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耳が痛くなる程の寒さはもう慣れたものだった。吐く息も白く、もしかすると鼻の頭は赤くなっているかもしれない。冷え込んだ冬の夜は人が仕事をするような環境ではないと思う。それでも、誰かがあたたかいベッドの中で熟睡出来るよう、明日の朝食を美味しく食べられるよう、安寧の日々を害獣から守るのが仕事だと思えば、納得出来たものだった。例えばその"誰か"が明後日には自分かもしれない。そう考えれば、どんなにきつい仕事だろうが汗水垂らして働けた。
平凡な日常であると断定するのは自分自身の脳であるが、理解力を伴わなければ古びたVHSの映像を垂れ流しているようなものだ。確かに大尉はそう言っていたような気がする。チビにはVHSを扱った記憶はほんの僅かながら、彼が意図した言葉の意味は少しは分かったような気がした。理解する力がなければ、毎日の繰り返しは記憶に残っても記録として残らない。何故いつもより三十分早めに起床したのか、何故食堂で玉ねぎ多めのサラダを食べたのか、何故機体整備の時間が普段より押してしまったのか、そんな些細な日常の風景に、理由付けをすることが必要なのだと。
男の身体だ、女の身体だ、そういう区別はいざセックスを始めた時には既に些細な問題にしかならなかった。ただ単に排泄に用いる箇所であるか、もしくは子供を作り出す部分であるかの違いだけで、いざアナルセックスをするとなるとそこに男女の境はなくなる。強いて言うならば、女特有の豊満な胸も、柔らかい肌も、か細い骨付きがないぐらいで、この子供を抱くことに抵抗がなかった。それだけの話だった。
大食漢でもないしどちらかと言えば同年代の中では食が細い方なのかもしれない、自分自身の身体を鏡で眺めてから妥当な判断をするとすれば「がたいがいい」とは到底思えないものだと、チビは人知れず溜息をついた。無論食事は毎食摂取しているし、バランスの取れた睡眠時間や運動、仕事のストレスもうまいこと発散出来ている、育ち盛りの筈の身体が伸び悩んでいるのは間違いなく遺伝のせいだろう。誰かを恨んだりはしないが、自分が選択したくても出来なかった事柄のせいで、つるんでいる仲間達の中でも一番背が小さいのは、少し納得がいかなかった。
「まだ気が紛れると思うんです、その、何というか…言ってる意味分かりますか、あの…大尉…?」
年 齢 | 33 |