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幽霊塔の吸血鬼 8



「レイリ…?」
「レイリじゃねぇよ、俺はイリア。」
レイリは別人のような乱雑な口調でそう名乗った。
確かに、身に纏う雰囲気は一変している。
イリアと名乗ったそれは、レイリの姿で、声でにんまりと笑った。
違うのは瞳の色が真っ赤に染まっていることくらい。
それだけなのに、まるですべてが正反対だ。
「俺達は二人でひとつなんだ、レイリばかり可愛がるのは狡いだろ?」
蛇のように絡み付く視線にシュノが眉を潜めた。
「何が言いたい?」
「俺にも楽しませてくれって言ってんだよ。
可愛い俺の半身を好き勝手させてやったろ?」
そういってイリアが嫌味な笑みを浮かべてシュノを押し倒した。
「新月はな、混血にとっても意味があるんだよ。」
はだけていた着物に手を入れる。
よく見ると、羽の片方が黒く染まっている。
可愛らしいと感じていたそれは今はただ禍々しい。
「吸血鬼と天使の混血ってのは結構複雑なんだぜ?」
「だから何だ、レイリを返せ」
「残念だがそれは出来ねぇな。
言っただろ、ここからは俺の番だ。
次の満月までな。」
「意味わかんねぇ、良いからそこどけ」
シュノがイリアを押し退けようとして、力が入らないことに気付いた。
「…テメェ…何しやがった」
「俺はレイリより力の使い方を把握している。
吸血鬼の血は催淫効果があるのは知ってるだろ?」
シュノは目を見開いた。
「勿論、レイリの血にもあるんだよ。
昨日はそれで理性が吹っ飛んだろ?」
にやにやと意地の悪い笑みでシュノの着物を脱がしていく。
抵抗しようとしているが、どういう訳か力が入らない。
むしろ体の芯が熱くてもどかしい。
「ふぁ…」
シュノの着物の帯を解いて手首を縛ると、イリアは頬に手を添えてにっこりと笑う。
「ねぇ、シュノ…いいよね?」
まるでレイリのふりをする様に甘えた声を出して首をかしげる。
「っ…やめ…」
「だーめ、やめない」
舌舐めずりして、ごくりと唾を飲んだイリアはシュノの着物の裾から太股に触れた。
「んっ!!」
ビクッと体が震える。
まるで触られた部分だけが自分の体ではないみたいに。
そのままレイリの身体に収まっていた自身をゆっくりと引き抜かれ、零れ落ちた精を指で掬い上げる。
「シュノは綺麗な顔してるから顔射とか似合いそうだな」
「っ、絶対に、ごめんだ」
イリアを睨み付けるシュノの脚を大きく開かせ、身体を割り込ませるとシュノの精液で濡れた指を秘部に押し込んでいく。
「ひっ――!!」
「流石に後ろは処女か…」
ぺろりと唇をなめて、にんまり笑うイリアにシュノは押し返そうとした。
「シュノ、だめ」
「っ…やめ…ふぁあっ!?」
乱雑に指をかき混ぜればシュノはびくっと身体を震わせた。
「いい声で鳴けるんだな?」
「るせ…だま…ひぁ!?」
「ここがいいのか…」
シュノの弱いところを指で徹底的に責めれば、萎えていたシュノ自身がゆるりと勃ちあがる。
「言っとくが、俺はお前みたいにやさしく抱いたりしないぜ」
イリアは口の端を吊り上げてシュノの両足を抱えた。
「っ、やめ…」
「いやだね」
そっと入り口にイリア自身が宛がわれる。
軽く慣らされたとは言えそこは固く閉ざされている。
しかしイリアは気にするようすもなくそのままシュノの秘部に強引に自身を捩じ込んできた。
「いっ…てぇ…」
シーツをきつく握り、唇を強く噛む。
引き裂くような痛みに耐えながら、目の前の愛しい顔か楽しそうに歪むのが腹立たしくて声をあげないように必死に耐えた。
イリアは根元までゆっくり押し込むと、緩急をつけて激しくシュノを揺さぶった。
「いっ…ぁ、んんっ…っ」
「声出せよ、詰まんねぇだろ」
「誰がっ…」
しかし痛みは次第に快楽に代わり、身体が熱くなってもどかしい。
イリアはわざとシュノの良いところを外して突いてくるので、余計にそれがもどかしくてシュノの理性を少しずつ侵していく。
「ん…ぁ、んんっふ」
足を広げさせ、胸につくぐらい押し込むとシュノの唇を奪った。
「ん…んっ…」
シュノの抵抗が次第に弱まると、イリアはニヤリと笑った。
「は…ぁん…」
グチュグチュとシュノ自身を扱きながら奥を突き上げると、シュノがイリアにぎゅっとしがみついた。
震える手で、服の裾を噛み締めながら声を殺すシュノが可愛くて、そっと頬に手を沿わすと甘えるようにすりよってくる。
どうやら完全に理性が飛んでしまったようだ。
「ああンっ、奥…いやだっ…」
「可愛い声で鳴いて、本当はいいんだろ?」
「ひっ…う…」
生理的な涙を浮かべながら、揺さぶられるシュノはイリアの背中にきつく爪を立てた。
「中に、出すからなっ!!」
「ぅあ…やだ…やめろ…」
イヤイヤと首を降るシュノの額にキスをして、激しく腰を振った。
「やっ、あっ、あぁっ!!やだ、やめろ!!」
「やめね、大人しく…しろって!!
ほら、もう出るっ…」
乱雑に内部を抉られるように突き上げりるイリアに、シュノは乱されてそのまま精を放った。
「ふぁああっ…っ、この…」
「シュノ…中良すぎ。とまんね」
「ひぁっ、や…うそ…今イッたばかりだろ…」
「お前だって、何度もレイリ抱いただろ」
イリアはシュノの脚を抱えあげてそのまま気を失うまで精を注ぎ続けた。



