二個前の記事の子です。
またもや書きたいところだけ。
最終章の協会が崩壊した辺りになります。
夢小説に等しいので、読むときはそこだけ注意お願いします。
獅土さん、どうなんだろうね、これ。(個人的に重度のシスコンに見えるんだよなぁ)
因みにこの時点では水月は金巻くんが頭ヘリックスしたの知りません。
あったかい時間はほどなくして崩れた。
終月側が動き出したのだ。
緊急態勢と、協会本部への襲撃。
私たちは本部へと向かい、幾つかのチームに分かれ、そして───いざ捜索を始めてようというタイミングで私は腹を括って、後ろから方々に散る仲間に向かって虚霊を仕向けた。
自らは一に乗って、悠々としながら。
「──お前も加勢しろ、水月!!」
「あァ?」
「──煩いなー、私はあの子にしかつかないっつってんじゃん。」
男の肩に降り、壱の中から上着を取り出した。
袖に腕を通しながら、その場に居るメンバーに笑いかける。
「じゃあ、誰が相手になる?」
「っ水月、お前…」
「うん、終月側、だねー。金巻くん、連れて来たかったなー………そしたら、もっとマガツヒと遊んであげたのに。」
言いながら、渡されていたマガツヒを2体、側に居た虚霊を媒介に孵化させる。でも──どうしようもない焦りが腹の内を巡っていた。
此方に来てからこの計画は知らされて居ない。ただ、地下へ行く話を聞いていただけだ。
クシナダの刃が見えて飛び上がり、再び壱に乗る。マガツヒを───そう思い、指を、視線を動かした瞬間、潰されたマガツヒの一方が見えて。突き刺さるクシナダの刃に、苦笑いする。
「……何時からだよ。」
「んー…あの日、私も死んだんですよ。だから、私は着いて行ったんです。空っぽなんです。ほら、余所見してると危ないですよー?」
そう言って、スッと後ろに下がる。敵と認識されるなり、一部協会員が此方に攻撃を仕掛けてくるのを避けると、近くに居た他の協会員に向かう。それを獅土さんが防いで、そして向かってくる終月の兵を薙いだ。
そして一方でまだ私に向かって降り注ぐ攻撃をそこら辺の虚霊共を手繰り寄せて防ぐと、直ぐ様近辺の虚霊を次の駒にして散開させる。
「ふざけんな───おい水月!!全部終わったら戻ってこい!!」
誰でもない彼にそう言われて、ふるりと首を振るう。
終月の兵は破砕されていく。そしてマガツヒも。
「戻りません…!!」
攻撃してきた協会員へ威嚇程度の攻撃をする。
ちょっと虚霊を仕向けるだけの、簡単な動作。そもそも彼にはバレているのだ、この憑力の底が。つまり私が虚霊をほぼ防御にしか使ってないのも、獅土さんに攻撃を集中させているのも、きっと。
やがて跡形もなくなった終月の兵に、此方も大分減って来て、虚霊を拾う時には大半の協会員は避難済みで、ほっとしたのも束の間。
視界が白くもやがかって来る。
───終わる……
そう思い、退こうとした瞬間。空中に浮いた瓦礫を渡って来たのだろう、獅土さんに腕を掴まれた。
「おら、帰んぞ。」
「なんで、」
「ほぼ防御しかしてねーじゃねぇか、バレバレなんだよ。」
グッと腕を引かれると、りんねが鈴に戻り、ポケットに入って来た。
数人の協会員達が此方を見て、疑心暗鬼な顔をしていて。それに構わず獅土さんが外の白み始めた空間にクシナダを出すと、グッと私の腕を引いて乗せ、他の協会員達に乗るように促す。
けれどふと手が離れた時に頭の中を過る存在。
───深獄が開いて……そうしたら、あの子は?一人じゃないだろうか。足手まといだとか今はどうでも良い、行かないと。
クシナダが上がろうとした瞬間だった。私はそこから降りる。
頭上から驚く声が聞こえて、答える。
「…っおい?!」
「ごめんなさい、やっぱりいけません!!」
「は、」
「私が、着いてなきゃ…っ」
そう言って、深獄へ繋がる狭間の回廊へと落ちて行った。
落ちた先、そこは既に静まって居て、即座に白い髪を探す。すると直ぐ側に寝転んでいた。
声を掛けようと近付き、直ぐに察する。
虚霊と下半身が交わったままのどちらともつかない姿で、目を閉じることもなく転がって居たから。
そっと手を伸ばして、目蓋を降ろす。既に呼気はしていない彼だったものに涙を溢した。
