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デカンパープル5

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「……ふぅ」

自分の部屋に戻ったレケナは、ベッドに横たわるとため息が出た。疲れているが、頭の中では今日あった出来事がぐるぐると巡っている。

もうすぐ別れを告げる部屋の中は、進学に向け少しずつ荷物を段ボールに詰めている為、大きな家具と少しを残して後は……レケナは写真立てを手に取った。

写真は兄のナウルが中学を卒業し、記念に撮影した一枚。伯父と伯母、お下がりのワンピースを着た幼いレケナと、学ランに身を包み微笑むナウルの姿が写っている。この後すぐに兄は働く為家を出た。

(私はどうしたいのだろう)

レケナはこのまま何も分からないままではいられないと思った。しかし、大学に行かないのは、兄や伯母さん達に対して不義理だ。

大学に通いながら、ナウルの行方を探す。

簡単ではない事を、レケナも分かっている。もしかしたら、ナウル自身望んでいないかもしれない。それでも、何もせずにはいられない。いなくなったのは、大事な人なのだから。そう静かに決意を固めて、レケナはどう動くか考え始めた。

そしてレケナはある事を思い出した。P2の壁に貼られていた、一枚の紙の事を。
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デカンパープル4

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その日のP2の売り上げは、過去最高金額だったという。

閉店後千蔓のおごりで打ち上げに行く事になり、店の施錠をかって出たのがナウルだった。

これまでもナウルが施錠する事はあったし、P2の中で最も信頼される彼の事を誰が疑うだろう?千蔓はナウルに店と金庫の鍵を渡すと、他のホストやスタッフ達と店を後にした。

しかし打ち上げが始まってもナウルは姿を見せず、合間にスタッフが、テツが、何度電話しても出ない。

最終的にスタッフ数人がP2へ様子を見に行くと、ナウルの姿は無く、鍵は開いており、金庫はもぬけの殻だった……

そこまで聞いたレケナは、顔が真っ青になっていた。

消えたナウルと店のお金、この二つが無関係とはとても思えない。金庫の鍵を使ってナウルがお金を盗んで逃げたと考えるのが自然だ。しかしそんな事信じたくない。理屈抜きでレケナは強くそう思った。

「……兄は、そんな事する人じゃ、ありません」

心の中からそう言いたかったが、今日一日でレケナが知った兄の知らない面が、多すぎた。レケナは声を絞り出した。

「でも、もしも、私への仕送りとかのせいで……苦しい生活を強いられて、追い詰められていたのなら……兄が、お金を……」

「言っておくが」

テツがレケナの言葉を遮り、レケナはびくりと硬直させた。

(そりゃそうだ。この人にとって私は裏切り者の妹だ)

盗まれたのは相当の金額の筈だが、返済を求められず言及されていないのは、向こうはもう関わりたくないという事じゃないか。身内の自分が何を言っても、醜い言い訳に過ぎない。信頼を裏切ってしまったのだから。

レケナは段々申し訳ない気持ちになってきて、テツの次の言葉を大人しく待った。テツの方は、ココアラテを直で勢いよく飲み干すと、キッパリとレケナに言い放った。

「俺は、ナルさんが盗んだとは思ってねぇ」

テツの言葉にレケナは耳を疑った。

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デカンパープル3

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いきなり後ろからガシリと肩を掴まれて、レケナはつんのめった。振り返るとそこにはグレーのスーツのホスト。走って来たのか、息を荒くし肩を上下させるそのホストに見覚えがあった。

(店を出る時すれ違った人だ……!)

「悪いが、こいつに用があってな」
「そっそうですか〜……じゃあ俺はこれで〜!」

面倒ごとに巻き込まれると思ったのか、引き止める間も無く勧誘の男は退散していった。

ホストはそれを見届けると、レケナの方へ向いて呆れたのか、息を整える為か、長いため息を吐いた。

「ったく。知らない人にはついて行かないって教わらなかったのか?」
「……」
「ここら辺は、ああいう未成年のガキにも平気で声かけて利用しようとする奴がゴロゴロいる。痛い目にあいたくないなら覚えとけ」

忠告するホストに、そんなのは分かっている、とレケナは睨みつけた。

「……貴方は?」
「俺の名はテツ。P2でNo.2をはってる。それも覚えとくんだな」

そう言って踏んぞり返るテツを見て、レケナは随分上からな物言いの男だが、千蔓より兄の事を容易に聞きだせるんじゃあないかと思った。

「兄の事、ご存知ですか?」

何度目かの質問。モノの時みたいに知らないと言われるかもしれないと、レケナは少し不安だった。しかしテツは、予想以上の答えを出した。

「ナルさんは、俺が新米だった頃お世話になった先輩だ」
「……!あの、じゃあ兄が、お店のお金を……も、持ち逃げしたって本当ですか?」
「なっ!?」

テツは分かりやすく動揺してみせた。それは噂が事実であるとレケナに思い知らせるには、充分だった。

「さっきの奴か……余計なマネを」

そう毒づきながら、テツはレケナに背を向けスマホで誰かと連絡を取り始めた。レケナには声が男性である事は分かったが、内容はよく聞き取れない。ただ少しの口論を挟んで電話の主に何らかの許可を得たようで、テツが分かりました、と電話を切った。

そしてレケナにすぐ側にあった24時間営業のファミレスに入るよう促した。
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デカンパープル2

mblg.tvの続き

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正直で、真面目で、誠実な兄が、No. 1ホストだった?

