長義は一つの部屋の前、がりがりと親指の爪を囓って腕を組み扉を睨み据えていた。
その先にあるのは手入れ部屋であり、傷付いた刀剣男士の治療が行われている。
傷付いた、そう、傷を付けたのだ。
他ならぬ長義自身が、愛して病まない我が子と呼ぶ"鳥"の雛を。
母と呼び慕う主の傍でそれを支える白い月。
彼の伴侶には、特殊な刀剣男士が据えられた。
顕現した時より仮初めの人格を与えられ、今もなお魂を縛られる哀れな刀。
まっさらで無垢な心を持つ、鶴丸国永。
染めやすく、染まりやすいその心を、長義は愛している。
そうして、同時に強く憎んでもいる。
黒鶴は"鳥"だ。
主の駒を増やすため、その身には番の子を孕むための器官がある。
自分がどんなに望んで番の精を腹に受けても、長義に子を孕むことは出来ない。
けれどそれが自分の子の役目であるならば、それを全うさせる事が長義の悦びだ。
待つこと暫し、待ちに待った扉が開く時が来た。
「うわっ、長義!」
「え、ちょーぎ?」
中では二振りの白い小鳥が舞い踊る。
その奥には一式の布団があり、横たわる姿もまた、真っ白な小鳥。
「ああ、やっぱり……せっかく無垢な黒に染まっていたのに」
「……ん、手入れ中、変わったんだ」
「長義、手から血が出てる」
眉を下げ、落ち込んだ様子を見せる二振りに長義は構わないと頭を撫でて部屋へ入った。
傷跡の消えた身体は桜色に染まり、意識のない頬は上気している。
手入れを済ませた後も確かに麝香が効いている事を確認した長義はその膝裏に手を差し入れ、羽根のように軽い身体を抱き上げた。
「後は"蜜壺"ですませるから、お前達は母さんに伝えて。たずはちゃぁんと、俺が染め直すよ」
うっとりと、これからまた染まるだろう黒を思い浮かべて笑む。
小さな二振りの鶴丸国永は頷き、手を取り合って廊下の奥へと進んでいった。
それを見送った長義もまた、黒鶴を抱き上げて"蜜壺"と呼ばれる部屋へ足を進める。
そこは、淫猥な"花"達の咲く場所。
穢れに闇落ちた刀剣男士達には欠かせない、蜜を生み出す為の部屋。
主からの霊力の他、その力を維持する為に蜜を栄養源としていた。
"花"達に孕む器官はない代わり、その体液全てが淫狂わせる蜜となる。
そんな"花"達が淫事に耽り、蜜を摂る為の部屋。
"蜜壺"の中でも長義専用の室へと入り、くったりと腕にしなだれる身体を布団の上に横たわらせる。
「たず、たぁず?」
呼びかければ、白く長い睫が震え力なく瞳が開かれた。
焦点の合わないそれはぼんやりと長義を見つめ、緩慢に瞬きをする。
「ふふ、いいこだね」
無垢にこちらの言葉に首を傾げ、頭を撫でれば気持ちが好いのか眼を細めて擦り寄せてきた。
手を離し、少し間を開ければ眉を下げて身をよじる。
用意しておいた香立てに麝香を醸し、枕の近くにある文机に置いて戻った。
その際にいくつかの玩具を持ち出し、黒鶴に見せる様に傍へ置く。
傍へ戻ったことに安心をしたのか、黒鶴が嬉しそうに笑みを見せた。
けれどすぐに表情は苦しそうなそれへと代わり、はぁ、とか細い吐息が小さな口から漏れる。
「ああ……たず、やっぱり苦しいんだね。あの子狐……悪い物に当てられたから、ここの空気に馴染めなくなったんだね」
「……ん、はふ……」
「大丈夫だよ、全部俺に任せて。さあ、はじめようか?」
「はぁ……やぁ、ん……はじぃ、めぇ……?」
香る匂いに顔を歪めて身をたじろがせた黒鶴は、それでもとろり、と蕩けた瞳で長義を見ながら微かに首を傾げた。
白月の瞳により、邪魔な仮初めの人格を封印された黒鶴は、今は無垢な雛鳥そのもの。
普段から気が強く、無邪気な面を見せる彼の剥き出しの心は、今は長義だけを縁とする。
舌っ足らずにも長義の言葉を反復し、きゅうと手が握り込まれた。
可愛らしくて愛おしい、長義の大事な雛鳥。
「いい子にしていればすぐに終わるよ? だって俺は……下準備だけ。君を染め上げるのは真っ白のあの子じゃないと」
ちゅ、と頬にキスを落とせばゆるりと笑みを浮かべ、むずがるように身をよじる。
その申し訳程度に合わされた着物の帯をするりと解き、真っ新な生まれたままの姿を晒させた。
黒鶴はキスが気持ち好いのか、上気した頬の桜色を深めてされるがままに身体を開く。
「ん、んん……ぁ、……おれぇ、いぃ、こぉ? しろ……しろい、ちゅき……」
「可愛いね。そう、たずが大好きな白月に一杯可愛がって貰えるように、おめかししようね?」
オウム返しに言葉を連ね、瞬きを繰り返す度に蜜色の瞳が熱を孕んで色を濃くした。
白月、という言葉に花が咲くような笑みを見せる。
本能で番を理解しているのだろう、それに長義は愛おしさで胸を締め付けられた。
こんなにも純粋無垢な可愛い小鳥を、愛おしい子供を奪おうだなんて。
陶磁のように白くシミも傷もない太腿の内側を、するりと撫でる。
びくり、と跳ねた身体が、爪先をきゅうっと丸め込んで長義の手ごと太腿を内股に挟み込んだ。
今はまだ触れていない中心は既に兆し、透明な蜜を垂らしている。
「あ、ん、んんっ!」
「ふふ、かわいい、わかいい……俺の可愛い子。たずはここを触られるのが好きなんだね」
「はぁ……しゅ、きぃ……! たじゅ、らいしゅ、きぃ……」
こくこくと頷き、すき、すきと同じ言葉を口にしながら呼吸を求める様に口をぱくぱくと動かした。
その度にわだかまった空気が対流し、焚いた麝香の濃い匂いが立ちこめる。
くぅ、と真白の髪を振り乱し、桜色に頬を染めた顔が苦しげに顔をしかめ、左右に頭を振りたくった。
「た、じゅ……だぁ、れ? たじゅ、て……おれ、おりぇ、は……」
「余計な事は考えなくて良いんだよッ」
太腿を撫でていた手を割り開くために動かし、中心をぎゅうと強く握り込む。
その瞬間におとがいを逸らして目を見開き、甘く甘く嬌声を上げた。
「ひゃあああッ!? やあ、しょれ、ひぃいいんっ!!」
「たず、俺の可愛い子。君は黒鶴、この本丸の刀で、白月の番で、俺の可愛い可愛い愛しい子だよ」
「ひっ、は、あ、ぁあッ!!」
教え混むように耳元で、その耳朶を食みながら囁く。
面白いほど快楽に従順で、白魚のような身体が白いシーツを掻き乱した。
透明な蜜をししどに垂らし、長義の細い指がぐちゅぐちゅと粘性の液体で濡らされていく。
少し強いくらい、痛みを感じる程度が特に良いらしく脇目も振らずに口端から涎を垂らして涙を流した。
「あっはははは! 可愛いよたず、最高……ああ、たずは後ろの方が良いかな?」
「か、――あひゅッ!!?」
長義の身体で無理矢理に身体を割り開かれ、閉じられない足を尚も閉じようともがき布団を乱していく。