『この夢にはこんな意味がある』なんて、夢占いみたいな少女趣味は俺には無い。
けれど、本来なら気にもとめずにいられる事も、連日にも渡れば嫌でも意識せざるを得なくなる。
(ああもう‥‥ウゼェ‥‥)
しかも、『夢』なんて物は、自分の意思で簡単に変えられるものじゃない。
昔見たテレビ番組で、寝る前に夢で見たい対象を思い浮かべたり、写真を眺めて枕元に―――なんてジンクスみたいな方法をやっていたのを見たことがあるけれど、『見たい夢』なんて無い。
『見たくない夢』ばかりだ。
自室のベッドから見上げ、何も無い天井を見つめる。
夢も、あの天井のように、何も描かれなければいいのにと、思いながら。
ここ半月、サスケは『夢』に悩まされていた。
過去のトラウマ、恐怖、憎悪、未来への不安――――それらは明確な対象であったり、または象徴的な何かを現わす事で、夢の中へと付きまとっているのだ。
とはいえ、それは初めての事ではない。
うちは一族の、あの忌まわしい一夜以降、何度も何度も悪夢にうなされてきた。
それこそ、半月なんて短い期間では済まされないほどに。
(『悪夢』だけなら、良かったのに)
そんな夢の中に、たまに希望があるから苦しい。
希望を得られるようになった、とだけ考えるのならば、それはサスケにとってきっとプラスの大きな変化だ。
そしてその変化をもたらしたのは、7班のチームメイトであるナルトやサクラ、そして―――カカシの影響だ。
しかし、深い闇の中にいたサスケにとって、そんな光は時に、眩しすぎてジレンマをも生み出す。
一方的な悪夢だけで無く、たまに光が垣間見えるものだから、かすかな闇にさえも、敏感になってしまっていた。
「!!」
突如、視界に入ってきたそれは、暗い部屋では明確には色や形を判別し難い。
けれど、気配で分かる。
「何の用だ‥‥カカシ」
「やだなぁ、釣れないね。何だか一人で寝るのがつまらないから、来ちゃった」
「ガキか、アンタは」
「俺だって、人恋しくなるときはあるんだよ」
それはまるで今の俺自身と一緒で、俺が素直な奴ならば、きっと同じ事をしたと思う。
カカシはそんな俺の気持ちにも、気付いているのだろうかとさえ思った。
拒絶など受け付けないといわんばかりに、カカシは一人分しかない布団へと潜り込んでくる。
変に意識しないようにと、カカシに背を向けるようにして、口先では悪態をつく。
「おい、狭い」
「じゃあ‥‥こうすれば、いいでしょ?」
「ッ!」
背中から、全てを包み込むみたいに、カカシが抱きしめてくる。
それを拒否出来なかったのは、それをするだけの気力がサスケに残っていなかったというだけじゃない。
夢の中には無かった、『温もり』―――それがひどく愛おしく思えて、柄にも無く、ずっと感じていたいと思ってしまったのだ。
「今晩だけ、だからな」
「了解」
夢の足跡は消える事は無いけれど
どうかカカシと居る事で
一人ぼっちの夢なんかよりもかけがえのない
共に歩むこの道の先に
光が灯されますようにと思いながら
俺は、ゆっくりと瞼を閉じた。
fin