てっきりスタッフや、ホストにしても雑用に近い仕事をしているとばかり。勝手にそう思っていたレケナは、自分の知るホストのイメージと、兄の姿を重ねる事が出来なかった。

「……正直に」
「!」
「真面目に、誠実に、お客様やスタッフ、他のホストに接する……そういう仕事ぶりで、評価されていました」
「……そう、ですか」

レケナは千蔓に兄の事をそう言われると思わず、言葉に詰まった。口を開いたのは千蔓だった。

「半年前、急に来なくなった。連絡もつかないし、住んでいたアパートにも居ない。親戚の方に連絡をしていますが、それはご存知ですか」
「……最初は、知らされていませんでした」

大学受験に合格した頃、レケナが身を寄せている伯母夫婦に、ナウルから電話があったらしい。

『仕事で忙しくなるので、しばらく連絡出来なくなる』

伯母夫婦は普段こまめに連絡をする甥に、気にしないよう伝えたという。それはレケナも聞かされ、仕方ないと了承していたのだが……

「高校の卒業式に兄から連絡がきました。私が大学に入学したら一緒に暮らす予定だったけど……出来なくなったって」

突然の話にレケナは理由を尋ねたが、ナウルは謝罪を繰り返すばかりだった。最後に電話を切る時の謝罪は、涙声だった。

困惑したレケナが帰宅して伯母夫婦にその事を話すと、職場からナウルが来ていないと連絡があったと聞かされたのだ。レケナは胸騒ぎがした。

「伯母さん達には心配をかけたくなかったので、借りるアパートを探すという形で来ました……いなくなる前の兄の様子とか、何か事情とか聞いていませんか?」
「……悪いが、君に話せるような事はない」
「何でもっ些細な事でも構いません!ほんの少しでも何か……!」

数少ない情報を頼りにここまで辿り着いたのだ。レケナは退くわけにはいかない。だが千蔓の答えは非情だった。

「先程話した事以外は無い……今後は此処には来ない方が良い」
「〜何故ですか」
「この辺りは治安が良くない。強引な連れ込みもある。未成年の女の子が出歩く場所じゃない」

レケナは納得出来ず唇を噛んだ。話せる人物だと思っていたのに。

「もう帰った方が良い」

そう言って千蔓がタクシーを手配しようとしたが

「……分かりました。失礼します」

怒りをにじませた言葉を置いて、レケナはその場を後にした。その時入れ替わるように一人のホストが入って来ると、ホストは振り返りレケナの後ろ姿を眺めた。
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デカンパープル1

P2過去話

眠らない。いや、陽が沈んでからその街は目を覚ます。

三つ目の角を左に曲がると、宝石を象った電飾に飾られている。それがホストクラブ『ピエトロ・プレツィオーザ』……『P2』の目印だ。

軒を連ねる他のホストクラブに比べると、出来て数年とまだ新しいが、『夢のひと時を提供し、宝石のように女性を輝かせる』というコンセプトの接客スタンスで評判は悪くないらしい。

目的の店を見つけたその少女は深呼吸をすると、バトルに挑むような神妙な面持ちで扉に手をかける。シャラララン、とドアベルの音色が耳をくすぐった。

「いらっしゃいませー!」

居酒屋の店員のようなノリで、紫のスーツに身を包んだ若いホストがドタバタと出迎えた。新米ホストのモノだ。勤めて三ヶ月。本来ならスタッフが案内をするが、人手が足りてない為ヘルプが終わったモノが進んで対応したのだ。説明の紙と少女を交互に見ながら接客を始める。

「当店のご利用は初めてですかね?ちょっとオレ以外のホスト……の方々は席着いちゃってるんで、待っててもらう間にシステムの説明を……」
「兄が」

いきなり口を開いた少女にモノはあに?と変な声が出てしまった。

「兄のナウルが、こちらに勤務していたと伺ったのですが」
「え〜っとナウル?ちょっと知らないなー……」

同い年くらいの少女の真剣な目に見据えられ、お気楽パーリーピーポーの類にあたるモノはたじろいだ。

「いたはずなんです……知ってる方を呼んでくれませんか!」
「えっちょっと……!」

少女の必死な態度に冗談でも冷やかしでもないのはモノにも分かったが、ナウルという人物にも、その人物を誰が知ってるかも、全く心当たりがないモノは、テンパっていた。
二人の様子に店内がざわつく中、白いスーツの男性が静かに立ち上がり、ゆっくりと近づいた。P2のNo. 1ホスト、シンである。

「すみませんお嬢さん」
「シンさん!」
「奥の別室で話の続きを宜しいでしょうか?他のお客様もいらっしゃるので」

微笑みながら、柔らかな口調で語りかけられて少し落ち着いたらしく、少女は気まずそうに俯いた。

「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。モノ、奥にご案内してオーナーを」
「はっはい!」

シンは少女に優しく微笑みかけ、モノと少女が店の奥に行くのを見送った。しかし二人の姿が見えなくなったと同時にその微笑みは消え、嫌悪をにじませた眼差しを向けていた。

「シン様〜!」
「嗚呼……すみませんお待たせして」

それは客に呼ばれると一瞬で消し去り、先程の笑顔を向けて席に戻って行った。

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