……貴方を、忘れられません。
私は、どうしても、貴方が良い……。
貴方が好きな、赤い花。
あの花には、毒があります。
私は、きっと貴方にとっては毒なのでしょう。
それでも、あの花のように、貴方に…愛されたい……。
「私を、利用すれば良い」
そう口にした彼女は、強い決意をその目に漲らせていた。
「『状況』は確かに良くないが、それはどうにでもできる。というか、してみせる」
力強く、彼女はそう宣言する。
「君の『感情』が、それを拒むというのなら、無理強いは出来ないが」
「いや、だから、それは」
「『わからない』のだろう?」
彼女と交わした会話のなかで、確かにそう言った。自分の感情がわからない。というか、麻痺している、と。
「なら、『感情』のことはひとまず置いておいて、選択肢としては、どうだ?」
「選択肢……?」
って、何のだよ?
「もちろん、生存戦略として、だ」
「?!」
……お前、自分で、何を言っているのか、わかっているのか?
「本能に従うことは、何ら罪ではないさ。それを正直に言わなかったことに、少し腹が立っただけだ」
しれっとそう言って、彼女はこちらを見る。
「……触っても、いいかな?」
いきなり、そういう顔をするのは、ずるい。
上目遣いでおずおずと手を伸ばす彼女。先ほどまでの強気な姿勢と打って変わって、とても不安そうだ。それでも口元を笑みにしようとしている。そんな様子の彼女を、跳ね除けることは、出来なかった。
「良く考えたら、君に『そういう対象』として見てもらえただけで、この上なく嬉しいことなんだよなーって、気づいたの」
だけど、それは、『感情』で選んだわけじゃない。
「本当はね、私のこと、『好き』になって欲しかったよ。でもね。今の君には、そんな余裕がないってことも、わかってる。だったら、私のこの『君を好き』な気持ちを『利用』して?」
都合良く、利用していいから。と彼女は微笑んだ。
「私も、こんなに君のことを求めてしまうのは、きっと本能的な部分も、あると思う」
重ねた手が、優しく包み込むように、ゆっくりと指先を撫でる。
「あー、でも、もう私じゃ、『そういう対象』にも、ならないかな?」
ただ、握った手をそっとなぞるだけの行為を、彼女は繰り返した。そうしながら、こちらの反応をうかがっている。
「そうだよね。私、貴方のこと、散々傷つけちゃったし、もう貴方にとっては、『毒』でしか、ないよね」
そう言って俯き、彼女は静かに手を離した。その手が、微かに震えている。
……また、泣かせるのか?
そんな声が、聞こえた気がした。