※この作品は素人な作者による微妙に足りない知識のもとで書かれました。専門的に間違っていても、素人故にご容赦願いたく思います。
※作者はこの病気の患者さんを誹謗中傷するつもりはありません。あくまで文学作品としてお読みください。
※この作品はフィクションです。
目が覚めると病院のベッドの上だった。
傍らには心配そうにこちらを覗きこむお兄ちゃんの姿があった。
「美和…。」
きっとさっきまで泣いていたんだろう。お兄ちゃんは目を真っ赤にしていた。
「お兄ちゃん…。来てくれたんだ。」
うまく力が入らない体を動かして、お兄ちゃんのほうを見る。お兄ちゃんの眉間には深いしわが刻まれていた。
「美和…。大丈夫か?どこか痛かったり、苦しかったりしないか?」
お兄ちゃんの声が耳に心地よく響く。
「ん…。ちょっとダルイけど大丈夫。」
微笑もうと顔に力を入れたけど、うまく筋肉が動かなくてぎこちなくなってしまう。すると、お兄ちゃんの眉間のしわは、さらに深くなった。その顔で私を見つめるお兄ちゃん。
「…お兄ちゃん、来てくれてありがと。美和は、お兄ちゃんの顔が見れただけで元気100倍だよ!」
あまり大きな声は出なかったけど、お兄ちゃんの表情は少し和らいでくれた。
「…そうか。あまり無理するなよ。」
それでも不安そうなお兄ちゃんは、私の手を握ってそう言ってくれた。私はその手の温もりが嬉しくて、うまく動かない顔ではにかむ。
「…悪い。ひと待たせてるから、そろそろ行かなきゃ。」
ふいに、お兄ちゃんがそう言って、手が離れた。とたんに心には不安の雲が渦を巻く。
「ねぇ…。また、来てくれる…よね?」
心もち上目遣いで聞くと、お兄ちゃんはにっこり笑ってうなずいてくれた。
「じゃあ、また来るから。早く治るようにおとなしくしているんだぞ。」
妹にそう言って、僕は病室を出る。妹はコクッとうなずいてから、小さく手を振って見送ってくれた。
ふうっ、と息を吐く。…あいつが倒れるのは、もう何回目だろう。
妹…美和は、幼いころに肺炎で死にかけたことがある。その時は、両親や兄である僕が毎日病院に通い、美和の回復を祈った。そして美和は一命を取り留め、普通に暮らせるまでになった。僕と両親は素直にそのことを喜んだ。そして、それから何事もなく数年が過ぎた。
ところが、美和は中学2年の秋、再び入院することになる。今度は原因がよくわからないが、学校で突然倒れたのだ。ちょうど授業を受け持っていた担任の先生によって、美和は病院に運ばれた。そして、昏睡状態のまま三日間が過ぎた。四日目に美和は意識を取り戻した。ぼんやりと僕や両親を見る美和の瞳がやけに虚ろだったことを、今でも覚えている。
5度目に美和が入院した時、いくらなんでもおかしいと両親は思い始めたらしい。美和は病気になるようなことは何もないのに、頻繁に倒れ、入退院を繰り返している。肺炎はとっくに治っているし、精神的に圧迫されているということもないだろう。美和にはたくさんの友達がいる。僕ら家族だっている。しかし、美和は何の前触れもなく倒れてしまう。これはおかしいと思って当然である。
どうして美和は倒れてしまうのか。そのことで両親はいつも議論し、そのまま喧嘩に発展していた。とくに母は入院するたびに美和の世話をしていたために、疲れきっていて、いつもヒステリックに喚き散らしたり、泣き叫んだりしていた。
一年もするころには、母はすっかりノイローゼになってしまった。父は母と美和を一緒にしておくのはよくないと判断し、母を実家に帰したのだった。母の実家は、祖母が一人で暮らしていた。娘が帰ってくることを彼女は歓迎し、母は今もそちらで暮らしている。
一方、父は仕事をしながらも、僕と美和の面倒を見ていたが、もともと家事などしたことがない男だったから、すぐに音を上げてしまった。今、父の代わりに僕が家事一切を引き受けている。そして、美和が入院すると、僕がほとんど世話をしている。
「はぁ…。」
ため息をもらして、廊下を歩く。美和が最初に学校で倒れてから一年半が経った。その間に僕ら家族はバラバラになってしまった。
少女はベッドの上で、一人微笑んでいた。一見すると、穏やかに見えるその瞳の奥には、狂喜が浮かんでいる。少女のほかには誰もいない病室で、彼女は少し前にここを訪れた兄とのやり取りを思い出していた。
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「ねぇ…また、来てくれる…よね?」
少女が聞くと、兄は笑ってうなずいた。
「心配しなくても、また明日もくるよ。」
そう言って、さっきまで少女の手を握っていた右手で、少女の頭をなでる。少女は嬉しそうに顔をほころばせていた。
「…あのね、お兄ちゃん。お願いがあるの。」
ふいに少女が顔をあげて言った。兄は首をかしげて、少女の次の言葉を待つ。
「美和のこと…ギュってしてほしいの。」
恥ずかしそうに顔を赤らめて言う少女に、兄は「いいよ」と言って手を伸ばす。そして、そのまま少女を抱き寄せた。その時、少女が何かを兄の背広のポケットに滑り込ませたのに、彼は気付かなかった。
「原田さん。妹さんの血液から違法薬物が検出されました。病院からの通報によりますと、妹さんはあなたに薬を注射されたと言っているそうです。重要参考人として、署までご同行願います。」
お兄ちゃん。お兄ちゃんがイケナイのよ?お母さんとお父さんを私から遠ざけて独り占めしたり、私に隠れて女のひとに会ったりするから…。
ぜーんぶ、お兄ちゃんのせいよ?
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企画
終末恋愛様
この企画に参加することができて、よかったです。こういう話は書いたことなかったので。
重い話は書きづらいということがわかりました。でも、読むの好きだし、書いててちょっと楽しかったです。
ありがとうございました!