恋はまやかし 愛は強欲
なんて荒んだ思考回路。

「お前の恋愛観はそんなもんか」
「どうせそんなもんだ。お前だって」
「そんな不純物で出来ちゃいねぇよ俺のはね」

でかいベッドに並んで結婚雑誌をめくる手に指輪。この甲斐性無しがとうとう嫁をとることになる。納得いかないのは義理の姉になる女と反りが合わないというのもあるが、前触れもなく婚約の告白をされたのが帰宅した直後だったことだ
一時間前までこの駄目男が所帯を持てる筈無いと思っていた所へつけて、あまりに呆気ない婚約発表に毒気を抜かれた。年功序列とはいうものの先を越された感が不服だった。

「三組に一組は離婚するんだとよ」
「問題無い。俺は寛大だから若い燕の一羽くらい目をつむってやれるから」

流し見としか思えない速度でページをめくりまくるコイツの何処に結婚の文字があったのだろうか。半生を共にしてきた自分にもさっぱりわからないのだ

「それに今更婚約破棄なんてしてみろ。夜逃げした揚句二度とこの地を踏めなくなるんだぞ」

わからなくて当然だ。こいつにそのつもりは一切なかった。
すべては酒の席でのことらしい
酒に弱い癖に羽目を外したがるコイツを誘い強引に縁談を進めたのは女の方で、あの女はコイツの酔えば『気が大きくなって後に引けなくなる』習性を逆手に取ったとしか思えない
だから調子に乗って飲むなと口煩く言い続けていたのに
俺からして見りゃそんなつまらないことで初婚を捧げる二人は馬鹿以外の何物でもなかった

「馬鹿だよな、その気もないのに結婚するとか」
「面子で所帯持つんじゃない、企業拡大で家族を作るんだと思え。お前の身内になるんだから少しは愛想を使えよ」
「くだらねぇ愛も恋もすっ飛ばして子孫さえ出来ればいいなんて」
「そうはいうけどな、俺もお前も愛の結晶なんだって」


そりゃあうちは駆け落ちなんだから愛もあっただろうよ、諦観の息を吐いて頭を落とした