「…えっ…」
朝起きて、レイリは唖然とした。
ベットではシュノがグッタリしながら眠っていて、服は酷く乱れている。
「しゅ…の…」
震える手でシュノに触れるが、よほど深く昏睡しているのかピクリとも動かない。
「や…だ…やだやだ…シュノ、シュノ起きて!!」
「レイリ、お前の姿をよく見てみろよ」
不意に頭に響く声に、ビクッと身を震わせる。
「どうゆうこと…?」
昔から聞こえる声に恐怖心はなかった。
だけどこの声がするときは大抵悪いことの前触れだ、すくなくともレイリにとっては。
「鏡、見てみな」
レイリは声に導かれるままに鏡の前にふらふらと歩いていった。
小さな鏡には、ふわふわと小さな羽が生えていて片方が黒く染まってしまっていた。
「嘘…なにこれ、何で黒くなって…」
「さぁな、俺がシュノを抱いたからかな」
「イリア、どうしたらいいの…
こんなの…こんなの…そうだ、先生の所に行かなきゃ…いつもみたいに落として貰うんだ」
レイリは服を簡単に纏うと、背中が隠れるように布を被って外にでた。
門は閉じられていて結界が張ってある。
しかしながら、教会で育ったレイリは結界の解き方は心得ていた。
小さな綻びを拡げて自分一人通れる穴を開けると門がひとりでに開いた。
「先生の…所に…」
ふらふらと門の外に出ると街へ向かう。
「どうすんだよ、馬車には乗れねぇだろ…」
「歩いてく…隣だし、いけない距離じゃない…」
「シュノに気付かれないか?」
レイリは黙った。
どうしたらいいか迷っているようだ。
布をぎゅっと握る。
「でも…こんなの見れたら…シュノはきっと僕を嫌いになる…
それだけは絶対にいや…」
「…」
イリアはあえて何も言わなかった。
シュノはそんなことでレイリを邪険にしないと知っていて。
レイリだけがシュノに大切にされてるようで気に食わなかったから、というのも一つの要因だが、単純にレイリの困る姿が見たかったからだ。
「レイリ、街では羽を見られるなよ。
見世物小屋に売られたら最後だぞ」
「う、ん…気を付ける…」
まだ朝靄がかかる街へ向かって、レイリは歩き出した。
辺りは鬱蒼とした木々が生い茂っており、不気味な感じを漂わせていた。
これならたしかに街の人は近寄らないだろう。
「王都は…どっちだろう…」
屋敷から街までは一本道なので迷うことはない。
ただ、街が広くて王都へ向かう街道にでる道が判らない。
「仕方ない…誰かに聞こうか」
レイリは近くにいた露店商に近寄った。
「すいません…王都へ行くにはどこへいけばいいですか?」
「ん、ああ…そこの門を出れば王都への街道にでるはずだ」
近くには大きな門があり、馬車がせわしなく行き来している。
「ありがとうございます」
レイリは露店商にぺこりと頭を下げる。
露店商は隣に居た男を見上げてニヤリと笑った。
「兄ちゃん、王都に行くのかい?
荷台でよければ乗ってくかい?
ちょうど王都へ戻るところなんだ。」
レイリは何か不穏な気配を悟って少しずつ後退りながらにこっと笑って見せた。
「いえ、人と待ち合わせしていますから」
「人の好意は素直に受け取っておくもんだぜ」
「や、やだっ!離して!」
男はレイリの手を強引に掴んだ。
その際に被っていた布が落ちて小さな羽が晒される。
「お前天使だったのか!」
辺りの視線が一斉にレイリに向いた。
「違う、僕は天使なんかじゃない、離して!」
「天使様だ!天使様が戻られたぞ!」
誰かが声をあげると、レイリを掴んでいた男が舌打ちした。
「誰がこんな上玉お前らに渡すか」
嫌がるレイリを手早く気絶させて荷台に放り込むと急いで馬車を走らせた。
「天使様が人拐いに連れていかれたぞ!」
「早く、誰か追うんだ!」
一瞬にして街は大騒ぎとなり、その喧騒の中一人の少女は静かに騒ぎの中から離れた。
「全く、手のかかる天使様ですね。」
シスター服を纏った少女はそのまま闇の中に姿を消した。




