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※歯医者さんごっこ/桐仁×夜鷹

遅漏だと罵られることもあれば重宝されるときもある。特に女相手だと、先に達したいからか後から射精する男は今時貴重だとよく分からない褒め方をされた。逆に男相手になると話はうまく転がらず、とっとといけと睨まれることが多かった。こちらが扱いてやってケツ穴の前立腺を弄って悦ばせてやっていると言うのに、でかい口を叩く奴は案外多いのだ。今眼前で掘られて逸物を勃起させているこの男も、早くいけと豪語する割には「抜いてくれ」と嫌がる素振りは見せない。要はそういうことなんだろう。女の役割を与えられ、あられもなく喘いで姿態を晒すことに対して負の感情を抱いていないのだ。気持ちが良いという、考えてもみなかった意外な報酬が、女役には無条件で与えられるという事実に溺れ、こうして腰を振るのだ。
シーツを掴んだり俺の腕や腰に手をやったりと、夜鷹は忙しかった。ケツ穴にぶち込まれた逸物の熱さと快楽で頭はいっぱいになっているらしい。喘ぎ声を止めることはなく、魚のように口を開けて酸素を求めている姿はいつもの奴からは正直想像がつかない。腰を打ち付けながら、ふと汗だくの夜鷹の顔に視線が向いた。半目だったり、天井を眺めたり、時々目をつぶって呻く男の、開いた口に興味が向いた。綺麗な歯列が見えたからだ。大体この傭兵稼業に就いている奴らは、差し歯が多い。戦場での名誉ある負傷、はたまた乱闘騒ぎを起こして無駄な怪我による歯の喪失など、挙げたらきりがない話なのだが、夜鷹の歯列は自前のもののようだった。揃った歯の並び、あまり見ることのないであろう分厚い舌の動きが、どこか好奇心を擽ってきたのだ。夜鷹の腰に添えたままだった左手を動かし、顎に当てて唇を親指で撫でた。異変に気付いたらしい夜鷹が、目線を微かに向けてきた。
「…なん、だ…?」
「珍しいものを見たかっただけだ」
言って親指を口腔内に捩じ込んだ。噛むなよ、と取ってつけたような一言を言うタイミングが遅れ、反射的に夜鷹の歯が肌に食い込み、痛みが走った。一瞬だけ感じた口の中の熱さは、成程女の膣に似ているような気がした。すぐに手を取り出すと、噎せた夜鷹がふざけるな、と人殺しよりも恐ろしい形相で叫ぶ。
「桐、仁、っ、ぅっ、何してる…!」
「そう怒るな。すぐに離しただろう」
あと少し指を入れたら、上顎の軟口蓋の先にある咽喉まで届いたかもしれない。まあ身体構造上無理な話で、夜鷹が嘔吐しただろうが。にたりと笑って修羅のような顔をした夜鷹の頭を撫でた。
「プレイの一環だと思え」
「、っざけるな、お前、っあ、あっ、き、桐仁、動くなっ、ぁっ、は、ぅ、っ!」
こちらに反撃してきそうな夜鷹の雰囲気を察して、繋がったままだった場所を揺すり動かした。ぐずぐずに蕩け、何が混ざりあったのかもう分からない肛門に昂った陰茎を捩じ込み、挿入を繰り返した。夜鷹は再び呻き始めた。だがひとつ学んだらしく、今度はなるべく口を押さえるようにしている。学習能力はあるらしい大男に苦笑しながら、俺は手薄になっている奴の乳首をそっと掠った。

