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◎2570


 彼女のことを例えるとすれば、サロメに愛されたヨナカーンだ。
 サロメに愛されたとき、もうヨナカーンは聖人で無くなる。サロメの接吻を受け入れたとき、ヨナカーンはこの世には居ない。


 11月3日、最早レーゾンデートルの保証さえない国を挙げた盛大な宇宙旅行。
 吠えることしか知らないライカ犬クドリャフカは、皆に愛されたアルビーノの代わりにこの地を旅立った。
 翌年4月14日、それが果てるその日まで人間は夢を忘れていた。


/ライカ、クドリャフカ。ヨナカーン、サロメ


7日目、その前


( 後日談『7日目』 )



「あの人たちは私たちのこと、嫌いなのかなあ。」


 私、何も悪いことはしていないのに何でこんなことされてるのかな。
 こないだ、あの人達は皆よりも私が強かったら特別に此処から出してあげるよって言った。皆を殴ったり、蹴ったりすると私の体も心も傷んでくから、私は誰も傷つけたくなかったけれど、絶対って約束してくれたから頑張ったのに。なのになんで、なんで私は此処に戻ってきたの? なんであの人達は笑ってるの?

 体中が痛いよ。お父さん、どこにいるの。お母さん、助けてください。
 夜になると明日が嫌だって、心臓の辺りが痛くなるんだよ。明日になったらまた今日の繰り返しだから。朝になるともう起きたくないって、おなかが痛くなるんだよ。また今日という日が始まるから。
 ベッドの上に上がるのはもう慣れたけれど、体が動かなくなる薬を入れるための針は嫌い。体が動かなくなると何をされても痛くないけれど、薬が切れてきたらどんどん痛みが広がってくるのは辛い。
 いっそ死んじゃえば良いって言って、此処にいる半分以上の子が死んでいった。夜に首を吊った子は、次の朝には排泄穴や鼻の穴や口から色々なものを垂らして死んじゃってた。舌を噛み切って死のうとした子は死に切れなくて、大きな声を上げて泣いていたら軍人さんに連れて行かれたままもう戻ってきてない。


「私、いつか一人で死んじゃうのかな。」
「×××。そのときは僕も一緒に死ぬよ。一人で死ぬのは寂しいもんね。」
「……ありがと、×××」


 私は今日も白い部屋に入っていく。
 私は今日、また白に染まっていく。


/白い部屋


鳥葬


 あるところに、一人の幸福で自由な¥ュ女がありました。
 ある人は少女の事を「最も天に近い子供」と喩え大袈裟に囃し立て、ある人は少女の事を「卑怯者」と呼んで罵声を浴びさせ、またある人は少女の事を「掃除屋」だと言い張りました。どれも喩えとして正しくありません。少女は自由なのですから、何か一つに絞り喩え上げるのは根本的に間違っていました。少女は自由なのです。自由な、空を速く高く自由に飛び交う鳥。縛られずに、囚われずに生きている鳥。

 白いチョークで適当に描き殴られたアスファルトの壁の落書きは、どれほどの罵り言葉であっても、見ていられないほど酷く猥褻な単語であったとしても、この街のひとつ。夕暮れ時になると海が夕日を反射して、赤く煌く波に乗せ、延々と続く終わりの無い地平線を持つ砂浜に他国のモノを打ち揚げる。工場の煙を一杯吸い込んだスポンジのような広い空は黒く白く、灰色に染まり、風に紛れて汚い羽音を響かせて羽ばたく鴉の群れを隠していた。そんな街のとある路地裏で、肩に大きな鳥を乗せ、ゴーグルを付けた齢十数歳の少女が、黒い袋の中に異臭を放つソレを入れる作業を黙々と実行していた。一般人であれば鼻をつまみ、目を塞ぎたくなるようなその仕事を、少女は一人と一羽でこなしている。時折憂いを帯びた、年に似合わない複雑な表情をするが、その度に耳を大きな鳥に甘く噛まれ笑顔を見せる。大きな鳥は、その図体に合わず、くぐもったような雛のような高く小さい声を上げて、少女の肩の上から作業を興味深げに見下ろしていた。路地裏での非日常的なその光景、町での日常的なその光景。
 少女は黒い袋の中にソレを入れる。少女は黒い袋からはみ出しているモノに目を向ける。少女はモノを鷲掴みにする。肩に止まった大きな鳥が鳴く。少女は大きな鳥を優しく撫でる。少女は微笑む。鳥は大人しくなる。少女は微笑む。少女は表情を曇らす。少女はソレのあった場所を見る。少女はソレを見る。少女は懐を漁る。少女はうなる。少女は懐から出す。少女は黒い水筒を取り出す。少女は水筒の口を開ける。少女は水筒に口を付ける。少女は中の液体を飲む。少女は水筒をソレのあった場所の上へ翳す。少女は目を伏せる。少女は笑みを浮かべる。少女は水筒の中の液体を垂らす。液体が地面へと落ちる。液体が染みを作っていく。液体が洗い流す。液体が全てを洗い流す。少女は水筒から液体を垂らすのをやめる。少女が水筒の口を閉める。少女が水筒を戻す。少女は黙る。少女は大きな鳥に声を掛ける。鳥は何も鳴かない。少女は笑う。少女は笑う。少女は口を閉じる。少女はしゃがむ。少女は地面を見下ろす。少女は地面を見つめる。少女は空を見上げる。少女は立ち上がる。鳥が小さく鳴く。少女は溜息を吐く。少女は深い溜息を吐く。少女は大通りを見る。少女は大通りを睨みつける。少女は小さく笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は嗤う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。鳥が鳴く。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は哂う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。鳥が鳴く。少女は笑う。少女は笑う。少女は哂う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は嗤う。少女は嗤う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑う。少女は笑うのをやめる。少女は鳥を撫でる。少女は黒い袋を撫でる。少女は黒い袋の口を縛る。少女は黒い袋を撫でる。少女は黒い袋を撫でる。大きな鳥が翼を広げる。少女は微笑む。
 黒い袋の中のソレは、大切な彼らの食糧。


