だるさを覚えた。長い腕をかけていた隣の男は白い顔につやを出している。寝ている間にことを済ませた男の晒された寝顔に柔毛が絡まって、生まれ落ちたばかりの乳児はこんなものかなんて思ったら頭に浮かんでいた台詞を忘れた。毛布のから伸びる手足の鬱血、鎖骨のほくろ、ひやいだ膚の匂いが馴れたこいつのものそのままなのに昨夜は別人だったらしい。じわりと痺れを残す下肢に手を宛てる。
何を血迷ったかゴムを着けたままだった。引き抜き、中身を垂らす口を下にすると「愛」が零れた。生まれなかった命は親の腕に絡まって溶けた
思い出したように触れた首の後側。いつも痕を付ける箇所がやはりまだ温かった。
冷たい体とこいつは言う。胎内の熱さが落ち着く、と。「君も同じだったら嬉しい」そうして目の無い所へ頭を垂れ押し当てる。その都度 お前の体は冷たくないからわからない と答える機会を失っていた。

惰眠を貪る背中に乗り掛かった。骨っぽい関節を逆さから指でなぞる。繋ぎ込まれた筋組織、虐げる度痣を浮かべる皮膚の滑らかさの中に獣の息遣いを感じた。慈善ぶった面の下はなんてことはないただの男だ。それを再確認して鼻で弾いた

「起きるなよ」
耳に歯を当て流し込む。虚ろな目を何度か開閉した奴が呻く
「先に起きようと思ったのに」
「盛るからだ」
太腿から尻を撫で掴んだ。やりかえしてぇ。だるさを無視してなし崩しにしてやりたかった。だが抜けるように笑っただけでろくな反応は反ってこなかった。
精魂尽きた寝顔から醒めたそいつの泪嚢に陰を溜めた瞼が半覚醒のまどろみに波打つ。そのくせ表情はえらくふやけているものだから、完徹後の休日でも迎えたような柔和さが漂っている。在りし日の光の粒に晒されて
(君のことを考えてるの、わかってよ。とても眠くなるんだ)

甘んじて項へ浮かんだ汗の粒を吸うと身じろいで寝返りをうった

「昨日僕もそうしたんだよ」

嬉しそうに眦を下げてキスをせがんだ。