっ、」
耳の裏の辺りから彼の臭いがした。シャワーを浴びても、香水をつけても、セックスのときだけはやけに臭いが鮮明になった。人間が生きている臭いだった。戦場で死ぬ程嗅いだ死臭ではないその臭いを嗅ぎつつ、腰は止めなかった。柔らかくはない男の尻に太ももが当たり、ルーヴァンの膨らんだ逸物からは先走りが漏れ出してこちらの腹を濡らしている。
中に挿入していた陰茎から、強い熱さがこみ上げてくる。そろそろだろう。
上体を起こす。快感に耐えながらも、必死にシーツを掴むルーヴァンをきつく抱き締めた。身体が熱かった。
「…、いくぞ」
「ぁ、あっ、ガルエ、ラ、俺も、っ、い、ぁ、ぁ、あっ、!」
シーツから手を離したルーヴァンが背中に手を回してきた。引っかかれ背中に痛みが走るが、そんな些細なことはどうでも良かった。ぐずぐずに蕩けた熱い肛門がすぐに狭まり、瞬間目の前が真っ白になる。体液と共に欲がぶちまけられ、うねった肛門の中へと精液を吐き出した。同時に勢い良く飛び出してきたルーヴァンの白濁を腹に受け止める。
出切った辺りで、こめかみからぱたぱたと汗が流れてきた。うるさい鼓動は戦場にいるときを思わせたが、セックスと人殺しは酷似しているようで正反対の位置にいる。好きでしているか、していないかだ。
首筋から流れていった汗が、ルーヴァンの腹にぽつりと落ちた。繋がったままだった部分からずるりと逸物を取り出す。放心していたルーヴァンが低く笑う。
「…いくの遅いんだよ、お前は」
「悪かった。早漏よりマシだと思うんだがな」
「そういう話じゃないよ」
胸を上下させながら呼吸を整えたルーヴァンは、犬を撫でるように髪の毛を乱してきた。あたたかい手のひらは案外気持ちがいいもので、そうされるのも悪くない、ただただそう思った。