※スケベ習作/桐仁×夜鷹

時々習慣のようにこの男を抱いていた。好みだから、という取ってつけたような理由ではなく、ただ単純に気軽さと手軽さが一番だったからだろう。勿論セックスの相性は大事だろうが、自分と同性という時点で大した問題ではなくなる。穴があって、そこで射精出来たらいいのだ。意思疎通が出来て、程良い関係性だったらそれだけで良かった。
褐色の肌から滑り落ちる汗の流れを辿った。俺には今相手の剥き出しの肩しか見えなかったが、シーツに吸い込まれていく水滴の動きがやけにスローモーションに見えた。ただ漠然とした頭で、何も考えずにセックスをするのは気分が良かった。夜鷹が忙しなく喘いで腰を振るものだから、骨盤の骨張った部分が当たって痛いぐらいだ。久々のセックスだったからかは知らないが、今夜の夜鷹は随分と節操なく、しがみついて離れようとしなかった。もう何度目の射精なのか、こちらの腹に体液を撒き散らして欲しがる様は動物のそれに似ている。女でもここまで欲目を出してくる奴は稀だと言うのに、シャブでも決めたのだろうか。低く笑って突き上げた。ケツ穴の奥までしっかり収まった肉棒と内壁の隙間から、溢れ出てくる体液が太股に張り付いた気がした。
「熱烈だな夜鷹」
耳朶に噛み付いて舌を入れてやる。予期しなかった行為に驚いた夜鷹が、恨みがましい目で睨んできた。だが腰を揺すった瞬間すぐにまた喘ぎ始める。
「、っ、ぅ、…く、…っあ、ぁ、」
「気持ちが良いのなら、素直に喘いでいるんだな」
反り返った夜鷹の陰茎、その根元を片手で握り込む。こちらの言葉が通じているかどうかはさて、分からないが、言った通り「素直に」反応しているのは確かだった。熱を持った黒く太いそれを上下に扱きながら、律動を早く、深くしていった。

お邪魔しました/キリヤ+ジャガー

目の前の丸太が巨乳の碧眼美女だったらどんなに良かったことか。俺は眉間に皺が寄るのを自覚しながら煙草の煙を吐き出した。見せたいものがあるから、とゲイ野郎に言われ、教練上がりの疲れた身体を引きずって奴のマンションの一室に上がり、現在眼前で繰り広げられる奇妙な宴に正直辟易を通り越して言葉をなくしている。可愛い下着を買ったんだ、と四十路をとうに超えたどでかい筋肉達磨に微笑まれても、ゲイではない俺には舌打ちをするしか応酬が出来ない。似合っている、可愛い、抱きたいなどと言った言葉を期待するのならばお門違いもいいところだ、その珍妙なフリル付きの下着を着てゲイの溜まり場に赴いたらいい話だった。俺は手近にあった灰皿にまだ吸えそうな煙草を押し付けて踵を返した。
「帰る」
「えっちょっと、コメントそれだけ?勿論ご飯は用意してるし、冷えたビールも、」
「煙草を一本馳走になった。長居は無用だろうが」
少しだけ振り返ると、捨てられた犬のような顔でジャガーが俺を迎えた。煙草は俺の物だが、吸った空間は少なからずこいつのプライベートエリアだった為付け加えた一言だったが、美味い飯と冷えたビールに誘われたところでそう簡単に是とは言わない、言いたくない、俺は早く帰って眠りたい。
「あ、お風呂もあるよ」
俺の不機嫌そうな顔つきに何を勘違いしたのか、居座れる理由を口にしたジャガーがあまりにもいい笑顔だった為、半身を捻らせたあと中指を立てた。いい歳の男が汚い格好を晒しやがってくそったれ。言い残して足早に玄関先に歩み、下着姿のジャガーを一人残して外に出て、扉を閉めた。