終月を名乗るだけで迫害されてきた一族。けれど、この子はまるであの翁の操り人形だった。好きに生きている様で、一族に縛られた一人の子供。
私はそういう意味では昔から家紋や一族という括りが好きじゃなかった。何より、自らが自由に動けない…と、思い知らされてからは外と関わるのをやめたくらいだ。
それを拾い上げたのはこの子だった訳だが。
「…なんで死ぬんだよ、ばか……」
その頭を抱き寄せて、まだ少し温かい身体に、堪えきれず涙を溢した。最後に会ったのは、何時だっただろう。
スーツの上着を脱いで身体に掛けてやる。
その時不意に、遠くの暗闇が僅かに光り、そしてそこから溢れ出ていた虚霊が途切れた。
───嘉神くんか、
ぼんやり眺めていると、ここから離れた場所で黒い影が上昇し、遥か上空へと飛んでいく。その内、裂け目の向こうに行くと、見えなくなった。
「──このままここにいて良いかな?」
独り言を呟くと、虚霊の光がふわふわと此方に集まって来ているのに気付いた。
どうやら、彼に集まって来ているらしい。
それはきっと彼の身体を乗っ取ろうとしているのではと感付いて、りんねを呼ぶ。
「──モドルゾ。」
「茫ちゃんからこのまま虚霊取って。」
「融合シテイル、ムチャイウナ。」
「ううん、出来るよ。じゃなかったら、壱で噛み砕いていい。渡さない、こいつらなんかに。」
そう言うと、りんねは無言でコダマを噛ませた。すると、ずるりとコダマは離れた。りんねも少し驚いている。
「ね、ねぇ。式神って、元はこういう厄落としなんだよね?」
「ソウダナ。」
「ねぇ、りんね、上に戻ってこの子を」
「コレハ此処へ置イテイケ。」
「でも……っ」
りんねが口を閉じるから、此方も考えてしまう。そこでふと、長い髪が目についた。
「、ちょっと待って。」
懐にあったゴムに手を伸ばし、そっと彼の髪に触れる。一房手に取りキツく縛って、バラけない様に数センチ上で切る。
普段の自分ならおかしいと思うその行動を、りんねはなにも言わず見ながら側に居てくれた。
終わると、りんねの方に振り返る。
「りんね、戻ろ。」
「そこの瓦礫の上に乗れ。」
「?ここ?」
小首を傾げながら、言う場所に乗る。
りんねがふわりと光った。
「それ、手放すな。」
「えっ、当たり前。っと、」
少しふらついて、ぺたんと瓦礫の上に膝をつく。
「───悪いな、ここでお別れだ。まだここが残っていたら、こい。」
「へ、りん」
「壱!」
ぶわ、と足場が光り───私は物凄いスピードで上空へと打ち上げられた。
その速度に耐えきれない瓦礫の端が、時折崩れて。
その先、虚霊の群れに突っ込んだ。空間の裂け目だ。すると先程切った髪が急に光り出す。
虚霊の群れは消え、私は抱き上げられた。
「ふーん、寝たと思ったら。すぐ起こされたね。まさかの君に。」
「へ、え……なんで、」
「なんでだろうね。さて、ご好意に甘えてあちらに戻ろう。……閉じたんだろう?協会戻る?」
そう訪ねられて。首を横に振るった。
戻った裂け目の入り口は誰もおらず、瓦礫でできた真っ暗で洞窟のような空間をちらほら泳ぐ虚霊が居た。それらは淡い光りを発し、恐らく地上までの道を照らしているのだろう、ふわふわ、ゆうらりとただただ長い道を作っている。
「少し頭冷やしてから……それから、考えるよ。」
「…ふぅん。まぁ、ボクは詳しいこと、知らないけど。」
言いながら、彼はふうわり浮かぶ虚霊を一匹捕まえる。
くしゃりと握ると、その光は消えた。
「…じーさんところ、行く?」
「今は君が居なきゃなにも出来ないのに、戻る意味ある?完全に閉じてしまった裂け目を開くのも容易じゃない。ましてや、黒髪の彼女は一族の生き残り、とか言うわけでも無さそうだからね、行き来する方法も知らなそうだ。」
クスクス笑いながら、一匹、また一匹捕まえては虚霊を消していく。
段々と彼の方に集まってくるのを見ながら、小さく相槌を打った。
「……そっか。ん、とりあえず、地上に出よっか。」
「この先、虚霊の行く道別れてるよ?」
「あー、あちらさんが出た道じゃなきゃ良いんだけど。」
「………」
光を集め、彼はじっと手を見た。
