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フユモノガタリ(閲覧注意/U)

『寝た?』

『うん、寝た。』


山も、ケモノも、うちの子も眠っている。
真冬の山の中。
しんしんとした真白の世界に住んでいる。

眠る山。
眠る森。
眠る木々。

春を待って、眠っている。

俺達の周りにいるあのケモノも、冬場はやはり眠るようだ。
姿を見せる日がぐっと少なくなる。

でも、居るよ。
俺達を、うちの子を、うちの人たちを、村を、見守っていてくれている。

俺のチャンミンを、守ってくれている。


『寒い、先輩、足、寒くないの?』

寝るときは寒くても裸足だ。
なんにも着たくないぐらいだ。
チャンミンだって寝るときは裸足になるくせに。

『へいき、まだ若いから、』
『はいはい、』

そして、しっ、って怒られる。
せっかく眠ったうちの子が、起きてしまうから。

俺の部屋は子供にはちょっと寒いから、母屋のほうに寝かせている。
そして母屋で一緒に寝たりもする。
でも、今日は母屋に預けてチャンミンと二人で夜を過ごそうと思ってた。

裸足にサンダルで雪で埋め尽くされた庭を横切る。
さすがに冷たくて、思わず笑ってた。

明日の朝は、親子で雪だるまを作ろうか。
俺と、チャンミンの顔を作って。
うちの子の顔も作って。







暖めておいた離れの俺の部屋。
満足気に頷くチャンミンは、寒さで赤くなった頬を上機嫌にさせていた。
そんな上機嫌な頬に、俺の頬も上向きなご機嫌になるんだけどネ。

『おまたせ。』

そいうこと。

『ん、』

今夜は、そういうこと。


二人目の話が出て、回数がなんとなく増えた気がする。
意識してないわけじゃない。
まあ、意識してもできないものはできないんだけど。

わかってる。

わかってるさ、そんなこと。

あの子を迎えてから、むしろより強く感じているさ。
自分達からはどうやったって作り出せないということは。

でも、体は感じて反応するものらしい。
ほんとだヨ、反応してるんだ。
だから、交わりたくなるんだ。
互いに交わってなにかを得ようとしているってことだ。
物理的にはなにも作れないけれど、二人でなにかを求めているから、交わることに行きついてるんだ。

『ねえ、明日も見て回るんでしょう?』

『うん、』

山をね、木をね、見て回るんだ。
深くは入り込めないけどネ。
面倒みないといけない若い木もあってサ。

『いいの?』

『いいの、』

したいの。
するの。

腕を掴んで、引き寄せて、もう、体をまさぐる。

『せっかちだな、』

ふふ、ってあの笑い方が耳朶を掠めた。

『ほら、寒いからネ、』
『さっきは若いからって言ったくせに、』

押したり引いたり、笑いながら意味もなく体を触りあう。
中学生みたいな、手と手の戯れ。
笑いあって、舌を出して、拾って、拾われる、舌先の戯れ。

吸いあって、
頬っぺたまで舐め回して、
首まで進んで、
鼻から声を出して、
天井まで音を響かせている。

キスだけで、夜を越えられそうなくらいに。

今だけは、ガキみたいに触りあうこと楽しんで。

『ふふ、硬くなった。』
『そっちもネ、』

触れ慣れたその形をなぞるように指を動かす。
互いへの思いで大きく大きく、ずっしりと膨らませる。

布一枚のなかに押し込められているそれらを出してやって、また、触れあう。

唇も舌もまだ遊ばせたまま、手では飛び出したそれに触れて戯れて。
握り直して刺激にかえて。
漏らす吐息を少し濡らす。

『あ、やだ、強くしないで、』
『でも、いいんだろ?』

うん、て頷く顔は楽しそうだった。
それからまた、大きくさせる。
形よりも、思いの方が膨らんでしまうけれど。

『は、ん、』

途切れ途切れに声が漏れるようになった。
チャンミンはよく濡れる体をしている。
それが役割だというぐらいに。
俺に反応するということが、そういうことだと主張するように。

『あっ、』

鼻にかかるような、高い声。
いつもそうだけど、同じ声は絶対出さないんじゃないかな。

その時その時で、交わる気持ちも楽しみ方も違うから。
ケモノの皆さんが入ってきたり、そうじゃなかったりも、したから。
今もう、入ってこなくなったけれど。

うちの子を迎えてから、白い鱗に包まれることはなかった。

だから、

変わらないのは、求めるのが互いの存在だけだ。
満足するのも、足りないと怒れるのも、互いの存在でだけ。

『あ、…うう、』

うっとりと、でも苦しそうに眉を寄せる。

『気持ちいい?』

聞くと、顎だけ揺らして応えてくれた。
そのあとに、唇だけで笑ってくれる。
だから、もっと気持ちよくさせたいじゃん?

