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青い果てで終わりたい

「リヒト、もう行くのか?」
「ああ。…私が探しているのは、お前ではないからな」
「同じ存在なのに?」
「あいつは、お前みたいに髪の毛は黒くないし、服も青い」
 ミニタリージャケットを着込んだ黒髪の青年に対して、リヒトと呼ばれた男はばっさりと切り捨てる。
「相変わらず手厳しいんだな」
「さあな」
 リヒトは、天を仰ぎ見た。自然の色ではない、青の世界が広がっている。
「…そういえば、お前はいつからここに?」
「忘れてしまったよ。『リヒト』ならわかるだろうけれど、生憎はぐれたままだから」
「それは残念だったな」
 リヒトもだろう、という反論には、あえて、応えてやらなかった。
 リヒトは夢想する。会いたい人は、目の前にいる彼ではない。黒と赤を身にまとった彼でもなければ、やたらと質問を投げかける彼でもないし、過去の彼でもない。たったひとりの、青い彼だけ。
 瞳を閉じる。そろそろ、次の空間に飛ばされるだろう。そこで、次こそ彼に出会えるような、そんな気がした。

 どうか、お前に会える場所が、この青い世界の果てでありますように。

甘い惑星

星を連想するような、金平糖
なぜか、夜空の下で、食べていた
おいしい?と隣にいる君に聞けば
甘いね、とだけ返ってくる
星を砕く音が聞こえる
ああ、これが星だったなら
拡声器を使わなくても、声が届くのだろうな
あの星が金平糖ではないから
僕らの声は、拡声器を使っても、届かないのだろう

ばらばらになった星は、溶けていく
僕らの中に、溶けていく

既知のまぼろし

きっと、この風景は、過去に誰かが見たものなのだと、ぼんやりと考えた
その誰かにしてみれば、未来を生きている僕たち
僕らは、極彩色の景色しか眺めることができない

時だけが光のように流れていく
同じように、光が眩く

僕らが手に入れて、失ったものとはなんだろうか?
見たことのない風景に、想いを馳せてみる

僕らが見れなかったそれは、優しい色をしているだろうか

バラのフィルム

 仕事が終了してから、4人は顔を見合わせて、ため息をついた。今日はなんだか疲れた。誰も口にはしなかったが、顔からはそんな雰囲気がにじみ出ている。
「…それ、どうすんの?」
 黄がぽつりとつぶやく。目線の先には、青がいた。もちろん、黄の言う『それ』とは、青自身のことではなくて、彼が持っている、花束だったのだが。
 別に、今日の仕事は表立ったことはしていなかった。今度1曲仕上げることになっていたから、それの打ち合わせと、少々の音源収録を行ったくらいで、その曲が完成したとか、作業が終わったわけではない。進展も特になかった。だというのに、今日の仕事が終わった瞬間、スタッフからなぜか花束を渡された。理由はわかっているのだが、いやいや、まだ終わってないですし、と言っても聞いてくれない。
 なにより、花束を贈ってくれたスタッフの、あの優しそうな笑顔を見て、なんとなくこれ以上説得するのも無理だと思って、結局受け取ってしまった。
「よっぽど嬉しいんだろうなあ」
 桃が、ぼんやりと花束を見つめながら言う。花束は、真っ赤なバラだった。思えば、仕事中にしょっちゅう赤いバラは目にしている気がする。イメージフラワー扱いでもされているのだろうか。

「俺たちも嬉しいんだけどさ、毎回この仕事やっていたら渡されるってことになるよね」
「それもそれでいいんじゃねえの?」
「部屋の中がバラだらけになりそうだな」

 作業が終わった後、曲ができあがったあと、曲が世に出た後―
 どれくらい花束を受け取ることになるのだろうか。しかし、想像するだけで、どこか嬉しさがにじんでくるようだった。

右手揺らして

車のライトが光る
目の前の彼女が右手を揺らすのが合図
どちらが先に着く?
どちらが、勝つ?

真夜中の、終わりのないチェイス
どこまで行けるかは、私たち次第
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