一個前の記事の続き。
同じく夢小説に等しいので要素に注意お願いします。






「───ただいま。」
「あっ、お帰りなさい。どしたん、後ろのは。随分がっちりホールドやん?」
「逃げないって言っても離してくれないんですー。」
「…言っても逃げそうだけど。」
「流石に車から飛び降りる趣味はないですね。」

そして、私を小脇に抱えたままの獅土さんは小さく笑った。

「で、黒鴉に入るんだよね?」
「えっ、入りませんけど。」
「大人しく連れてこられたんだから、入るよね?」
「入りません。協力はしますけど。」

大人しくさせられて連れてこられたというのに、随分酷い言いようだ。
そしてまぁ、入るつもりはないので嘘は言っていない。

「………獅土さん、珍しく強気ですね…」
「おとなしい状態なのに珍しいよね…」
「(なんかこじれてそうやけどな…)」

ひそひそ離しの向こうで「まぁ、いいか」と烏丸さんが呟いたのを聞きながら、漸く降ろして糸をほどいて貰う。そして獅土さんから距離を置いた。

「その露骨なのは傷付くなぁ。」
「獅土さん結構怒ってそうなので。」
「…どうだろうね?」

あからさまに不機嫌なのがわかる。取り敢えず憤りが過ぎていつもの状態なのかもしれないなと内心苦い顔をしてしまう。周りに目を向けると、どうやら此処に居るのは、一部式神使い達のようだ。坊っちゃんの姿も見当たらない。
その中でふと、るかちゃんと視線がかち合った。

「で、なんで入んねーんだ?」
「結局、終月に加担したからね。レベル4に建築構造の製図が有るのを突き止めたのは私だから。」

ピクリ、尋ねて来たるかちゃんの眉間に皺が寄る。
そりゃあ、ああなった原因は此処にいるんだから、しょうがない。

「最初からスパイだった訳だよ。まぁ、父のお陰であっさり入れたけど。」
「その割には、お前が入ってから随分間があったように思うが?」
「ぐぬっ……仕方ないじゃん、なんやかんや誰かしらぴったりくっついてくるんだもん!!」

思わず本音を漏らせば、るかちゃんが口元を緩めた。

「おいおい…とんだスパイだな。遊び呆けてんのか?」
「、向こうさんにも同じ事を言われたよ…。」

「ちょっとー、遊んでるのは構わないけど、尻尾くらいは掴めないのー?」とは、彼が時折溢していた言葉。
若干目が笑っていなかったのが困るくらいなのに、それほどまでに誰かしらいたのだ。

「そーかよ、んで?テメェが出した負傷者は?」
「知りません!」
「0だよ。俺と遊んで力尽きたからね。」

ぽふぽふと私の頭を撫でて獅土さんは言う。やけに絡んでくるのはさておき。はて、そんなつもりは無かったのだが。
るかちゃんは頬杖を付きながら、興味無さげに此方を見て言った。

「じゃあ、良いんじゃねーか?」
「はい?」
「テメーは、心から終月に賛同したのか?」

そう問われて、首を横に振った。
別に終月の皆が特別好きだったとは言わない。寧ろ、連れ出してくれた茫と金巻にしか私は気を許した覚えはないくらいだ。

「それはないね。内二人の人柄にだけ。かといって止める気も無かったわけだけど。」
「止められたら、お前は生きてねーよ。」

そう言って笑うるかちゃんに、ああ、と少し納得する。遅かれ早かれ、ああなっていたのは察したらしい。

「まぁ、でも。参加しない。協力者の立場で居させてください。これは私のけじめだから。」

そう言って苦笑いすると、烏丸さんが少しだけ困った顔をした。

「んーとな?情報は流せんし、名探偵サマ居らんと虚霊かどうかは解らんけどええんか?」
「ああ、大丈夫。このアクセサリーが教えてくれる。」

そう言ってみると、ん、と一部が止まった。

「そう言えば、それ。誰の?」
「……ホローラビットの。」
「……本人のか?」
「うん。」

口をつぐんだが、内何人かが引いているのはわかって苦い顔をする。

「良いじゃん、なにも残らなかったんだから。……金巻くんの私物も、どっか行っちゃったし。」

二人とも、居なくなってしまった。
警察を覗いた際に見た報告書に、会えないことを知って口を噛み締めたのは良い思い出だ。

「まぁ、取り敢えず坊っちゃんにはよろしく。気が向いたら寄るよ。」

そう言って踵を返し、ドアに向かおうと歩を進める前に襟首を引かれた。
そしてその後ろから声が上がる。

「ちょお待ち。」
「なんですか。」
「GHOSTのデバイスないやろ?これ渡しとくわ。」

そう言って渡されたバッジに、少し口を閉ざす。

「そっか、ケータイ彼処に落としてきたーのか。」

言われて見れば、通信機器など持ち歩いて居なかった。
地図を便りにひたすら辿っていくのを繰り返してたから、体力はついたように思う。

「じゃあ、一応。」
「んで、此処から帰すための条件があるんやけど。誰かしらに所在は教えておくんやで?自宅近辺から離れる時は絶対や。破ったらここ引きずり込むからな。」
「………あのですね、一応あくまで協力者だと。」
「君居ないと煩いのが数人居るんやわ。俺も協力者の所在は掴んでおきたいしなぁ?」

