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夢に恋した夢遊病男とイマジナリィフレンド


「一度垂れ流した感情って、もう元には戻らないと思うんだ。」
『もし、それを誰かが掬ってくれたら、その感情は無碍にならないと思うけど。』
「そんなの綺麗事。」
『うん、それは言えてる。けどね、私は君がそんなこと言ってくれて嬉しいと思った。』
「何故?」
『だって君には『綺麗だ』って思える心が残ってるってことだろ?』
「そうかな」
『そうだよ。私には、もう何も残っていないもの。』
「××はいつも哀しそうだね。」
『、』
「大好き、って言ったら怒るかい?」

 儚くて、優しくて、それでいて何処か寂しげな××。
 もう一度逢いたいと願い、俺は夢を見続ける。そして、次の夢から醒めたときはきっと、俺の居場所は何処にも無い。


/妄想癖

無題


欲されていると
知りながら
愛されていると
知りながら
憎まれていると
知りながら
望まれていると
知りながら

私は何一つ
残すことが出来なかった


赤い人


 どうやら僕の眼は、「俺の邪鬼眼がッ、疼くぅぅうううぅ……」といった具合に、馬鹿な事を口走っていた――丁度中学二年生の頃だろうか?――に、見事覚醒してしまったらしい。今では色々なものが見えるようになった。あ、別に邪鬼眼的な意味ではなく特殊能力的な意味で。よく間違えられるのだけれど、決してギアスではない。あと、久しぶりに友人と再開出来ると思って、つい張り切って友人の一人が持っていた鋏をちょっと振り回してみたら、僕が鋏キャラだってのがいつの間にか定着してた。また、一人を除いた僕の友人は、皆僕よりも背が高い。高校受験が終わった頃、見下ろされるのがどうしても嫌で、毎日欠かさず飲んでいた牛乳を飲むのをやめた。今は勿論背は伸びていない。細胞分裂よりも、細胞死滅という言葉に敏感になった。


 色々モノローグが長かったけれど(え、モノローグじゃない? そんなの知るか)、兎に角今の僕はナーバスだ。……嗚呼、その通り使いたい言葉使っただけです。だが反省も後悔もしていない。っていうかするわけない。

「ねえ、先輩」

 なんだい。
 隣に座っている中学生時代の後輩が此方を見上げていた。そういえば今、河川敷で二人で夕日を見ていたりする。ロマンティックとかそういうのはヤメテ。だって恥ずかしいじゃん。……あ、いやこれも嘘。別に恥ずかしくは無い。

「先輩は分かってないかもですけど、私、先輩のこと結構好きですよ」

 僕は笑った。彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべたけど、はにかみながら微笑んだ。
 見たいものも見たくないものも、全部彼女と分かち合えたらいいのにななんて、高二になった今、夢みたいなことを空に願う。大人になって、誰かと結婚して、そして子供が出来て、おじいちゃんになって――どんなに時が過ぎたとしても、今のこの気持ちを忘れずにいたい。なんて、思うんだ。ベタなことだろう、そうだよベタなんだ。ベタでいい、ありきたりな幸せが欲しいんだ。

「僕も存外、好きだよ」

 彼女は照れくさそうに笑った。


/版権、妄想。


朱の氷


【朱】に染まる広大な大地。

圧倒的な力で捻じ伏せ、粉砕し、全てを彼方へと葬り去った巨兵。


消え入る寸前まで国に奉公し一人の戦士。

氷のように冷たい眼差しの奥に潜むは、何時かに朱く燃え滾る闘志。

その瞳、光失うまで遠方を見つめ、静かに太刀を振るい絶つ。

全てを人々の記憶に美しいままに留めるその業の継承は不可。

全てを記憶せぬ人々の心に、今はもう戦士の姿は無い。

儚く散った幾千もの戦場の魂。

朱き国に栄光あれ。

氷の戦士、死して尚勝利の栄冠に輝かんことを。


/版権(ゲーム)

思い出


 ――覚えていること。
 僕は、一人ぼっちだった。大人は誰も分かってくれないし、世界はいつまでも変わらない。
 姉様は優しく寛容な人だったが、重い持病を患っているために中々会うことが出来なかった。父様はいつも私事で忙しく、母様は病気の姉様に付きっ切りだった。召使はただの道具。どれだけ多くの富があったとしても、此処にあるはずの心が死んでゆくのなら僕は富などいらない。僕はただ自由に生きたいだけ。
 そして僕は、罪を犯した。


 ボ ク ハ ワ ル イ コ デ シ タ


 十年生きて、やっとこのちっぽけな屋敷のことが分かってきた。いいや、分かりきっていたことなのだけれど、皆僕なんかよりも姉様の方が大切らしい。メイドも、バトラーも、コックも、皆姉様が大好きなんだ。勿論、父様も母様も……僕も。世界で一人だけの姉様。いつも僕のする話に耳を傾け、親身になって聴いてくれた姉様。一人で部屋や廊下で遊んでいると、何処からともなくやってきて一緒に遊んでくれた姉様。僕のことだけではなく、いつもいつも皆の笑顔の中には姉様が居た。
 いつの間にか僕は、姉様に醜い嫉妬心を抱いていたのだった。羨みの気持ちが、時と共に妬みに変わるのは自然なこと。ただ、姉様にそんな気持ちを抱いてはいけなかったのは当然のこと。

 逃げるために、僕は嘘を吐いた。嘘はどんどん、大きくなった。
 いくら僕が「ごめんなさい」と泣き叫んで謝っても、到底償えきれないほどに大きく膨らんでいった。もう、本当の事が言えなくなった。もう後戻りなんて出来ないくらいに、もう振り返ることさえ赦されないくらいに。偽りの笑顔を浮かべ、偽りの言葉を発する僕は、既に僕でなくなった。僕は此処で、一度死んだんだ。
 自我。そう呼ばれる僕の心はいつしか成長を止め、偽りの彼等はどんどん成長していった。彼等が心だけでなく、体まで乗っ取ろうとしたときに、自我が生まれた。嗚呼、誕生日、おめでとう。

 姉様を殺したのは誰だ。
 父様を殺したのは僕なのか。
 母様を殺したのは、僕だ。

 視界が黒から赤に変わり、気が付いたとき、手には果物用のナイフを握っていた。何十人も住んでいたこの屋敷に、息をしている動物は僕一人。立っているのは、僕一人。どうしてこんなもので皆を殺せたのか、不思議で不思議で仕方がない。今も、昔も。きっと心の声が僕にやり方を教えてくれたから、だからこんなにも酷く凄惨に美しく、屋敷内を彩ることが出来た。……そう信じたいものだ。
 随分と前に何処かの誰かは、作り上げていくのは難しくとも、壊すのは簡単だと言っていた。けれど、それならば壊した後に何故悲しくなるのだろうか。ナイフを捨てた後、僕は泣いて、泣いて泣いて、笑った。
 作り上げていたものは全て、壊してしまったんだ。

 ふと顔を上げると、真っ赤な花が挿さった花瓶が目に入る。表面に反射して映っているのは、僕とその背後で蠢く沢山の影。きっとそれは、最初で最後に見えた僕の偽りだったのかもしれない。今まで吐き続けてきた数多の嘘。これは一生僕が背負うであるもの。






 ――思えば、僕はいつも一人になろうとしていたのかもしれない。本当は僕が望んでいなかっただけで、大人は僕のことを心配してくれていて、世界は随分と目まぐるしく廻っていたのかもしれない。
 なんて馬鹿なんだろう。なんて、馬鹿だったんだろう。

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