カカサス50音SSS 『む』
「そんな事でいちいち俺に構うなよ」
「サスケ‥‥」
カカシに呼び出され、任務を終えた後に部屋に訪れた。
何事か思えば、任務中に負った俺の怪我が心配だというだけ。
ただのかすり傷なのに。
「それだけなら、俺はもう帰る」
その程度の事なんて、どうでもよい。
必要の無い心配で構われる時間があるならば、それは修業にあてるべきだ。
「じゃあな‥‥、っわ!?」
背を向けて去ろうとした瞬間。
後ろから抱き寄せられた身体が、カカシに包まれる。
温かくて、甘くて――
「サスケが納得してくれなくてもいいから、少しだけ、こうさせてよ」
――少し、淋しそうで。
(そういやカカシ、この間誕生日だったんだっけ‥‥)
先日の、連日にわたる任務中にカカシの誕生日は過ぎ、何も祝ってなかった事をふと思い出した。
サスケの誕生日には、カカシがお節介なほど祝ってきたが、それはカカシがしたくてした事で、同じようにする必要はないと思っていた。
何もしないというのも素っ気ないが、焦りが募る昨今、そんな余裕もなくなっていた。
「‥‥‥10秒だけだ」
とはいえ、無理に引きはがす事もできなくて、提示したのら僅かな時間。
これを肯定と受け取ったカカシが、まるで体温を共有するみたいに、より強く抱きしめてきた。
これ以上気を許したら、その体温に安心を覚えてしまいそうだ。
(でも、早く、修業、しないと)
修業のための大切な時間を無駄にしたくないと思う一方で、何故かこの時間も手放したくない、そんな違和感を覚えた。
『無駄な時間なんてどこにも無かったと、その時には気付けないものだから』
――数年後の僕が、この時間をひどく愛おしく想う事にも、気付く事は出来ないのだ。
Fin.『む』
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