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二人で創作・版権小説を書き綴ってます。
騎兵隊には度々遠征がある。
それは騎兵隊の存在意義や行動理念に、種族や国境を越えた魔物討伐が出来るというのが大きい。
強いて言うなら自由に動ける遊撃部隊。
そんな一隊ならば隊長や副隊長の職務にもかなりの重責があり、シュノ・ヴィラスは国境際の魔物討伐という遠征からようやく帰って来たのだ。
遠征から遠征にと渡り歩いていたので、実に半月ぶりの帰省だった。
ようやく一息付ける機会だと言うのに、表情に浮かぶのは不機嫌なそれで。
通りすがる隊員達が挨拶も忘れてぎょっとする程だった。
普段の彼は、上辺で取り繕ったそれだとしてもかなりの好青年だ。
「ふ……く隊長、おかえ――」
「隊長はどこかな」
勇気を出して声を掛けた隊員の出鼻を挫くように、言葉を被せる。
かなり機嫌を損ねているという証拠だ。
だがまだ冷静な部分はあるらしく、語調は単調だとしてもきつくはない。
視線は既に隊員に興味を無くしたように逸らされていて、彼は内心安堵した。
「隊長でしたら先程まで執務室に」
「そう」
「夕方に王様との謁見が入っている以外はフリーです!」
歩き始めて既に小さくなり始めた背中へと、声が掛けられた。
それにひらりと手を振って応え、更に歩く速度を上げる。
端から見れば優雅に歩いているだけだろうが、速度は既に競歩に近い。
そこから更に速度を上げれば、目で追える者も居なくなるだろう。
一息の間に執務室前へと駆けてきたシュノに足音はなく。
ただ空気の揺れを感じた風が緩く流れただけだった。
滑り込むように室内へと潜り込めば、執務机に腰掛けたレイリが難しそうな顔で書類に集中している。
「イタズラし甲斐のある奴」
ペロリ、と唇を舌で湿らせて口の中だけで呟く。
まるで得物を狙う肉食獣。
気付かないレイリはそのままに、気配を消したまま背後へと立ち回り、片手でそっと目を塞ぐ。
「だーれだ?」
熱に掠れた声を再現しながら、耳元を湿らせるように囁きかける。
唇を離す瞬間に、耳朶を挟み込みながら。
それだけで素直な体はびくりと肩を竦ませ、腰を跳ねさせる。
視界を塞がれるのは相当嫌ではあるだろうが、相手が誰だかを知ってしまえば熱しか残らない。
だから、
「シュ――」
震えながら囁かれる声を待つよりも性急に、目を塞ぐ手元を引いて顔を上げさせた。
椅子に座ったまま見上げる顔を、顎を掴んで固定しながら噛みつくようにキスをする。
開かれたままだった口に舌を差し入れ、レイリの舌を舐めるように絡みつかせた。
そのまま奥歯に触るように深く差し入れ、歯列をなぞり、下唇をついばむように浅いものへと変えていく。
キスする度にびくびくと揺れる体と、熱を帯びて浅く、忙しなくなっていく呼吸に口の端が上がった。
リップ音を響かせて小鳥のようなキスを降らせていくと、それだけでは足りなくなってきたレイリがおずおずと舌を出してくる。
差し出された舌を軽く噛んでやると、喉の奥から声を漏らした。
何もかもが可愛らしい恋人が口の端から飲み下しきれなくなった唾液を垂らしたところで、顔を離す。
すっかり逆上せてしまったレイリは、真っ赤な顔で潤みきった目で、肩で息を整えながら椅子に深く沈み込んだ。
「可愛いな、レイリ」
「シュノ……」
ふわふわと緩みきった雰囲気ととろけきった目で見返してくるレイリの目尻に、額に頬にとキスの雨を降らせる。
会えなかった半月分を取り戻すように、イタズラ心と甘やかしたい心境のままに体を支えきれなくなったレイリを引き寄せ、抱き上げた。
「シュノ」
「ん?」
「おかえり」
ふわりと花が咲き誇るような満面の笑みを見せるレイリ。
不意を突かれて思わず頬を赤く染めながら、シュノは心のままに笑顔を浮かべた。
「ああ、ただいま」
その後の彼らの様子は、言わなくてもご存知だろう。
とおいとおい昔のお話。