カカサス50音SSS 『ぬ』


水月を解放し、二人で行動を共にし始めて数時間経過した頃だった。

「サスケって、初めて会った時と変わらないね」
「お前との初対面はもう何年も前だろう、水月。冗談はよせ」

必死の修業で目まぐるしい程の成長を続け力を付け、それをある程度自覚しているサスケとしては、水月の発言は的外れに思えた。

「いやいや、外見や強さじゃなくてさ。何だろ、信念、とか想いみたいなさ」
「俺は今も昔も復讐のために生きている。それだけの事だ」

水月の意図している事は復讐への意志だろうと解釈し、サスケは水月の言動に冷たい言葉を吐き、歩み続けた。
サスケの横顔からは、ただ冷たい視線が伝わる。
けれど、水月はそれ以上に感じる事があった。
サスケへの関心と洞察力、加えてサスケが里を抜けて以降の比較的深い関係を持っている水月だからであって、他者には悟られる事はないだろうけれど。

(そういうんじゃ、ないんだよなぁ)

復讐心が表立って感じられるのは事実だけれど、それと同時に奥へ奥へと押しやる何かを、水月は感じていた。
時折サスケの面影に見え隠れする人物は、その何か、に深く関わっているだろう。
水月が今その者を確定するのは困難だが、サスケと関わり始めた時からずっと、サスケの心の奥に変わらず居ることだけは確かに感じられた。
それをサスケ自身が気付けているかは、また別の話だけれど。

サスケが復讐心を強めても、力をつけて多くの者の返り血を浴びようとも、その影だけはいつも澄んで見えていた。


『塗り潰した紅い色も、心までは届かない』

――押し込んだ奥深くの心だけは、染まる事なくただ一途なままで。


Fin.『ぬ』
Next→『ね』

カカサス←水