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忘れる

あいつを忘れる
髪や肩の匂いを忘れる。肌の温もりを、忘れる。
しつこい位に触れる行為をしたがる懐いた顔、ぼんやりと自分よりも長身だったことを思い出す

日毎忘却の彼方へ消えていく奴の名残を辿る術はなく、浅はかな月日の流れを他人事のように流しては、離れた時からもう手繰ることはないと予感した
朧げな記憶に飲まれた奴に関して思い出せるのは、白痴で欝陶しく底無しだった
肌が白く、肩に噛疵があり、それは己の歯型で、消えることはなくて。なにかにつけては泣いていた。そのくせ目だけは産まれたてのなにもかもが初めて見るもののように澄み切っていて、笑うと
笑うと―――
飲まれなかった記憶の底に以前使った形容が残っていた。笑うと花が綻ぶようだった


不毛なことを一度だけ。もしもあいつが孕んだら、この腐った浮世へ堕とされた生ゴミに名前と命を与えられたら
痣だらけの口から血を吐きながら微笑んだ奴を抱きながら
ばかばかしく思いまたのろった

忘れる

彼を忘れる
朧げな輪郭を辿る記憶も耳から頬の隆起までしか起こせない。うすぼんやりした記憶の中で思い出すのはあの朝。滲んだ朝の冷たさを浴びて彼の肩に額を預ける夜明け
脇腹から差し込まれた腕が背中を倒すのに従い彼のその空いた胸へ吸い込まれる。首筋から伝わる心臓の音、や。息をする僅かな空気の音、に。包まれ。ああ、これが欲しくてこの世界を造り付けたんだ、酸素より自然な形で吸収していった仄寒い夜から朝への隘路の最中で名前を呼ばれた
久々に耳にした自分の名前に胸を掴まれたようだった
この先あの瞬間を忘れることは出来ないだろう。他の全てをなくしても。彼の顔さえ思い出せない今を置いて。
断片的な彼の面立ち、あらゆる具象を忌まわしく疎むような眉間。
目だけが鋭くぎらついていて。その目だけで自分を投げたしたくなる。彼と居たいとはもう思わなくなっていたけれど、あの目を思い出すと彼から離れてはいけない気持ちになる。献身でも固執でもなく、純粋に惹き寄せられていた。



子供が欲しいと思ったことはない。けれど
一度考えたことがある
もしもこの腹に命を抱えたなら例えそれが物言わぬ肉の塊だとしても、彼はそれを下水に投げ捨てたりしないんじゃないか


それ以上はないよ。無意味な仮定にその先はないの

※Over

※年齢指定Over16




すきあえなかったぼくらをかれはもとめなくなった。にくよくさえいだかれなくなったぼくをそれでもおいているのはかれのほんのうをみたすためにほかならない。たまにかさなることもあったがそれはかれがぬきたいだけでおなじくぬいておきたいぼくはかれにあわせた。もうこっちをみむきもしないとわかっているからとくべつなかいわはしないで、ただこのごろはいざとなるとからだのまったんがこころもとなくなる。てあしのさきがこうちょくしてしびれをきたす。それはかんじょうのていこうだったのかもしれない。こえをころしていきをつぐよるやみにおよぐむねがさむざむしかった
ふれられることをいとうかれをいたんでしーつやべっどのふちをつかんだ。まるでどういしていないいっぽうてきなこういのようでわれにかえるとひどくみじめなきもちになる。もうかれにだきつくことはない。つめたいけんこうこつのうきでたせなかへうでをまわすことはもうできない
ゆさぶりがゆるくなる。すこしでもぬけおちるのがいやであしをゆらした。ねつにうかされていないとしにたくなる。そこなしにまわされつづけるならしらないあいだにいしきがはくだくにのまれ、もうめをさましたくなくなる。やはりかれはぼくをころすひとなのだ。それがくちおしくなっていた。けれどかれのてのうちがわでふれられるだけでころしてくれとこうてしまいそうだった。すべてがいやになった
せかいはおかしくなっている
なみだがとまらない
いぜんはそとのせかいがいやでうとんでないていた。かれのそばならじぶんでいられた。おもうままかんじょうをたれながしおかしくなれた。それがこのせかいのこんていのできごとだった。なのにいまはかれがいやでなみだがでる。つらくてくるしいしにたくなるのがかれのせいだなんて
またいしきがとおのいた


