「天国がある保障がありますか? もしくは、天国が幸せである保証がありますか?」
感情を押し殺しているのは何故だ?
人間の気持ちを考える機会など、デイモスにとっては久しい事だ。生前、地上では身重の母の為に近くに住む人間と馴れ合いというものをしていたが、今は馴れ合うどころか、自分達に対して恐れという感情を人間に抱かさなければならない。そんな自分に、目の前でじっとしている少年を制する事は出来ない。呆れ雑じりに首を振る。
涙のバルブの栓はとっくに緩めているくせに、体の外に一滴も漏らさないのは何故だ?
いつかその体の中が塩辛い涙でいっぱいになってしまうのではないか、と珍しく心の中に生まれた不安に嘲笑を向けながら、エメラルド色の髪を眺める。大きな目に浮かべているのは何だろうか、曇っている瞳を気付かれないように覗き込む。
「神様は、貴方の事を嫌いになんかならないよ。」
無邪気な声で唐突に言葉を紡いだ、愛しい妹の頭を撫で、面の奥で笑みを浮かべる。
血よりも濃い紅の軍服に身を包み、不気味な鳥の仮面を付けた自分たちの事を、彼はどう思っているのだろうか。神様、天使様、それとも……。
初めは些細な好奇心だった。すぐに連れて帰ろうとさえ思っていた。
それがこれほどまで痛々しく感じてしまうのは、元は自分が人間だったからだろうか。
もしかすると、自分達が憑いていることで彼の可能性を奪い喰らっているのかもしれない。
一縷の希望と、巨万の皮肉を籠めて。
「この世界に、私達はもういないと思いなさい。貴方の前には、もう戻ってはきません。」
さようなら、
お元気で。
/疎ましく思っている自分がいることに自己嫌悪を覚えて
※猟奇的表現注意(ハメていません。殺しただけです)