やがて歩き出す。
「行こう、こっち。」
虚霊に触れながら、彼は道を突き進んで行った。
意外と光自体は襲っては来ないらしい。
そのまま辿って行くと、その内地上の明かりが見えてきて。
ふと、彼が振り向いた。
「良いんだね?」
「うん。…晒した以上、戻る理由もないし。」
「…そう。」
りんねも、居ないし。
目を伏せ、それから顔を上げると、ぐいっと襟首を引かれて、首を傾げる。
「…大丈夫。誰か通っただけ。」
ひそりと囁いて少し間を置いて彼から表に出た。そして手招いて、私にコートのフードを被らせるなり抱き上げ、即座にその場を離れる。
暫く道を行くと、まだ協会周りには虚霊が彷徨いて居た。
「……サイノカミ、飲まれたのかな?」
「設置場所が崩れただろうからね。」
「そっか……無くなっちゃったんだ、協会。」
「…少し休めば?ボクはまだ動いて居られそうだし。」
「……珍しい。」
「そんな気分なんだよ。」
「…じゃあ、お願いします。」
言いながら、目を伏せる。そして気絶するように、意識を手放した。
追記───→
─────────
ふと目が覚めると何処かの宿で、側には一房の髪。
不思議な力が宿っているのが解って、アレが夢じゃないのを知る。
そうして、じわじわと自分がしでかしたことを思い出して、踞った。
「ごめん、彼らを見殺しにしたのに。君を式神にして。」
目を伏せ、小さく息を吐いた。
次々罪悪感だけが沸き上がる。
「……なんで、いつも…私じゃないんだろう。」
返事もない、彼も今は休んで居るんだろう。
彼が聞いていないなら、それは一度置いておいて。彼をそのままににするわけには行かないから、と手持ちを確認する。
カードはあったが、取り敢えず本当に足らない場合だけ使おうと思い、装飾品を作るところを探そうと思い至った。
────────
「───三日貰っていいかい。これは上質なものだし、早く取りかかりたいけど……何せその前に受けた依頼が有るからね。」
言いながら、手元の懐中時計を指すように、とても細いドライバーで机をコツコツと叩いた。
それに対して、預けて直ぐに出来る訳じゃないと気付いて一応告げる。
「あ、はい。えっと、それから離れたくないのです、けど、」
そう告げると、店長は訝しげにこちらを見た。そして直球に尋ねて来る。
「……恋人の髪か何かかい?」
「まぁ、友人の。」
「そういうの、良くないよ。髪の持ち主が嫌がれば、呪いだって起きる。」
そう言って、髪を撫でた。
───呪い……?
良いんじゃあないだろうか。受けて当然なところは有る。
「それなら、それで受けますよ。」
「…仕方ないな。ご要望はなんだ、どう加工する?」
「えーっと、髪飾り?私、アクセサリー付ける装飾品持たないので。そんなデザインに拘らないで良いです、運動しても落ちなさそうな感じで。」
「そうかい、直ぐに取り掛かろう。形見ではなし、任意で得たものでもないのなら、此処にそう置いておけん。」
痛い目見るのは勘弁だ。
そう言って、彼の髪を手に取ると、糸や金具などの道具を取り出し、加工を始めた。
「接着剤はまだ乾いてない。自宅で数日ゆっくり乾かしてくれ。」
そう言われ、結局お会計をカードで済ませると、お礼を言って店を後にした。
「さて、さっさとこの街離れようか。」
もし何らかの理由で使用したのがバレると、向こうから尋ね人の伝達が各地へと行きそうで。
「そうだ、行きたい宿があるんだ。先ずはそこに行こう。」
行き先を適当に決めて。
返事もない彼を手に、移動を始めた。
「主人、すまんなぁ。此処に一週間ほど前に来たと思うんやけど、金髪の女の行方知らん?」
「……ああ、直ぐに帰っていったよ。」
「そか。因みに、何作ったん、8万。」
「髪止めのアクセサリーだ。これ以上は残念だが。」
「話せんか?」
「……金で売る気もないな、一応此方も商売だ。」
「まぁ…せやろな。」
「───そう言えば、どういう訳だか、あの家の鈴の音が聞こえなかったが。どうしたんだ?」
「……おっさん、ほんまか?」
「個人的に気になったのでな。もしかして例の件から会ってないとか?」
「まさかなんですわ。」
「……そうか。面白かったんだがなぁ。」