「シュノさん、大変です!」
珍しくレシュオムが焦ったようにシュノの部屋の戸を叩いた。
その音にようやく目を覚ましたシュノは、気だるい身体を起こして身なりを整えると、隣で眠っているはずのレイリの姿を探した。
「………レイリ?」
ベットにはシュノが寝ていた部分以外乱れた様子はない。
珍しく早起きでもしたのかと、立ち上がり部屋の戸をあけた。
「シュノさん、結界の一分に穴が開いているんです
誰があけたのか判りませんが、今のところ誰かが侵入した様子は無さそうですが…」
「判った、結界は直しておく。
それよりレイリを見なかったか?」
レシュオムはきょとんと首をかしげた。
「レイリさん、シュノさんと一緒じゃなかったんですか?」
レシュオムは朝から畑の様子を見て、帰りに門の方に違和感を感じて近寄ると結界が小さく破られていたらしい。
シュノが起きるまで、全員で屋敷中くまなく探したそうだが、レイリはおろか侵入者の形跡は無かったという。
「だとしたら、結界を破ったのはレイリだ。」
「そうでしょうか?
私にはレイリさんにそんな力があるとは思えないんですが…」
「無意識に抑制していたんだろう、レイリはシュリとレイアの子供だ。
それくらい出来てもおかしくない、契約したことで元々持っていた力が強くなったのかもな…」
「なら、急いでレイリさんを探さないと!」
「そうだな、今のレイリが街に行ったなら大変なことになるぞ…」


青少年の悩み事


「ねぇ、フィオルはロゼットと付き合ってるんだよね」
「付き合ってる、と言って良いのかは判りませんが…」
「でも二人でいつも一緒にいるよね?」
「まぁ、そうですね
彼は意外に面倒見がいいですし、自分の事には鈍感ですから。」
「何か、君達は順風満帆だと思ってたよ。
意外に苦労してるんだね」
「そうですね、お互い貴族と平民という身分の差故の誤解や偏見もありますから」
「ふぅん…」
シアンがあからさまにため息をついた。
「シアンさんは恋人は?」
「……それが、聞いてほしいんだけど…
こんなこと…フィオルか隊長にしか話せなくて…」
そう前置きしてシアンはポツリポツリと話し出した。



「ねぇ…たまにはあんたの事聞かせて欲しいんですけど」
レイリのお伴として教会に来たシアンはローゼスの部屋で頬杖をつきながら物憂げにローゼスを見上げた。
「別にいいけど、何が聞きたいの?」
「何でもいいんだけど、そうだなぁ…
じゃあ、恋人とかいたんですか?」
「またその話?
前にも言ったけど、真剣にお付き合いした人はいないわよ。」
「でも、真剣じゃない付き合いはしてたんでしょう?」
「人を遊び人みたいに言わないでくれる?」
ローゼスは少し呆れたように笑って見せた。
「まぁ、確かにお付き合いしていた人は何人か居るわよ。
伊達に年は食ってないのよ」
「ふぅん…」
何となくは気が付いていたけど、言葉にされたらやはり悔しかった。
「やっぱ、キスとかしました?」
「それくらいお付き合いしていたら普通するでしょ」
「じゃあ…」
シアンが不安気に瞳を揺らした。
「体の関係とか…あったりします?」
「……ええ、あったわよ」
ローゼスも少し視線を反らしてからぽつりと呟いた。
「そう」
シアンは俯いたまま何も言わなかった。
頭の中がドロドロとした醜い感情で満たされていく。
それをローゼスに見せまいと必死に我を保とうとしていた。
「求められたら、断れないのよ。
でもね、そこまでしてもうまくいかないの。
最終的には彼女達は私の前から去っていったし私もそれを止めなかった」
「そう…」
自分から話を振ったくせに、認めたくない事実を受け止めきれずにいた。
「ねぇ…なら今俺が抱かせてっていったらさ、抱かせてくれんの?」
「…坊や、どうし…」
シアンは今にも泣き出しそうな子供の様な表情でローゼスをテーブルに押し倒した。
悔しさと悲しさで頭がぐちゃぐちゃだった。
こんなことをして、ローゼスを困らせて、子供っぽいわがままだとわかっているけど、だけど止められなかった。
「今すぐ抱かせてよ、あんたの全部俺だけのものにしたい…」
思い詰めた様子のシアンを見て、ローゼスは悲しそうに顔を背けた。
「……いいわよ、好きにしなさい」
まさか、そんな言葉が返ってくると思わなかったのか、シアンは若干驚いている。
「誰にでも、そうやって簡単に身体を開くんですか…」
「それで相手が満足するなら構わないわ。
でもね…」
ローゼスはやんわりと両手でシアンの頬を包み込んだ。
「貴方はそれでいいの?
貴方が今すぐ抱きたいと言うなら抱かせてあげる。
でも、それっきりよ。貴方が望む関係は二度と手に入らない。」
「…っく…」
ローゼスの肩を掴む手に力がこもる。
痛みに顔を歪めながらも、ローゼスは優しくシアンの頭を撫でた。
「ねぇ…私は出来れば貴方とはそうはなりたくないわ。
約束したじゃない、私を本気にさせてくれるって。
あれは嘘だったの?」
「嘘じゃ…ない…けどっ…」
「なら…一回離してくれない?
さすがに少し痛いわ」
シアンははっとして慌ててローゼスから離れた。
ローゼスが肩を押さえながらゆっくり身体を起こすのを俯きながら様子をうかがっていた。
「……ごめんなさい…」
「いいのよ、若気の至りって事にしておいてあげる」
ぎゅっとシアンを抱き締めるローゼスに、甘えるようにシアンが身体を預けた。
「こんなに…好きなのに…
あんたが遠く感じて、何か俺ばかりあんたが好きな気がして…」
ローゼスの服をぎゅっと握って、子供みたいにぐずるシアンを、愛しそうに抱き締める。
「貴方はね、今まで出会った誰よりも大切にしたい人なの。
だから私も貴方には誠実でいたいと思うの」
「ごめん…ごめんなさい…
俺もあんたが特別で…だから…だから俺…」
「焦らなくてもいいのよ
愛情ってゆっくり育んでいくものじゃない?
私は貴方の前から居なくなったりしないから」
ローゼスは、今日だけは存分に甘やかそうと抱き締めた腕に優しく力を込めた。