 いきたいのにいかされたいのに
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Room

だるさを覚えた。長い腕をかけていた隣の男は白い顔につやを出している。寝ている間にことを済ませた男の晒された寝顔に柔毛が絡まって、生まれ落ちたばかりの乳児はこんなものかなんて思ったら頭に浮かんでいた台詞を忘れた。毛布のから伸びる手足の鬱血、鎖骨のほくろ、ひやいだ膚の匂いが馴れたこいつのものそのままなのに昨夜は別人だったらしい。じわりと痺れを残す下肢に手を宛てる。
何を血迷ったかゴムを着けたままだった。引き抜き、中身を垂らす口を下にすると「愛」が零れた。生まれなかった命は親の腕に絡まって溶けた
思い出したように触れた首の後側。いつも痕を付ける箇所がやはりまだ温かった。
冷たい体とこいつは言う。胎内の熱さが落ち着く、と。「君も同じだったら嬉しい」そうして目の無い所へ頭を垂れ押し当てる。その都度 お前の体は冷たくないからわからない と答える機会を失っていた。

惰眠を貪る背中に乗り掛かった。骨っぽい関節を逆さから指でなぞる。繋ぎ込まれた筋組織、虐げる度痣を浮かべる皮膚の滑らかさの中に獣の息遣いを感じた。慈善ぶった面の下はなんてことはないただの男だ。それを再確認して鼻で弾いた

「起きるなよ」
耳に歯を当て流し込む。虚ろな目を何度か開閉した奴が呻く
「先に起きようと思ったのに」
「盛るからだ」
太腿から尻を撫で掴んだ。やりかえしてぇ。だるさを無視してなし崩しにしてやりたかった。だが抜けるように笑っただけでろくな反応は反ってこなかった。
精魂尽きた寝顔から醒めたそいつの泪嚢に陰を溜めた瞼が半覚醒のまどろみに波打つ。そのくせ表情はえらくふやけているものだから、完徹後の休日でも迎えたような柔和さが漂っている。在りし日の光の粒に晒されて
(君のことを考えてるの、わかってよ。とても眠くなるんだ)

甘んじて項へ浮かんだ汗の粒を吸うと身じろいで寝返りをうった

「昨日僕もそうしたんだよ」

嬉しそうに眦を下げてキスをせがんだ。

強欲を娶る業突く張り

 恋はまやかし 愛は強欲
なんて荒んだ思考回路。

「お前の恋愛観はそんなもんか」
「どうせそんなもんだ。お前だって」
「そんな不純物で出来ちゃいねぇよ俺のはね」

でかいベッドに並んで結婚雑誌をめくる手に指輪。この甲斐性無しがとうとう嫁をとることになる。納得いかないのは義理の姉になる女と反りが合わないというのもあるが、前触れもなく婚約の告白をされたのが帰宅した直後だったことだ
一時間前までこの駄目男が所帯を持てる筈無いと思っていた所へつけて、あまりに呆気ない婚約発表に毒気を抜かれた。年功序列とはいうものの先を越された感が不服だった。

「三組に一組は離婚するんだとよ」
「問題無い。俺は寛大だから若い燕の一羽くらい目をつむってやれるから」

流し見としか思えない速度でページをめくりまくるコイツの何処に結婚の文字があったのだろうか。半生を共にしてきた自分にもさっぱりわからないのだ

「それに今更婚約破棄なんてしてみろ。夜逃げした揚句二度とこの地を踏めなくなるんだぞ」

わからなくて当然だ。こいつにそのつもりは一切なかった。
すべては酒の席でのことらしい
酒に弱い癖に羽目を外したがるコイツを誘い強引に縁談を進めたのは女の方で、あの女はコイツの酔えば『気が大きくなって後に引けなくなる』習性を逆手に取ったとしか思えない
だから調子に乗って飲むなと口煩く言い続けていたのに
俺からして見りゃそんなつまらないことで初婚を捧げる二人は馬鹿以外の何物でもなかった

「馬鹿だよな、その気もないのに結婚するとか」
「面子で所帯持つんじゃない、企業拡大で家族を作るんだと思え。お前の身内になるんだから少しは愛想を使えよ」
「くだらねぇ愛も恋もすっ飛ばして子孫さえ出来ればいいなんて」
「そうはいうけどな、俺もお前も愛の結晶なんだって」


そりゃあうちは駆け落ちなんだから愛もあっただろうよ、諦観の息を吐いて頭を落とした
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