 此処は町の外れの山の上。この辺りでは最も天に近い、と呼ばれるほど高く高く、そして神聖な場所。少女は其処に居座っていた。いや、少女が其処を仕切っていた。
 少女の黄色く美しく輝く瞳が見つめる先には、沢山のソレの山。美しいソレがあれば、自然と醜いソレもある。欠けているソレがあったとすれば、満ち足りているソレもある。まだ動くソレもあれば、もう動かないソレもある。ソレから落ちたモノが、そこら中に散らばっているが誰一人として、見向きもしない。時折やってくる鳥があれば、モノを何度か啄ばみ場所を移動させる。少女は新しいソレを持ってきた人間に「此処に置いて」と指示を出す。人間は大人しくそれに従い、そそくさとその場を去ってゆく。去ってゆく人間を、興味の無い瞳で見送った後、少女は己の後ろで群がりじゃれあっていた鳥達に合図を出す。少女の肩に止まっている大きな鳥が高く大きく、空に啼いた。

 少女の黄色く鈍く光る瞳が見つめる先には、ソレに群がる仲間£B。周りには赤い液体が飛び、辺りには路地裏で嗅いだものより数倍も酷い異臭が漂い、鼻腔を刺す。少女は笑った。少女は泣いた。


/何にも囚われず、羽ばたいて

1から7へ


「愛しいよ、ペネロペ。」
 隣で静かに眠る女性の吐息を聴きながら、ネオン街外れのホテルの一室で眠りについた。
 翌朝、くずかごに捨てられたティッシュの山は紅く色づいていたがそれに気付いた従業員は恐らくゼロ。そして家を捨てた娼婦一人が行方不明になったところで大したニュースにならないのは何処の国でも同じこと。哀れな女性一人も救えないのが現状だ。


 ルーシェ・M・マレディクシオンが病的に女性と関係を持ち出したとき、彼女の周りの者達は何も咎めなかった。彼女自身も最初はお遊び以外の何でもなかった。つもりだった。
 その沼に足を踏み入れば最後、もがけばもがくほど泥濘に嵌ってしまう。それが無自覚のうちに無意味な繋がりに依存し、挙句は破壊してしまうルーシェの性癖と複雑に絡み合っていた。

 人を愛することは意外にも簡単で、軽く浅はかで、宙を掴んだときのように空しいやり場の無い気持ちになると知ったのはそのお遊び"を始めた頃からだった。異常な性欲を覚え、急速に悪化して一人では抑えきれなくなったのもその頃だ。何かが狂い始めたのだ。
 過去の異常な生活のせいか、彼女は人が作り出す愛というものに飢えていた。一人では感じられない温もりに飢えていた。そうやって架空の言い訳にすがりつき、口頭で述べただけの軽薄な愛を数え切れないほどの沢山の女性に捧げた。愛を捧げる行為にお金は一切必要ない。お金どころか確かめなければいけないほどの純情な気持ちも必要なく、ただ「好き」の一言があれば相手も彼女を愛してくれる。

 いつしか娼館に入り浸るような生活を始めていた。定期的にふらりと足を運びいれ、そのとき直感的に気に入った娘を買取り、束の間の幸せを握らせ、欲求を満たすために殺す。彼女を愛していたハイドは、ナマモノの何とも言えないにおいと鉄臭いにおいを連れて帰ってくる彼女を受け入れた。そうすることが唯一出来ることだと言わんばかりに。


「おはよう、ルクレチア。」
 ルーシェの紡ぐ愛はいつまで経っても軽薄なものらしい。しかし、やめろと言われてすぐにやめられる賭けでは無いのだ。
 彼女の指にはめられたネーム入りのリングが全てを語っている。


/林檎(クリムゾン・シード)、序章。

一方的に


 君が深く突き刺したその傷痕から吹き出て溢れて流れ出した、とても美しい感情にため息を漏らしながら僕は息を切らしながら、高笑いする。


「アッ……ハハ。無様だなあ、僕。今まで、溜めてきた物……ッ、ぜんぶ君に、取られるなんて」

 僕はずっと前から君の事を知っていたよ、君は僕を知らなかったようだけど。

 あの日、軍に新しい開発班が出来た。最年少でその班に入った君に、僕は一目で溺れてしまったんだ。コックピットを弄る君は、恐ろしいほど綺麗だった。足掻けば足掻くほど口の中に入り込んでくる水に抵抗する術も無く、幼く純粋な僕の心は君色に染まる。
 昔の思い出に躍起になってしがみ付いている僕は、もう君の隣に立つ資格を失っていたんだね。小さな音を立てて割れたプレパラートを踏み付けて、最後の言葉を美しく飾りつける準備をする。


「こんなにも、届かないなんて……」

 そうだ、僕は君になろうと思ってたんだ。
 いつも、貪欲で汚い魂を晒して貪り喰らう機会を逃さぬように眼を光らしていた。

 何でも体内に取り込めば侵食されると思っていたんだ。僕に笑い掛ける君の言葉は、いつも裏表が無く白と黒そのものだった。決して灰にならないその言葉に、何処か安心していたんだろう。前に君へ贈ったストライクイーグル、喜ぶ君と嫉妬の表情を浮かべるお姫様。まさかこんなことになるなんて。
 卓上のアネモネを一輪掴み、花弁を千切る。


「……結局、君に、」

 勝つ事はできないのか。


/この時代に人を愛した者にしか分からない感情が、確かにそこにあって
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