「さあさ皆様方。お騒がせして申し訳ございませんでした。お詫びに菓子と茶を召し上がってくださいな」
すぐに寿々さんが、店に数人いたお客様に声をかけると、子ども達が和菓子と茶を乗せた盆を運んで行った。手伝おうとすると「八重さんは拭かなきゃ!」と小夏ちゃんに言われた。そうだった……染みにならないと良いな。
手早く洋服に着替えすぐ旦那様達の部屋に向かった。
「失礼致します」
「おや八重。御苦労だったね」
「大丈夫?火傷とかしていない?」
お二人の気遣いが沁みる。
「先程はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした」
土下座する私に、旦那様がふむと声を出した。
「以前から思っていたけど、八重は頭の下げ方が綺麗だよね」
「へ?」
「もう、あなたったら」
思わず顔を上げる。間抜けな声が出てしまった。奥様が言葉を続けた。
「八重は所作全体綺麗なんですよ!」
そこですか奥様。
申し訳ない気持ちで吐きそうな私に対し、お二人は普段と何ら変わりなく接してくださる。
「先程のは、君が責任を感じる事はないよ。休みなのに対応させてすまなかったね」
「いえそんな!とんでもないです……」
「……ねぇ、八重」
ゆっくりと奥様が、ある日の泣き止まない小冬ちゃんに語りかけるように私に仰った。
「あなたがお兄さんの事で責任を感じているのも、彩和家に迷惑をかけまいと堪えてくれたのは、分かっているつもりなの。
でもね。怒っていいのよ。怒っていいの!家族を、大事な人を悪く言われて、我慢しなくていいのよ」
「!……いえ、そんな……私は」
お二人は騒動の事を知っていて、その上で私と母に手を差し伸べてくださった。彩和家の皆も、家族みたいに接してくれた。だから尚更……
「〜め、迷惑を、かけたくなくて……兄の事は元々、私のせいだし……家族や、周りの人を、悲しませてしま……っ」
嗚呼あの時もそうだった。言いたい事が言えなくて、出てくるのは涙ばかり。
怒れない。私にはその資格がない。むしろ、家族の批判は全て自分が受け止めるべきだと思っていた。
兄さんはあの時何を言おうとしていたんだろう。本当は、私はそれを受け止めなければならなかったのに。
「泣いても良いと思うよ。君はよく頑張っている」
旦那様の言葉と、泣き止まない私の背をさする奥様の手が、温かかった。
▽
「八重さんおでかけ?」「どこ行くん?」
玄関先で子ども達に声をかけられた。休日は室内で過ごす事が多い私が、二週も出かけるのは珍しいのだろう。
「人に会いに行くんだよ。少し遠いから、帰るのは遅くなるかもしれない」
「そうなんだー」「おみやげ!」「おみやげ!」「ダメだよせびっちゃー」
屈託のない笑顔が咲いて、微笑ましく思えた。
「皆良い子にしていたら、美味しいお土産買って帰ります」
「「「やったー!」」」
見送られながら、目的地に向かう電車の時間を確認し、少しだけ歩を早めた。