いつもは、チャンミンがしてくれる。
手で、口で、丹念に気持ちを込めて、尽くしてくれる。
だから今日は俺からしてやろうと思ってサ。

唇同士のキスを名残惜しんで一度離し、膝と膝に手と手を置いて足の間を開かせる。
一度は恥じらって、閉じようとする。

『なに、寒いノ?』
『ばか、』

見下ろして、
見下ろされて、
互いに見つめあって、
笑いあって。

俺の方がゆっくりと下降して、割った足の間に顔を埋める。

『ふ、んんん、』

俺の二の腕に、手を添えてきて指先に力を込める。
くすぐったそうに、気持ち良さそうに、耐えるんだ。
こういう時のチャンミンの手つきが、とても好きだ。
俺では、普通の男では絶対しないようなしなやかさがあると思う。
しなやか、違うかな、言ったら怒るから言わないけど、少し女の子っぽい気がする。

立ち上がったそれをゆっくり遊んでやる。
痛そうに張りつめて震えているのがわかる。
二の腕では不安定で、肩に手を滑らせてきた。
そしてまた、俺にしがみつく。
中指が伸びて、そして小指が浮く。
これがチャンミンという無意識の、個性。

『いい、んっ、あ、』

喉が反って、声が上擦る。

『ああっ、うんんっ、』

身を捩って、俺からの舌の遊びに耐えている。
声に同調して溢れるように濡らしてくる。

『やだ、ねえっ、』

余裕がない声。
それでもねだる甘い声。
折り畳んだ長い足。
反応する度に揺れて膝が動く。

肩に、腕に、チャンミンの指が食い込む。

まだ、終わらせてやらない。

俺の指をチャンミンの胸へもっていく。
また、まさぐる。
ちょんと乗った、胸の粒。
指の腹で潰してやる。

『あぁんっ』

今度は逆。
胸を吸ってやって、下を指で潰してやる。
下、チャンミンのそれ。
それの、先っぽ。
次々と濡れてくる先を指の腹で押してやる。

『ユノっいやだっ、いやだぁっ、』

肩から手が離れて、親指を噛む。
声を殺そうとするけど、殺しきれない。
甘い声はひたすらに漏れる。
胸の小さい粒も、取れてしまいそうなくらいに硬くなっている。
上も、下も、張りつめて苦しそうにしている。

『やだ、イッちゃ、』

体を強張らせてすべてを一度止めようとする。
本当にイキかねない。

くっつけていた体を一度離して、チャンミンは布団の上で居佇まいを正した。
呼吸を乱しながら唇を噛んで、頬は上気させたままで。

後ろ手をついて、自分からゆっくりと折った足の間を開く。

『ごめん、もう、入れて、』

『せっかちだネ、』

同じようなこと、さっき言われなかったかな、俺。
大きな目は開いているのに、眉は寄って下がりぎみになる。
唇は呼吸のために半開きで、睫毛は濡れてるんだ。

きゅっと搾るようにして閉じているそこに、指をあてる。
押し込む。

『んっ、』

やだって言う前に、キスして言葉を塞ぐ。

キスして、キスして、キスして、しつこいぐらいに続ける。
唇が空いていれば、キスを続ける。
しつこいって言われてもいいから。
どうせチャンミンは、応えてくれるんだから。

人差し指を飲み込ませる。
それから、中指も入れてしまう。
先に入れた人差し指が奥に当たって、その瞬間にチャンミンの体が大きく震えた。

『う、ううんっ、ん、』

時々べろべろと顎や唇から溢れだしたものを舐めとる。
また、頬も舐める。
耳と、首も。
それからまた、唇に戻る。
順は変わるけれど、ぐるぐると、唇が降りる場所を変えていく。
だいじなものを、だいじにする、犬とか猫みたいに。

指を抜いて、唇を離して、ほんの少しだけ見つめあう瞬間。

どちらからともなく笑って、またキスをする。

ぴたりとあてて、押し込んで、息を吐いて。

『あぁ、ふ、んふ、』

見えないけど、押し込んだ分のなにかがそこから溢れてくる。
全部入ると、チャンミンの指が俺のどこかを探してさ迷いだす。

『はぁ、うんん、』

目と目をあわせて。
何に頷いているのかわからないけど、頷いて。
笑って、また、キスをして。
さ迷っていた手を落ち着かせる。
俺の脇の下に腕を通して、背中から肩を抱き締めてくれる。
体が密着する体勢になったから、もっと深く押し込むことになる。