「ってことなんだけど…」
シアンがしおらしく小さな声でいった。
珍しげにフィオルがシアンを柔らかい眼差しで微笑んだ。
「それは…また大胆ですね」
「茶化さないでほしいな
兎に角、客観的に見てどう思う?」
「それ、隊長には話しました?」
シアンは項垂れたように頷いた。
「隊長はなんて?」


『え、ローゼスがそんなこと言ったの!?
凄いことだよそれ、ってゆうかレア!!
いいなー、僕も見たかった!!』


「………って。」
フィオルは既に笑いを必死にこらえている。
「笑うなよ!!」
「す…すいませ…っ…でも、それは相思相愛じゃないですか?」
「そうかな…?」
「ええ、そう思いますよ。」
するとシアンは少し嬉しそうな、照れたような表情を見せた。
「なら…頑張ってみる。」
「応援しますよ」
「ありがと」
満足そうに笑いながら、シアンは窓から見える夕陽を眺めた。


とある貴族の家庭事情 後



「それでも構いません!!」
必死なキャロルにレイリは折れた。
困ったように笑いながら頭を撫でる。
「じゃあまずは自分でご両親を説得するんだよ。
それが済んだら騎兵隊の方は僕の権限で仮入隊扱いにしておくよ。」
「本当ですか!?」
「ただし、僕が君にしてあげるのはそこまで。
それ以降は君次第だよ。」
「はい!!ありがとうございます兄様!!」
キャロルは途端に笑顔になってぎゅっとレイリに抱きついた。
「ならもう自室に戻るんだ
愛娘と一夜を供にしたとなると僕が伯父様に体裁が悪い」
「……判りました…今日は戻ります
ご迷惑…お掛けしました」
珍しくあっさり引いたキャロルに安堵して、もう一度眠りに就くべくベットに深く潜った。



