スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

幸せの鳥は何色?

「…青って神出鬼没だよなー」
 凍夜と話している最中、桃はちらりと吹き抜けの下にいる青を見やった。現在黄と話しているようだが、さすがに内容までは聞き取れない。
「神出鬼没?」
「お前と黄には街中で会ったり、バンドのこと以外でも連絡取り合ってんだけどさぁ、青は未だかつて連絡を返してくれたこともねぇし、スタジオ以外で顔合わせたことねぇの。あげく、私生活の話は一切しない…」
 桃は柵に両腕を載せて、少し唸ってみた。
「趣味とかけっこうあいそうだし、仲良くしてぇとか思うんだけど、あっちがその気じゃないならなぁ…」
 バンドを組んでからもう随分経つのだが、桃は青との仲が進展した気がこれっぽちもしない。バンドという枠にくくられているときは絶対的な信頼関係が間違いなく築けているのだが…私生活では他人どころか見知らぬ人とほぼ同じだ。
「いいんじゃねぇの、知り合いにはなってるんだし」
「なんで、あんまり話せないんだぜ?もっと話してぇのに」
「…何、お前、あいつが好きなの?」
 凍夜の声がワントーン下がって、桃は思わずどきりとした。振り返ると、瞳がかち合う。いつも何を考えているか見透かすこともできない顔つきで振る舞うことは多々あるが、いつになく真剣そうに見つめてくる。
「…な、俺が好きなのは…、じゃなくて、青とは友達として仲良くしてぇの」
 口走りそうになった言葉は、途中で凍夜の目線がからかいだと気づいてぎりぎりで止めて、弁明の言葉を告げる。凍夜はふわりと珍しく笑みを浮かべた。
「…でも、あいつ見てると、仲良くしたいってのはなんとなくわかるよ」
 凍夜も青を見やった。
「なんだか、幸せの青い鳥みたいだな」
 近くにいるのに、追い求めれば求めるほど触れることができないだなんて。

続きを読む

遺伝子さえ染めて

 あいつの声を羨ましいと思ったことはない。しかし、ずるいと思ったことは幾度とある。

 歓声が沸く。ライトが煌びやかで、眩しい。こうやってステージに立つことは非日常の部類に入るが、すでに日常の一部に入り込んでいて、自分たちのものである。だから、慣れ親しんだ風景はこれからの出来事を連想させて、すぐに気分を昂揚させる。何もかもが気持ちいいと思えるから不思議だ。
 だが―
 ある種の音が聴こえてくると、俺には光も歓声も、まるで意味のないもののようになる。唯一伝わるのは、ひとりの声、歌。俺ともうふたりの演奏。ただ、それだけだ。
 あいつが歌を、言葉を、音を紡ぐと、先ほどとは打って変わって、気分が揺れてくる。他のふたりは安定しているおかげでそこまで意識しなくてもおのずとあわせることができるから、それといって気にすることもないのだが、逆にあいつの声を意識しすぎてしまう。
 それをわかっているかわかっていないか、たまに俺のほうに視線を寄越したかと思えば、笑う。
 ―あぁ、あいつの声は、遺伝子まで染めてくる。俺が生きていくための、構成因子にでもなったんじゃないかというほど、俺の中に居座ってやがる―
 でも、それが心地よいと思った。こんなにも染められたのは俺くらいで、あいつはそれをわかっていて、今もなお染めている。
 なんてあいつはずるいんだろう。逃げることすら許さないなんて。
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