ニヤニヤしながら言うので首を傾げたが、襟首を掴む存在かな、と少し検討をつけて「わかりました」とだけ言った。

「威勢はええのに、ほんま素直やないなぁ。」
「…素直だと思いますが?!」
「まぁ、比較的なぁ?」

ニヤ付いている烏丸さんに口をへの字にしかけたが、ふいっと顔を反らして襟首を掴む手を軽く引いた。
まぁ、離れないのだけど。

「ちょっと、離してください。」
「んー、どこ行くの?」
「自宅ですけど。」
「じゃあ俺も。」
「なんで?!」

ぐいーっと手を引かれて、困った顔で回りに助けを求めるけど、残念ながら誰も助けに入らず見送られた。


「アレ助けたらなに言われんだろうな。」
「なんも言わんけど、目付きヤバくなりそうやな。」
「まぁ、あの後、結構滅入ってましたからね。」




取り敢えず自宅に帰ると、誰も居なかったものの、今でも生活していそうなくらい綺麗な状態だった。恐らく、あの事件の後に協会で働いていた女中達だろう。父の恩恵は未だに残っているようだ。
綺麗に整えられたリビングは、少しも埃っぽくなくて、もしかしたらさっきまで居たのかもしれない。
取り敢えずお湯を沸かそうとポットを確認すると、やはりこれも使われているようでお湯が沸いていた。

「お茶で良いですか?」
「構わないよ。」

棚にある茶葉を確認すると、やはり賞味期限はまだ先だ。
急須を出して、湯飲みもだして。そうしたら、後ろに立った彼に焦れたように手を掴まれた。

「…なんですか?」
「お茶とか良いから、話がしたいんだけど。」

心配性と言うか、彼自身の庇護欲に火を点けてしまった様で。それがまだ燻ったままであるのは、此方が応答しないからだろう。
少し罪悪感は有るが、そもそも構わないと言った彼らの神経を少しばかり疑うが、確かに協会内にいる間和気藹々とした彼らは此方を何かと連れ回していたり絡んできたり。
彼もそのタイプだったと思う。

「…私が飲みたいです。」
「…君って本当にマイペースだよね。」
「それは獅土さんには言われたくないような。」

困った様に言うと、う…と彼は少し唸った。
取り敢えず手は離してくれたので、茶葉を入れた急須にお湯を注ぐ。

「俺は、黒鴉に入って欲しかったんだけど。」
「そう言って、また第三勢力と手を組んでいたらどうするんですか?」
「あはは、今度の相手は虚霊だよ?どう利用するって言うの?」

まぁ、あの後じーさんが彼らに見付かったので有れば、多分──。というわけで、彼処が閉じてしまった今、終月としての血はこの髪の持ち主で途絶えている。
つまり、現状に於いては彼らを操れる向こう側の世界の人間はもういないと言うわけだ。

「───そうですね、終月とはまた少し思想が違う、向こう側の世界の人間なら可能じゃないですか?」
「そうそう溢れているかな、そういう人間。」
「まぁ、顔を出すと迫害を受けてきた、そんな感じもなくはなかったですけど。」

あの"ハク"が喋るし好意的だしで異例だった訳であり、普通はそういう存在なのだ、そもそもが。
まぁ邪な感情を抱いた者がいて、悔恨が残ったんでしょうね。そういって、話している間に淹れたお茶を片方差し出した。

「まぁ、実際のところ、フリーですけど。どうぞ。」
「…ありがとう。」

受け取る時は大人しいのだから本当に良くわからない。
でも、何処かむっすりしたままなのは、良くわかった。

「獅土さんは、自分が気にかけている存在には目の届くところにいて欲しいタイプなんですね。」
「…解ってるなら、これ以上俺に心配かけさせないで。」

思わぬ返しに、返す言葉が浮かばない。皮肉を言うには少し、無神経が過ぎないか。
彼は優しいから、きっと真剣に考えてくれてるんだろうと思うし。

「…私は、どちらでもない方が私が動きやすいです。」
「……どういう意味?」
「私の気持ちが未だに中途半端なので、多分、居ても迷惑がかかるだけだから。」

仲間にも、名誉にも。
それは、申し訳ない程に後に響くと思うし、知っているもには確実に良い顔をしないだろう。

「…迷惑、が何を意味するかはわからないけど……そうだね、取り敢えず姿を眩まさなければ良いよ。次居なくなって見つけたら、あそこの組織に住ますから。」
「……それは、ちょっと。」
「でしょ?」

にこりと笑むから、本気度が凄い、といえば良いのだろうか、兎に角真剣な様だ。ちょっと怖い。

「改めて、宜しくね。」
「……えっと、はい……よろしく、です。」

まぁ、それだけ心配かけたんだと思ったら、仕方ないかな、差し出された手を握り返した。





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二度も目の前から消えて、しかも毎度年単位で見付からないから余計に心臓に悪い存在だと言う自覚はないです(まぁ、追々自覚します。)