「レイリ、一体これはどういう事だ!?」
「どう…といわれても…
僕にもどうしてこうなったのか…」
レイリは朝一番に伯父に怒鳴られて戸惑いを隠せなかった。
どうやら今朝がたキャロルが伯父に件の話をしたところ、それを聞いていたリヒトが自分も行きたいと申し出たわけで…
キャロルに関しては了承したレイリも、さすがにまだ幼いリヒトを連れていくのにいい顔はしなかった。
「どうして!!どうしてお姉ちゃんはよくて僕はダメなの!?」
「キャロルにもいいと言った覚えはない!!」
「お父様どうしてダメなのかちゃんとした理由を聞かせてください!!」
左右からステレオ攻撃のようにぎゃんぎゃんわめく二人に伯父は頑なに良しと言わない。
「レイリ、お前が余計なことを吹き込むからだぞ!!」
「…すいません、さすがにこんなことになるとは…」
さすがに申し訳無くなったのか、レイリは二人に落ち着くように言うと、ピタリと大人しくなる二人に伯父は目を丸くした。
「あのね、二人とも。
よく考えるんだ、君達が怪我をしたり最悪命を失ったとき伯父様も伯母様も耐え難い苦痛を一生背負うことになるんだ。
その苦しみは決して癒えることはない。
二人を心から愛してくれる二人にそんな思いをさせてまで、成し遂げたいことが君たちにはある?」
「私は…」
「うん、言わなくてもいいんだ。
ただね…もう少しちゃんと話し合ってほしい。
大切なことだからね、失ってしまってからでは遅いんだよ…」
二人の頭を撫でると二人は押し黙ったまま何も言わなかった。
「君達がどうしても騎兵隊で成し遂げたいことができたとき、それをまずご両親に認めてもらいなさい。
どんなに危険で、どんなに辛い事にも耐えられるなら僕は君たちを拒みはしない。」
「判りました…」
「うん…ごめんなさい…」
「うん、じゃあ朝食にしようか
折角のご飯が冷めてしまうよ」
レイリに促されて二人は食堂に歩いていった。
その後ろ姿を見守りながら、伯父がポツリと呟いた。
「レイリ、お前が騎兵隊隊長として何か壮大なことを成し遂げようとしていることも、その覚悟もわかった。
だが、うちの子を巻き込むな。」
「そんなつもりはありませんよ、あくまで彼らの意思です。
それに、本当に意志があるなら僕がなにもしなくてもあの子達は自らの意思でそれを成し遂げたでしょう」
伯父はふたたび呆れたように溜め息をついた。
「それに、僕が許可したのは仮入隊迄です
本採用するかどうかは僕たちで決めます
騎兵隊は甘い幻想だけで居られる場所じゃありませんから、甘い考えならそこでふるい落とします。」
「饒舌だな、お前がこんなによく喋るとはな」
「身内だからと言って贔屓はしません、騎兵隊は全てに置いて平等です。
ですから、それを念頭に置いて二人ともう一度話し合ってあげてください」
「我が子を危険な目に合わせたい親が何処にいる。
親の居ないお前には判らんかもしれんがな」
「……そう、ですね…」
胸が、ちくりと痛んだ。
伯父に悪意はないのだろう、恐らく虫の居所が悪かっただけなのだが、その言葉は深くレイリを抉った。
優しかった筈の父や身体は弱くてもレイリが寂しくないように気を使ってくれた母。
そんな二人の事を頭の片隅に追いやって思い出すこともしない、自分はなんて親不孝な息子だったのだろうか。
それでも、例え命を失ったとしても、たったひとつ守りたいものがレイリにはある。
「昼には王都に戻ります」
「ああ…そうか」
それだけいうとレイリは部屋に引き返した。
落ち着かない、胸がざわめく。
嫌な予感がする。
レイリは昼まで宛がわれた部屋で横になり、昼少し前に王都に戻ることにした。
胸がざわついて収まらないからだ。
「レイリ、二人も連れていってくれないか」
伯父がどこか疲れたように旅支度を終えた二人を連れてきた。
「お前が言うように二人の意思は堅いようだ。
騎兵隊に入隊して成し遂げたいことがあるのもその覚悟も理解した。」
「伯母様には…?」
「もちろん反対されたが、二人もそろそろ親元に置いておくべき年頃じゃないだろう。
リヒトは少し早いが、社会勉強にはちょうどいい」
「判りました…では仮入隊の間は責任を持って僕が預かります。」
「ああ、頼む」
二人を馬車に乗せ、レイリは愛馬で王都に続く道をのんびりと進んでいった。
車内ではキャロルとリヒトが期待に胸を踊らせている。
ふと、王都が近付いた頃にレイリは御者に教会に行き先を変更するように伝えた。
「兄様、ここは教会ですわよね?」
「少しだけ、寄り道させて」
どこか思い詰めたようなレイリにキャロルは黙って頷いた。
二人を礼拝堂の椅子に座らせると、ちょうど見慣れた姿を見つけて慌てて駆け寄る。
「ローゼス!!」
「あら、レイリ
里帰りしてたって聞いたけど…」
「先生はどこ!?
すぐに話したいことがあるんだ!!」
ローゼスの言葉を遮り、レイリは辺りを見回した。
「ノエルなら部屋にいると思うけど…
どうしたの、顔色が悪いわよ?」
「ちょっと、気になることが…
ローゼスも一緒に来てくれない?」
異様なレイリの雰囲気に、ローゼスは頷いてノエルの部屋までついていった。
「ノエル、入るよ」
ノックをしたあと、扉を開けるとベットでごろ寝してたノエルが顔をしかめた。
「またお前か…今日は俺様はねむいんだ」
「先生…力が…強くなったんです…」
深刻そうにレイリが呟くとノエルはダルそうに身体を起こした。
「だから何だよ、そんなのテメェでなんとかしろ」
「今まで僕には他人を癒す力がなかった。
だけど今回里帰りしたときにリヒトの骨折を治してしまった。」
「偶然…とは考えられない?」
「軽い骨折だったみたいだし僕もそう思ったんだけど、リヒトに聞いたら触れられたときは確かに痛かったんだって。
でも、その次の瞬間痛いのが嘘みたいに引いたって。」
「なら、それは隠し通すしかないな。
女神の血筋を狙う輩は大勢居る、テメェみてーに名の知れた奴が女神の魂を受け継ぐものだって知られたら、殺されるより酷いことになるぞ」
「判って…ます…」
「身内にも、騎兵隊にも黙っていた方が良いでしょうね…
騎兵隊に王家の間者が居るのは気付いているんでしょう?」
「…うん…」
「あとはシュノに相談しろ、俺様に厄介事持ってくんじゃねぇ」
「…はい…」
落ち込んだ様子のレイリを、ローゼスが自分の部屋に通して暖かい紅茶を淹れてくれた。
「あまり気にする事じゃないと思うな」
「そう…だよね…」
「でも、ノエルの言ったことも忘れないでね…」
よしよしと頭を撫でてクッキーを幾つかお皿に盛ったが、レイリは手をつける様子もなく考え込んでいた。
すると、唐突にドアがノックされて開いた。
「うわ、ほんとにいた」
ドアを開けたのはシアンだった。
「シアン?どうしたの?」
「副隊長がそろそろ隊長が戻るから、教会にいけって…」
「そっか…じゃあ帰ろうかな」
レイリは立ち上がって、クッキーを一枚口に含んだ。
「ありがと、またシアンとゆっくり来るから…」
「ええ、お待ちしてるわ」
レイリは頷いて二人の待つ礼拝堂に向かった。
「レイリ兄様!!」
礼拝堂ではキャロルが不安そうに立ち上がり、駆け寄ってきた。
ほんの数分のつもりだったのがかなり時間がたってしまったようだ。
「ごめんね、待たせて」
「心配しました…」
ぎゅっと抱き付くキャロルと、こっそりレイリの服を引っ張るリヒトを見てシアンがきょとんと首をかしげた。
「この子達は一体…」
「僕の従妹弟なんだ
騎兵隊に仮入隊させることにした」
「また勝手な…副隊長にどやされますよ」
「いいの、シュノが僕のやることに反対するわけないよ」
レイリは漸く二人を連れて騎兵隊の隊舎に向かった。
「隊長、お帰りなさい」
隊舎の受付にはレシュオムがレイリを迎えに来ていた。
「ただいま、シュノは?」
「執務室で書類整理をしてますよ、早く顔を見せてあげてください。
ずっとソワソワしてましたから」
「うん、ありがとう」
レイリは二人を連れて執務室のドアを開けると、真っ直ぐにシュノに飛び付いた。
「シュノ、ただいま」
ぎゅっとシュノに抱き付いて甘えるレイリの姿にキャロルは唖然としてた。
「お帰りなさい、隊長。
お連れの方が驚いてますけど?」
よしよしと頭を撫でながらも離れる様子はないシュノに満足したのか、レイリはようやく二人に視線を投げ掛けた。
勿論シュノの膝に座って甘えたまま。
「僕の従弟のキャロルとリヒトだよ。
色々あって騎兵隊に仮入隊させることにしたんだ」
「また勝手に…そう言うことは一言相談してからにしてください」
「シュノ…僕のお願い聞いてくれるよね…?」
瞳を潤ませてシュノを見上げるレイリに、シュノは黙って頷くしか出来なかった。
「仕方無いですね…」
「シュノ大好き!!」
にこっと笑って頬にキスを落とす。
「リヒトはシュノの隊に、キャロルはレシュオムにお願いするから。」
「判った」
キャロルは唖然としたまま、恨めしそうにシュノを見た。
その視線に気が付いたシュノはニヤリと笑ってレイリを抱き寄せた。
「?」
首をかしげたレイリの唇に、舌を絡めとるようにキスをした。
あえてキャロルに見えるように、抵抗するレイリの手を塞いで。
「ぁ…んっ…ふぁ…」
とろとろに蕩けきったレイリはシュノの胸に顔を埋めた。
「そんな怖い顔しないでよ、隊長は僕の物だって教えてあげただけなのに」
レイリを抱き締めながら、クスクスと笑うシュノにキャロルは泣き出しそうな程顔を歪ませた。
それでも涙をこぼさないのは彼女なりの覚悟とプライドなのだろう。
すると横からひょっこり顔を覗かせたリヒトがシュノの頬にキスをする。
「なっ…」
「お兄ちゃん、僕も負けないからね?」
にっこりと笑ったリヒトに、レイリは余裕の笑みで返して見せた。