「腐っても式神の修理屋っちゅーわけか、」
─────────
「……さっきの虚霊、何処かなー、」
泊まった宿でふわふわと浮かぶ光を見た。けれど、宿は広くなかなか見付からない。
彼を呼べば早いだろうけど、どうやら彼も乗り気では無いのか、反応を示さない。
いっそ此方より先に見付かって既に始末されて居る可能性も有るのを視野に入れておかないとならない、とふと頭に浮かぶ。まぁそれは此処が都に近い場所で有るのが理由。
「でも、少し虚霊多かった、よね?」
そうやって、前を見た時───遠方に銀色の髪が見えた。そして、黒髪も。
慌てて角に戻り、ふっと息を吐いて俯いた。多分彼らが退治済み。ならば今度は脱出の方法を考えるとしよう……と前を向いて歩き出すと、廊下を駆ける音が聞こえて咄嗟に近くの部屋へ逃げ込む。
押し入れが視界に入ってそっとその中に入って。
───おお、布団ふかふか…
ダダダッと激しいものでは無くなったものの、誰かが歩いて居る足音は聞こえているので。少しだけ、此処にいようと息をひそめる。
すると不意に、結構激しい音と共に足元の床が抜けた。
ビックリして固まって居ると、布団の乗った床板と共に背中から階段を滑り落ち、階段からフロアに出て直ぐに立っていた柱に布団がクッションをしてくれたものの、頭をぶつけて踞った。言うまでもなく、痛い。いや、クッションが有った分可愛いもんだが。
ふと視線を上げると、ふよ、と虚霊が数匹泳いでいた、そしてその目と視線がかち合う。アクセサリのお陰だろうか。此方の様子を伺っているようだ。
取り敢えず起き上がろうと膝を立てると、真正面から数人が降りてきた。
「…随分、久しいなオイ。」
「今更、どちら様かとはいいませんけど、上。」
その声と同時、虚霊が此方の方へと降りてきたから、柱から横に飛び退く。奥からも数匹出てきたのを見て、そちらへ向かった。
「、おい!!」
呼び止めているだろう声を聞き流し、虚霊が出てきた方を道なりに辿って行く。
隠し部屋の奥に穴があり、そこは土の壁だった。そのまま奥に行けば行くほど、岩壁に変わり、涼しくなってくる。
入り口から100mは歩いただろうか。奥行きのある洞窟に出た。その中心部の大きな泉の畔に座る嫗<おうな>に、ビックリする。
「───ドチラ様デ?」
か細い声が聞こえて、妙な片言に苦笑いする。
「来なよ虚霊、相手してあげる。」
言いながら近付くと、嫗は此方を振り返るでもなく、その身を虚霊に変えた。
「出てくれる?」
髪に触れると無反応だったから、手を離して此方も虚霊に近付く。
すると不意に私の体は糸で絡め取られ、嫗から飛び出た虚霊はクシナダの歯の餌食になった。
虚霊はピクリとも動かなくなって、肉片を散らすまま転がった。
「…降ろしてください。」
「いいや、このまま連行させてもらうよ。」
珍しく強気な姫吊くんに、苦笑いする。
そして思考を巡らせて嫗の方を見ると、それは肉塊へと変貌していて、虚霊特有の目玉を天井へと向けていた。もしかしたら、大分前に宿主は亡くなっていたか───あるいは、虚霊が人の形を保って居たか。
「───終わった?」
「終わりましたよ。ついでに収穫も。」
ひょこりと通路から顔を出した美好さんに姫吊くんがそう答え、私は糸に縛られたまま獅土さんに肩に担がれた。
どのタイミングで逃げるかを考えるけど、最悪このままかな、という予想を前提に置かなければ。
現場の事後報告一切を終えて姫吊くんの運転する車に乗せられ、恐らく美好さんが一番居づらい空気の中、現在の基地へと向かって走る。
その重さを発してる大元である獅土さんが、ふと静寂を打ち破った。
「……んーと、さ。色々聞きたい事は有るけど。まず、協会がどうなったか知ってる?」
「いや…全然。」
腕を広げようともがいてみるけど、やっぱり逃げ出せない。それどころか、びくともしない。
「端的に言うと、"黒鴉"っていう特殊部隊として動いてる。虚霊が人に乗り移るのは知ってる?」
「…ちょくちょく遭遇するから、知ってます。」
「じゃあ、白髪の子って、君か。」
言いながら、そっと回した腕で左の髪に付いたアクセサリーに触れる。