その男について/ジリア+桐仁

この男が他者に対して抱く感情は、本当に特筆すべきところがないのだ。愛情、憤怒、悲哀、嫉妬、劣情、何も無い。話せば分かるのだ、彼はその全ての感情を引っ括めて「自己精神」の内にある為、他人と話しても大きな揺らぎはおろか波さえ立てないのだ。自分の英雄じみた精神性を美徳としている?違う。大人の態度をとれることが当たり前だと思って演技をしている?これも違う。彼は、そういう生き方が「普通」なのだ。激情に揉まれることもなく、涙を流し悲しみに包まれることもなく。それが彼の感情の動かし方だった。
「戦場で激しいのはどうして?」
情事を終えたあとのピロートークはあまりしない主義だった。彼は、だ。私は自分を抱いた(或いは自分が抱いた)人間の中身を観察するのがいつの間にか習慣になっていた。セックスというコミュニケーションと、言語によるコミュニケーションは共通しているようで少し違う。言葉を介した意思の疎通は、互いの利益だったり、忌避しているものを丸裸にしてくれる。桐仁は私の方に背中を向けながら、「主語がない」と煙草に火をつけて口にしてきた。
「あ、ごめんごめん。戦場で見るきみと、こういう平時のきみは随分印象が違うなって思って。態度だったり、表情だったり」
鍛えられた背中を眺めながら、そう答えた。桐仁は答えをはぐらかす癖があった。私の予想通り、彼はそうでもないだろう、と煙を細く吐き出した。
「戦場での自分と日常での自分が大きく乖離していたら、それは精神科を勧めるところだ」
「人間の中身とか本質って、時と場合によって左右されるものだよ。生理前はイライラしたり、大事な発表の前は緊張したりするでしょ?」
「悪いが男には生理がない」
「ありゃ、そっか…。ってそうじゃなくて!」
うまい具合に話を逸らして誤魔化されそうだったところを修正する。彼はこういう癖もある。話の主導権を握らせないようにする。尋問官としての役割を与えられた桐仁にとってみれば、常々心掛けてしまう抜けない癖だ。ベッドから起き上がると、煙草を嗜む彼の背中に覆い被さる。
「きみの戦場での様子は、どういう感情が占めているのか私には分からないんだ。どこか切羽詰まっているようにも見えるし、飄々としているようにも捉えられるし」
「ジリア、乳首が立ってるぞ」
「話をすり替えない!実際のところ、きみにとっての戦場って何なの?自分の力を試す場所?ストレスをぶちまける場所?」
ちょろまかしてくる桐仁の横顔を見つめた。煙草の甘い香りを静かに吐き出した彼は、鼻で小さく笑ったようだった。癇に障る笑い方だ。むっとした雰囲気を察したらしい桐仁は、空いている片手を私の後頭部へ回し、子供をあやすように撫でてきた。
「興味からくる、好奇心。自分自身の実力とノウハウを生かせる場所。それが戦場だっただけの話だ」
ウォージャンキー、ウォーモンガー。戦争狂を指す言葉はありふれているが、桐仁はただ単に、戦場が自分に見合った土俵だと語った。そこに巣食う感情は、ある種の戦場への執着心だ。恐怖心が芽生えるのも理解出来るが、それよりも好奇心が勝るのだと。私は桐仁の手を払い、彼の隣に腰掛けた。スレートグレーの薄情な目がこちらに向く。
「楽しいんだ?」
「簡易な表現ではそう言える」
そう言い切って、彼は煙草を灰皿に押し付けた。愉快な話だ。切羽詰まっているわけも、激情を抱いているわけもなく、彼はただ戦争状態を娯楽として捉えているのだ。
私は微笑んだ。人間としてと言うより、動物として本能のまま生きているこの男が、あまりに不可思議ながら魅力的に見えたからだ。剥き出しの鍛えられた腕をぱしんと叩いた。
「桐仁のそういうところ、嫌いじゃないよ」
「どういうところだ」
「素直な子供みたいなところ」
彼は苦笑を浮かべた。歪んだ精神性というより、自由な考え方を持った素直な人間だ。戦争がいけない、戦争をしてはいけない、そんなバイアスをとっぱらって生きている。獣にも似たその内面は、どこかの誰かに――私に似ていた。

a その時美しいと思った/ヨダカ

美しいと思った。本来無形のものが生者の手の届かない場所ではっきりと形を成している。火薬から生まれ出でた炎が鉄塊を舐めるように這い出て黒煙が空に滲んでいくまで、命を捨てずに済むのなら立ち止まって見ていたいとも思う。
誰かが誰かを殺す算段で作ったそれは、誰かを上手く殺す事ともし殺せなかった時の懸念で頭がいっぱいの者にはきっとそんな風には見えないのだろう。いつ掲げたかも忘れてしまった大きな大きな目的の為に殺す対象のぼやけた殺意は、隠し場所と構造さえわかってしまえばただのジャンクと化す。
人の命を脅かすものを美しいと思うのは、その魔の手も敵の手も己に届かないと思っているからだ。俺はその手を断ち、奪い御し再び火を灯して終わらせる手段を持っている。相手が一生懸命考えようやく形にした理想への篝火を台無しにする方法を知っている。
だからこそ美しいのかもしれない。俺が絶った夢の墓標が俺の手で殻を破って姿を現している。
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