嵐の予感にレシュオムだけが不安を胸のうちにしまっていた


とある貴族の家庭事情 前


「レイリ、何処かいくのか?」
忙しそうにタンスから服を取り出しているレイリにシュノが声をかけた。
「うん、伯父様に呼ばれて…
新年くらいは顔見せろって。」
レイリは憂鬱な表情でシュノの肩にそっと顔を埋めた。
そんなレイリの頭を優しく撫でながらぎゅっと抱き締める。
「貴族ってのは体裁を取り繕うのも仕事だろ。
それでなくてもその若さで隊長を勤めるお前と繋がりを持ちたい奴等は沢山いる。」
「うん…利用できるものは利用する…
その為に必要なことなのは判ってるけど…」
実際クライン家の内部事情は複雑で、今はレイリがクライン家を治める当主であるが、騎兵隊隊長として忙しいレイリは伯父に直轄地の管理を任せている、つまり名ばかりの当主と言うわけだ。
しかしながら今や国中で知らぬものは居ないほど名が知れ渡ったレイリは名目上だけでも様々な事柄が円滑に運ぶため、それを咎められたことはなかった。
伯父は生真面目な人間で、定期的に報告をくれているし、騎士の家系から婿養子にきたので領民にも信頼が篤い。
その点はレイリも当主を継いだときに信頼に値するというのを確認済みだ。
クライン家は男が当主となる仕来たり故、レイリの父が当主だったが、両親は火事で亡くなった為に二人の嫡男であるレイリが次の当主となる。
レイリは隊長に就任と同時に爵位を継ぎ、当主になった。
まだ弱冠16歳という若さでだ。
全盛期よりは大分落ちぶれてはいるが、名家である以上後継者問題は必須で、それがレイリの頭を悩ませる種でもある。
「伯父様はどうにか僕を結婚させようと見合いの話ばかりするに決まってる。」
「確かお前のいとこは年頃だったな…女か?」
「女の子と男の子だよ、下が男の子。
伯父様は、あわよくば彼女を僕に嫁がせたいみたいだけど…僕は伯母様に嫌われてるからね…」
シュノが柔らかな髪に指を通しながら愛しげにレイリを抱き締めた。
レイリは生まれながらに不思議な力を持っていたため伯母とは折り合いが悪かった。
伯母は未だに、屋敷が燃えたのはレイリのせいだと思っている。
「シュノが女の子だったら良かったのに…」
「バカ言え、お前が女に生まれれば良かったんだ。」
シュノの体温を存分に感じたあと、名残惜しそうに離れた。
「もう…行かなきゃ…」
「…ああ、気を付けろよ。」
「うん、2、3日留守にするけどあとの事はよろしくね。」
「心配するな、行ってこい」
レイリがドアを開けて出ていこうとするのを、シュノは咄嗟に抱き寄せてそのまま唇を奪った。
「ん…」
名残惜しそうに、何度も角度を変えて舌を辛めとられる。
長いキスに息苦しくなったレイリがシュノの胸を叩くと、ようやく唇が離された。
「シュノッ…」
「悪い、お前と離れるの、寂しくて」
「…僕も寂しい…
寂しいからって、浮気しちゃやだからね?」
「するか、お前も早く帰ってこい」
レイリは頷いてコートを羽織ると小さな鞄ひとつ抱えて出ていった。
シュノはだまってその後ろ姿を見送っていた。


