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宝物

初の膚は白い
その鎖骨より上、首から肩にかけて染み付いている痣、というには大きな痕について、初は何も言わない
時々摩る仕草をしている。愛しげに


Title-Joy

動物に例えると

成実ちゃんはげっ歯類だよね。
取り留めなく差し向けられた台詞に感嘆句を零して固まった。

断じて歯が出ている訳ではない。
「ちょこちょこ動き回ってどこか抜けてる」処からとの事。それならと納得し掛けて思い止まる。嬉しくない

「レダさんは猫ですよね。明らかに」
「ネコっていうな」
「え?」
「いや、単なる心の声。処で猫はねずみを追い回すイメージだよね」

確かに猫はすばしこく己より小さなねずみを餌にしている印象がある。海外アニメのような猫とねずみの追い掛けっこは容易に思い浮かぶ

「最近の猫は餌貰ってるからねずみなんか食べないんだよ」
「じゃあなんで追うんですか」

くいっと口角を開いた顔はいつもと同じであるはずなのに何故だか背筋が張る。つい最近同じ感覚を覚えた気がするのだけど、そんなことより鋭く吊った双眸から逃れられない。影を地面に縫い付けられたみたいに

「狩猟本能」


ほらはやく逃げないと、にゃんこがすぐそこに





(追うつもりですか)
(逆だよね。君が捕まえてご覧なさい)
((……あれ?誰かみたいな))


Title-Joy

オルタナ


彼が浮気している。
白と水色のいタイルメントに囲まれたワンルーム。かつかつと鳴らす爪音が無意識にリズムを刻むオルタナティブ。
暑くも寒くもない常温の、やや冷たい室温に眉を顰る。流しから手を上げた彼の手首から泡が伝って落ちた。
そんな機嫌良い顔、いつ以来?
フローリングに裸足の音が流れる。ベッドからそれらを眺めていた僕はスプリングから下りて床を辿る水滴を掬い上げる

「きちんと拭いてよ。滑るんだから」

泡に気もやらない彼の腕をタオルで拭い胸の前で固く握った。あれ、僕の手って結構熱いんだ、なんて冷水上がりの彼の手と比べたりして、彼は不敵に口を歪めてけれどそれには機嫌の悪さのかけらも表れてないから余計に
コンポの前へ向かいディスクを入れ換える。取り出した指がプレイをかけるとコンポから同じ声が流れ出した

木下りき
口を尖らせ呟いた。彼の浮気相手の名は聞いてもいないのに孤独を歌い始める
今度こそにやりと口角を上げた彼の目には一秒一秒を繋ぐトラックが映るばかりでもう何度聞いたか知れない木下りきの歌声は僕の耳にも記憶されていった。

「嫌いじゃないんだろ」
「単調で退屈だよ」
「アートだ」
「……眠くなる」

横になる僕の鼻先に洗剤くさい彼の手が伸ばされいよいよむずかゆい気持ちに拍車がかかる。頬から耳へ滑り、柔毛を撫でる、彼の掌が頭の下へ潜り込む。曲げられた小指を甘噛みしても彼の視線は上向いた侭トラックを辿る。

「音楽なんてきらいだ」

声を殺して彼がわらった

センチメンタル


最初に、
仕事帰りに少し遠回りをする。道中気になっていた店の近くで、そうだ何か買っていこうと考える。
適当なものを選んであの人の家へ向かう。道中もういないよと思いながら、手にした袋を傾けないように持ち直して高く映える空の下を歩くけれど
その人の家は一本道になっているから、もういないんだよ、その前をすう、と素通りして帰る。袋の中身はあの人の好きなものばかりで、自分の口に入れるつもりはなかったから直ぐには無くならない。呆然と机の上にいつまでも置いたまま、それでも世界は動いているから。酸化して融解して駄目になるのを止められないから。
もういないんだけどなあ。そうして胸にくるものをただ在るがままに感じ取り、ちょっと涙が出た

(無題)

眠る場は花を飾って、絵を掛けて、静寂と今はまだ繰り返される呼吸の音で満たす。
他の部屋の内装と正反対の色彩を尽くした寝室が拠り所だった。
意識から確立された体のみが横たわる其処は、最も終焉に似た場所だと思っていたから、帰らない間弔うように物を集めた
最もこの男は所以など毛ほども気に留めずやっているに過ぎないだろうけど
発疹で晴れた指をシーツが刺激する。忽ち破れた水疱から膿が出たがどうでもよかった
先に倒れた男の上へ被さるように身を倒すと首筋に顔を埋めた
仮に結ばれたとして、幸せになるとは到底思えない。
報われることが大罪であると振れ回った何処かの誰かのお陰で、一度たりとも口に出さずひっそり胸の内で飼いならしている。この感覚に遣る瀬無さがあったのかどうかも、もう昔の事。
遣る瀬無いとのた打ち回る事はなかった。得るものも無ければ失うものもなかった。現状が所有している全てで、後は経るのみだ
もどかしい布地を情緒も無く捲り、硬い肌に触れ、それで。どうなる?
気力は答えを導く間も成しに閉塞した。実の無い産物に対する探究心なんてそんなものだ
疲れても居ない瞼が下がると不思議なほど簡単に意識が虚った
布越しに伝わる呼吸が嘘のように穏やかだった



未だ醒めない惑溺
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