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オルタナ


彼が浮気している。
白と水色のいタイルメントに囲まれたワンルーム。かつかつと鳴らす爪音が無意識にリズムを刻むオルタナティブ。
暑くも寒くもない常温の、やや冷たい室温に眉を顰る。流しから手を上げた彼の手首から泡が伝って落ちた。
そんな機嫌良い顔、いつ以来?
フローリングに裸足の音が流れる。ベッドからそれらを眺めていた僕はスプリングから下りて床を辿る水滴を掬い上げる

「きちんと拭いてよ。滑るんだから」

泡に気もやらない彼の腕をタオルで拭い胸の前で固く握った。あれ、僕の手って結構熱いんだ、なんて冷水上がりの彼の手と比べたりして、彼は不敵に口を歪めてけれどそれには機嫌の悪さのかけらも表れてないから余計に
コンポの前へ向かいディスクを入れ換える。取り出した指がプレイをかけるとコンポから同じ声が流れ出した

木下りき
口を尖らせ呟いた。彼の浮気相手の名は聞いてもいないのに孤独を歌い始める
今度こそにやりと口角を上げた彼の目には一秒一秒を繋ぐトラックが映るばかりでもう何度聞いたか知れない木下りきの歌声は僕の耳にも記憶されていった。

「嫌いじゃないんだろ」
「単調で退屈だよ」
「アートだ」
「……眠くなる」

横になる僕の鼻先に洗剤くさい彼の手が伸ばされいよいよむずかゆい気持ちに拍車がかかる。頬から耳へ滑り、柔毛を撫でる、彼の掌が頭の下へ潜り込む。曲げられた小指を甘噛みしても彼の視線は上向いた侭トラックを辿る。

「音楽なんてきらいだ」

声を殺して彼がわらった

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