「ジョゼ、ちょっと荷物あるけど我慢してね」
愛馬に跨がり、ゆっくりと駆け出す。
レイリの伯父の家は王都から離れたクライン家が治める領地にある。
馬を飛ばして二時間ほどで件の街が見えてきて、一番奥に建つ大きな屋敷に向かうと、門の前で使用人が何人か寒い中待機していた。
「ようこそいらっしゃいました、レイリ様」
「寒い中、わざわざお出迎え有り難うございます。
伯父様はどちらに?」
「旦那様は応接間にてお待ちです。」
「判りました、すいませんがジョゼをお願いします。
ジョゼ、いい子にしているんだよ」
馬から降りたレイリが優しくジョゼの鬣を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
「畏まりました」
レイリからジョゼの手綱を受け取ると、ジョゼは使用人に連れられて厩舎に向かった。
レイリは深呼吸して玄関のドアを開けると応接間に向かった。
「伯父様、レイリです」
「おお、来たか。入りなさい」
ノックするとすぐに中から声がした。
「失礼します…」
思い気持ちでドアを開くと、初老の男がソファーにゆったり腰かけていた。
「レイリ兄様!!」
ふわりと柔らかな感触がレイリに飛び付いてきて、よろめきそうなのを何とか堪える。
「久し振り、キャロル。
元気そうだね」
「はい、レイリ兄様もお変わり無いようで何よりです」
ふわふわのミルクティーブラウンの髪にはドレスと御揃いのピンク色のリボンが結んであった。
少女らしい甘いレースをふんだんに使ったピンク色のドレスは幼い顔立ちの彼女の雰囲気によく合っていた。
「レイリ兄様、いつまで此方にいらっしゃるのですか?」
「明後日の夕方には帰るつもりなんだ」
するとキャロルは不服そうに頬を膨らませた。
「もぅ、レイリ兄様はいつもそればかりですね
もう少しゆっくりしてらしても良いのに」
「これ、キャロル。
レイリも忙しいんだ、我が儘を言うんじゃない」
「はぁい…」
キャロルはレイリの腕に抱き付いたまま離れようとせず、レイリは困ったように笑いながらソファーに腰掛けた。
「ご挨拶が遅れてすいませんでした。
伯母様とリヒトはどちらに?」
「実は先日リヒトが馬車に牽かれそうになってな…」
「えっ!?」
「リヒトは軽い骨折で済んだんですけど、お母様がショックで寝込んでしまわれて…」
「それは…僕が顔を出さない方が良さそうですね…
伯母様にはよろしくお伝えください、最近は寒くなってきましたし、お身体をご自愛くださいと…」
「ああ、伝えておく。
先ずは荷物を置いて晩餐までゆっくりするといい
キャロル、客間まで荷物を持っていきなさい」
「はい、お父様。
行きましょうレイリ兄様」
キャロルは嬉しそうにレイリの手を引いた。
「キャロル、いいよ、自分で持つから」
「良いんです、私にやらせてください」
レイリは困った笑みを浮かべながら手を引かれるがままに客間に連れていかれた。
客間には暖炉に火が灯り、部屋を暖めていた。
「コートを此方に」
キャロルがコートを受け取るとそれを綺麗に伸ばして壁掛にハンガーをかけた。
「レイリ兄様、騎兵隊のお話聞かせてください、リヒトも一緒に」
ゆっくり腰を降ろす暇もなく矢継ぎ早に手を引かれ、最早抵抗することを諦めたレイリはそのままリヒトの部屋に向かった。
「リヒト、レイリ兄様がいらっしゃったわよ」
「えっ…」
つまらなさそうにベットに横になって本を読んでいたリヒトはレイリの姿を確認すると目を輝かせた
「お兄ちゃん…またお話、してくれる?」
リヒトは足に包帯を巻いてベットの上から動けない様子で、レイリに抱き付きたいのを堪えているようだった。
「リヒト、大きくなったね
怪我は大丈夫?」
「うん、ベットから動いちゃダメって言われたけど…お話聞きたい」
「そうだね…何からはなそうか…」
「副隊長のお話!!」
目を輝かせながらリヒトはレイリの服の裾をつかんだ。
「リヒトは本当にシュノがお気に入りだね
そうだなぁ…」
何をはなそうかと考えているうちに、リヒトが怪我をしたという足につい触ってしまった。
「いっ…!!」
リヒトが一瞬ビクッと身体を震わせ痛みに耐える。
しかし、キョトンとした顔で首をかしげた。
「あれ…痛くない…?」
「えっ」
リヒトはそのまま立ち上がり、ジャンプしたり走ったりしている。
当分は絶対安静と言われたのにだ。
「…まさ、か…」
自分の手を不安そうに見つめるレイリを、キャロルはそっと両手で手を包み込む。
「レイリ兄様、ありがとうございます
よくわからないけど…兄様が治して下さったんでしょう?」
「僕が…治した…?」
首をかしげたレイリはじっと何かを考え込んだ。
あまりに真剣な様子にキャロルが声を掛けようか悩んでいると、リヒトがぎゅっとレイリにしがみついた。
「お兄ちゃんありがとう
やっぱりお兄ちゃんは凄いんだね!!」
無邪気なリヒトとは裏腹にレイリは苦笑しながら話を反らした。