『あ……』

全部全部入り終わると、二人で息を吐いて力を抜く。
深く細く息を出した。

うっとりと、チャンミンの濡れた睫毛が上に開く。
見上げてくれる目は、いつだって綺麗だ。

『いくヨ、』
『うん、』

そんなふうに合図をする時も、くしゃくしゃの顔で笑ってくれるんだ。
しっかりと俺の背を抱いて、目を閉じる。
俺はチャンミンの首筋に降りて、チャンミンは俺の耳元に降りる。
唇がね。

ゆっくり動き出すと、気持ち良さそうに息を漏らしてくれる。
互いに少しせっかちだったけど、もしかしたらいつだってこんなものなのかもしれない。

だってこの瞬間が、互いに一番好きなんじゃないかなって思うから。

一緒になって、
一緒に繋がって、
一緒に視線を交わして、
一緒に合図して、

気持ちよすぎない瞬間だから、
お互いを一番感じあえる。

ゆっくり、ゆっくり、チャンミンの中で擦るように動く。
耳元で短く、甘くした声と息を漏らしてくる。

『きもちいい?』

ベタなことしか、聞いてやれない。

『うん、』

でも、満足げに答えてくれる。

『きもちいいよ、ユノ、』

ほら、うちのチャンミンはいいやつだ。
きちんと、俺を立ててくれる、いいやつだ。
人の目がなくても、あっても、不器用に立ててくれるんだ。

しっかりと腕も手も落ち着かせていたのに、気持ちよくなってくるとそれらをふらふらとさせハジマッタ。

肩甲骨に置いたり、また肩を抱いたり、腰に降りてきたり。

『あっ、あっ、あっ、』

顔の位置も、喉が反って頬をシーツに押し付けている。

手が、俺の腕に降りてくる。
やっぱり小指は浮いて、人差し指と中指を伸ばして、力を込めてくる。
耐えてくる。

動きを一度止めて、チャンミンの体も一緒に起こす。

『後ろからいい?』
『うん、』

好きなんだよね、俺、後ろからするの。
独占欲とか支配欲が強い証拠だって、笑って言われたことがある。
その通りだけどネ。
チャンミンを独占したいし、チャンミンとの夜は支配したい。
この閉ざされた山と村では、しているも同然だけど。

でも、あの子がいるとチャンミンか俺かのどちらかは必然的にかかりきりになる。
それはそれで幸せなこと。

そしてこんなふうに、一対一だけで向かい合える日は、この上なく幸せだとも思う。

『んぁああ、あ、あぁ、』

四つん這いにさせて、肩を落とさせて、尻を開いて、また押し込む。

後ろから見下ろしてると、チャンミンの横顔は喜んでくれていた。
シーツを掴んで、また、圧迫感に耐えるように目を閉じる。

俺だって、気持ちいい。
のたうち回れるなら、全身で喜びたい。

あの白いケモノのように、
お前のなかで這うように、
舞うように、
支配してやりたいと思うよ。

『チャンミン、』

もうあの白い世界は見えないけどさ、俺達は俺達で呼びあってこうしてるんだよネ。

『気持ちいい?』

キスばっかりしつこくしたり、
後ろからしたがったり、
こんなふうに何度も何度もきいたりして、
自分のことをけっこう湿っぽいヤツかも、なんて思うけど、

『うん、きもちいい、すごく、いいっ、』

きちんと反応してくれるチャンミンも、チャンミンだ。

打ちつけていると、速度がどんなものかわからなくなってくる。

早いのか、
遅いのか、
ゆるいのか、
きついのか。

でも、気持ち良さそうによがってくれているかな、これぐらいでいいのかな、とかネ。

浅い呼吸が二つ、バラバラに聞こえる。

そんな中でチャンミンを見下ろすと、ほんのりと赤くした、桜色の目尻が見える。



白に、赤い目が乗って、桜色の点が落ちる。

俺が惚れた、チャンミンの姿。

もう赤い目はないけれど、赤に守られているチャンミンはいる。

桜は咲くよ。

『いいっいいっ、ゆのッ』

山にも、

『あぁあっ、あ、あ、』

ここにも、

『イクイクイクっ』

そう、チャンミンの、ここにも、心にも。

もちろん、俺の中にもネ。





当然、一度で終わるはずもなく。
高まる度に交じりあった。
真冬でも、汗まみれになるくらいに。

外のように、真白のモノを、吐き出して。

できもしないもののために、息吹くなにかをまだ夢見て。


白い白い、真冬のなかで、

それでも必ず咲いてくれる、

この山の桜のように、

俺達のなかにも咲いてくれるなにかを待っている。






朝が来たら、雪だるま。

丸くできたら、顔を三つ。

いや、四つ、五つ、

そう、もう、この村全部の顔を作ればいい。

まだまだ冬は、長いから。




春がきたら、またなにかが、芽吹くかな。


































おわり。
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