心音(ラブカス♀)過去話
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私の名前は心音です。お母さんと二人で暮らしてます。好きなものはお歌を歌うことと、玉子焼きと、お母さんです。大きくなったら、お母さんみたいなママンボウになりたいです。
ーー物心ついた頃から父はおらず、母と二人だけの家族でした。ですが周りは優しい人達に恵まれて、寂しく思う事はありませんでした。
母が働く間、色んな人達に面倒を見てもらいました。だから母は『心音は皆に育ててもらったのよ』と私に言い聞かせていました。
母は朝から晩まで働いていましたが、私に疲れた顔を決して見せませんでした。私が駆け寄ると優しく抱きしめて、その日あった出来事を話す拙い言葉を、頷きながら静かに聞いてくれました。
冷え性の母は、私に触れる時息で自分の手を温めて、そっと撫でてくれました。けれど私は、熱を出すとおでこに乗せてくれるひんやりとした手も、心地良くて好きでした。
強く、美しく、優しい母は私の自慢でした。大きくなったら私は、母のようなママンボウに進化したい。ずっとそう思ってきたのです。だからあの時、友達と将来の夢の話になった時もそう言いました。
「そうなんだ!」「素敵な夢だね」
友達は口々にそう言ってくれました。でも……
「バカじゃねえの」
一人の男の子がそう言ってきました。ちょっと意地悪で苦手な子でした。
「バカって何よ!」
「だってそうだろ。心音はラブカスじゃん!ラブカスはママンボウになれないんだぞ」
「え?」
……自分がラブカスなのは知っていて、だから私は大きくなって進化したら、当然母と同じママンボウになるんだと、そう思っていました。
ラブカスはママンボウになれない。それは
「じゃあ、心音と、お母さんは……」
「心音ちゃん!」
たまらなく胸が苦しくなって、私は思わず逃げ出しました。
けれど勇気のない私はとぼとぼと家に帰り、部屋の片隅で膝を抱えて泣きました。嘘なら良いのに、夢なら良いのに、そう思いながら。
「……心音?」