「レイリ兄様。
どこかお加減が悪いのですか…?
お顔の色が優れないようですが…」
リヒトにねだられて騎兵隊の話を聞かせていたらすっかり夕暮れになってしまったレイリは部屋に引き換えそうと、リヒトの部屋をあとにしたところでキャロルに顔を覗き込まれた。
「何でもないよ、少し疲れたから部屋で休むよ」
キャロルの頭を撫でながら笑ってごまかすレイリに、不満そうに見上げたキャロルはぎゅっとレイリに抱きついた。
「私では、兄様のお役にたてませんか?」
「キャロル、悪いけど今は…」
「嫌です、離しません。
兄様はいつもそうやってはぐらかします。
私が邪魔ならそう仰ってください。」
「そういうわけじゃ…」
「私ももう子供じゃありません、それなりの覚悟でこうしています。
拒絶なさるなら優しくしないでください」
レイリは暫くどうしようか考えて、やわりとキャロルを押し返した。
「ごめん…」
それだけいうと部屋に引き返して内鍵をかけた。
廊下からは啜り泣く声が聞こえて罪悪感が募る。
それでも、脳裏を過るのは恋人の顔ばかりで早く会いたくて堪らなかった。
その日の晩餐は物静かなものだった。
2日目、レイリは街中を周り町の人と丁寧に挨拶したり世間話をしたりして暇を潰し、夕方の晩餐会で集められた貴族に愛想笑いで進行を深めるなど貴族としての役割は最低限果たした。
ようやく王都に戻れると思ったその日の夜に事は起きた。
ベットで眠っていたレイリは違和感を感じて目を覚ました。
するとそこには薄いナイトドレスを纏っただけのキャロルがベットに潜り込んでいた。
「キャロル、何をして…」
「レイリ兄様、お願いですから今日だけこのままで居させてください…
子供の頃はこうして一緒に寝たじゃないですか」
「そうだけど…君はもう子供じゃない
深夜に男の寝床に潜り込む事がどういう事か判ってるの?
伯父様や伯母様がしったら悲しむよ」
「両親の事は構いません
私は、兄様が好きなんです…愛してます…
お側においてください、兄様が私を愛してくれなくてもいいから…」
細い肩を震わせて、掠れた声で懇願するキャロルに少しだけ昔の自分が重なった。
「キャロル、君はどうしたいの?
僕と、どうなりたいの?」
「私はっ…この想いが叶わないなら…
せめて騎兵隊で兄様のお側において頂きたいです」
「そう…」
レイリは少し考えたあと、徐に言った。
「なら、騎兵隊に来るかい?」
「え?」
キャロルはまさかその様な返事が返ってくると思っていなかったのか、驚いて見せた。
「ただ、騎兵隊は君が思っているほど安易な場所ではないよ。
自分の身は自分で守るものだ、それが出来なければ死ぬだけ。
誰も君を守ってくれない、貴族だからとか僕の身内だからとか、そんなことで誰も君を特別扱いしてくれない。」



クライン家関連めも


クライン家概要

女神が一番最初に人間に生まれ変わったレイア・クラインの直系の女神側の血筋。
7英雄時代には既に名家として存在していたが、レイアの活躍により一気にのしあがり、レイアの失踪後は長い年月を掛けて次第に没落していった。
クライン家には忘れた頃に女神の魂を受け継ぐ者が産まれる。
その子供は生まれつき首に赤い薔薇型の痣があり、不思議な力を秘めている。
現在の当主はレイリ。
女神の魂を受け継いでいるのもレイリで、自己治癒力に優れている。
切断されても、くっつけて元の状態に戻す事なら可能。
ただし外部的な者には強いが内部的な物には弱いため病気や毒物等には効かない。
幼少の頃に食事に毒物を混ぜて耐性をつけているのである程度までなら体内で処理できる。
クライン家の領地は商いの拠点トリッドウット。



レイン・クライン

享年 32歳

レイリの実母で女神魂の育み手
物静かで知的な女性で、性格は穏やか。
女神の魂を持ったレイリを身籠ったため、身体が力の負荷に堪えきれず病弱になってしまい、幼いレイリに寂しい思いをさせて自責の念に刈られていた。
レイリを産んだことで夫が豹変してしまったことに心を痛めていた。
レイリの秘密を知っている上で息子達を溺愛していた。


キャロル・クライン

一人称 私
二人称 貴方
年齢 17歳
容姿 ミルクティーブラウンの背中の真ん中までの髪をストレート 瞳は金
身長 158cm
家族構成 両親、弟
職業 癒術師
武器 杖


レイリの母方の従妹。
レイリを兄のように慕い、淡い恋心を寄せている。
女性としてやらなければ行けないこと(料理や家事等)は得意だが、貴族の名家の令嬢として蝶よ花よと育てられたせいかかなりの箱入り娘で夢見がち。
何とかシュノとレイリの仲を引き裂いて自分を見てもらえないかと日々頭を悩ませる。
しっかり者で器量もよく、心優しい性格だが、いかんせんレイリの事しか頭に無いため騎兵隊の話をすると人が変わる。
友人は多いが、広く浅く付き合うタイプで愛が重いストーカータイプ。



リヒト・クライン


一人称 僕
二人称 貴方
年齢 14歳
身長 155cm
容姿 金髪碧眼
職業 騎士見習
武器 片手剣


レイリの母方の従弟。
小さい頃からレイリから聞かされた騎兵隊の話を聞いて育った。
騎兵隊に強い憧れを抱き、とりわけ第一線で活躍するシュノには憧憬に近いものを抱いてる。
愛くるしい容姿の為か割りと年上には可愛がられるが、本人はそれをよく理解していない。
お菓子を貰ったら知らない人にもついていくタイプ。


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