胸の内がざわついて、彼が相手なのに咄嗟に触れる手を払う様に首を振るう。
「触らないで下さい…!」
あの子のことをなにも知らないくせに、触れないで。真剣にそう思って、でも、それが協会側からしたら異端者で有るのには気付く。
獅土さんも驚いたのか、手は離してくれた。
それよりも…と横を見上げ、獅土さんの言葉を拾い返答する。
「…もし、私をそちらの部隊に入れたいのでしたら、申し訳ないですけど入りません。」
自惚れでなければ、彼はそれを言いたい筈だ。
視線を交わすと、彼はゆっくり口を開いた。
「……終月に拘ってるの?」
拘る──その言葉は、少し違う。
「…私が協会に入ったの、あの経路の為ですよ?まぁ結局、私自身が手に入れられるレベルでは有りませんでしたけど。」
あれから何とか得た情報は、レベル4にそれらしき情報があるということ。
録に役に立たないとは思っていたけど、見事協会は崩壊した。
「私が、協会を壊すのに加担したんですよ。」
「あれは、貴方が壊した訳じゃない。」
姫吊くんが割り込んで来るけど、罪人を庇ってどうすると言うのだろう。
「…負傷者、沢山出しましたよ。」
「君は退路を完全に断って追い込まなかった。」
「貴方が居なかったらどうだか。」
一度に二人も相手していたと言うのに、獅土さんは強かった。途中意識が途絶えてコダマに飲まれた終月をも手駒にして向かい合ったのに歯が立たず。
小さく息を吐いて、次の言葉を紡ぐ。
「そうやって仲間に向かって牙を向けた訳です。」
「でもそれは君の本気じゃなかった。」
彼らの言葉が優しくて、甘えてしまいそうになる自らに嫌気が差す。
ふっと視線を反らした瞬間、獅土さんに肩を掴まれた。
間近で見上げたその瞳は色々物言いたげで、けれど姫吊くんが困った様に声をあげた。
「獅土さん、後で、二人になった時にしてください。」
「…、そうだね。」
また訪れた静寂に居心地が悪くなったらしい、今度は美好さんが声を上げた。
「えっと、水月さんは今まで何処に居たの?」
「結構転々としてました。」
そう答えると、美好さんは何とも言えない顔をした、答えになってないから余計だろうけど。
そしてふと何かに気付いたように、口を開く。
「そう言えば、協会の地下で会わなかったけど…いつ降りてきたの?」
「ああ…えっと、私が落ちたのと入れ替わりで烏丸さんたちが上がって行きましたね。」
「上がって行った時に?」
美好さんがキョトンとした顔をした
「ギリギリで深獄に入れたみたいです。」
「ギリギリって──いやまぁ、そっか、彼処しか出入口なかったもんねぇ。」
多分、あれは本当にギリギリだっただろう。彼が身を呈して閉じたタイミングが恐らく、通過直後だ。
そこでふと、獅土さんが声を上げた。
「…そう言えば、鈴の音、しないけど。」
「ああ……りんねは私を彼処から出すために彼処に残りましたので。今どうしてるかな。」
「えっ、何処に置いてきたの?!あんな広いとこ…、」
「茫……うんと、ホローラビットの身体の側…かな?スーツの上着ごと置いてきちゃったから。」
一度静まって、それから美好さんが声を上げる。
「…水月さんは…なんで彼を追いかけたの?」
「どう考えても捨て身の作戦だったから、行かないと一人になる気がしたので。一人がどれだけ寂しいのか、知ってるから。」
答えると、美好さんはビックリした顔で此方を見て、それからどう思い当たったのか、質問の視点を変えてきた。
「えっと、恋愛的な意味で好きだった、とか?」
「…家族かな。そうだね、終月は家族だったよ。温かかった。思想は合わなかったけど、 好きだったなぁ。見殺しにしたし、私はのうのう生き残っちゃったけど。」
苦笑いしながら答えると、美好さんは少し悲しそうな顔をした。
「まぁ、大元の悔恨が残る側は、世界を少しでもひっくり返せて満足だろうけどね。」
「……言ってたね、そんなこと。」
「ああ、見つけたんだ。会っとけば良かったかな?」
と言っても、今は大人しくしてる彼に聞かなければ、行くことは不可能だが。
「……そろそろ着きますよ。」
姫吊くんの一声で、会話はそこで止まった。
続き→
式神使いさんの2