アネモネ(★アブソル♂)・雪菜花(★エアームド♀)過去話
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雪菜花を連れ出して良かったのかと、今でも思う時がある。
最初は向かいに住んでいて、落とし穴に嵌められ嘘泣きに騙され、憎たらしい悪ガキとしか思っていなかったのに。
母親に育児放棄されていたあいつを段々構っている内に懐かれて、妹がいたらこんな感じだろうか。そう思っていたあいつが、とうとう母親が帰って来なくなり、膝を抱えて泣いていた。放っておける訳がないじゃないか。
……いや、俺が寂しかったのかも知れない。
同じく母親に捨てられ、その上俺を拾って面倒をみてくれたあの人も死んでしまって、また一人で生きていく事が耐えられなかったのかも知れない。
「俺と一緒に行くか?」
そう言った時の雪菜花の顔を、今もはっきりと覚えている。
俺とあいつは同じだった。金も行くあても、明日の保証もどこにもなかった。あるのは、何もかも自分で選ぶ責任と自由と、覚悟だけだった。
お互いしっかりと手を繋いで、歩きだしたのだ。
◆◇
もしアネモネについて行かなかったら、今でも思う時がある。
父が亡くなってから、母は段々私に構わなくなっていった。私を見なくなった。それが寂しくて寂しくて、誰でも良いから私に構って欲しかった。
アネモネだけだった。私の悪戯にいつも面白い反応をしてくれて、それでも私に関わってくれたのは。
けどお向かいの洋食店が閉店して、アネモネが出て行くと聞いて私は絶望した。母が帰って来なくなって一週間が経っていた。皆私の前からいなくなっていく。一人はこんなにも寂しいのに。
泣きじゃくる私に、アネモネは一緒に行くかと言ってくれた。その時の事は今もはっきりと覚えてる。迷った。でも……お母さんは、私がいなくなったら幸せになれるかもしれないと、そう思った。
私とアネモネは同じだった。家族に置いていかれて、誰も助けてくれなくて、一人で生きていかないといけなかった。きっと私は、アネモネについて行かなかったらそんな事出来なかった。
「連れ出してくれて有難う。アネモネ」
そう言うと彼はとてもびっくりして、珍しく照れたように、笑った。
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スイートピー…花言葉は『別離』、『門出』
メンドラ…莉紅さんの小説のドラジェ視点再掲
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今日はメンデルの誕生日。当日会うのは難しいだろうと思っていた。声をかけてくれるのはいつだって彼だ。
何でもかんでも委ねるのはどうかと思っている。けれど、お互いの仕事もだし──私から誘って困らせたらどうしよう、と毎回躊躇ってしまう。
変装しつつ素敵なデートコーデをしたいと、教えてもらったり検索したりするけれど、変じゃないかとか、そもそも彼の好みかどうか頭の中はぐるぐる。変な応答してないかしら?
それでもこうして彼との時間を過ごせている事が嬉しくて、さっきからタイミングを逃し続けてる私。そうこうしてる間に、時間の終わりをスマホのバイブに告げられて。
時間設定間違えたかなというくらいあっという間に過ぎてしまった……次の現場までだけでも、一緒にいて欲しい。なんて言える筈もなく。
だから彼の方からエスコートしてもいいか聞かれた時、私はスマホを落としかけた。嬉しいけどそれはもし、誰かに見られたら……迷惑がかかってしまわない?
でも彼は、優しい笑顔で手を差し出してくれた。甘えてしまう自分をどうか許して欲しい。
少しだけ延長された、彼と過ごす特別な時間。
「──誕生日おめでとう、メンデル」
腕時計が入ったプレゼントボックス、やっと渡せた。
次は、次こそは、私から誘うと決めた。彼の喜ぶ顔を、もっと見たいから。