急に呼び出したのにも関わらず、約束の時間より少し早くルカはやって来た。夏らしいワンピースが非常に可愛い。彼女もまた嬉しそうにこちらへ寄ってくるものだから、今すぐ撫で回したくなる衝動を必死に堪えた。

「クライドくん、お待たせ」
「来てくれてありがとなー、大丈夫だった?」
「へいき」
「そうかそうか」

たった今衝動を堪えたばかりだったのに、気付けば彼女の頭をぽんぽんと撫でていた。
いつも通っているファリオンの楽器屋に行く用事が出来、軽い気持ちで彼女に声を掛けたのが始まりで、現在に至る訳だ。



「あっついなー、ルカ平気?疲れてない?」
「…うん…、」
「あ、あのカフェでも入ろーぜ。あちー」

いつもに増して日差しが強く、地面の照り返しが余計に熱を煽る。彼女を呼び出した『用事』は物の数分で終わってしまった。何でもないと頷く彼女の横顔が心なしか青白く見えて、大通り沿いにあるカフェ・ミルフィオーレへと彼女を誘う。実は何度か来たことがあるのだが、ルカは別のカフェで働いている訳だし、と躊躇していた。

「一番奥でいい?」
「うん」

確認を取ってから、彼女を奥へ、自分は手前の椅子に腰かける。少ししか歩いていないのに、暑さのせいで余計に疲労が増したようだった。やけに背が高い店長がミントウォーターを運んで来る。ケーキセットふたつ、と簡単に注文すると、ものすごく興味津々といった感じで彼、ジェラルドが声を重ねてきた。

「クライドくんの彼女?それとも恋人?」
「同じじゃん」
「いいなあ青春。素敵だね」
「話聞こうよジェラルドさん」

そんなやりとりを見てちいさくルカが笑うと、満足したようにジェラルドも笑う。可愛い彼女だね、と三度目のゴリ押しを聞き、しびれを切らせたクライドが「妹みたいな子だよ」と釘を刺した。
クライドもルカもケーキとアイスティーのセットを頼んだはずなのに、ルカの分は小さなケーキがもう一つサービスされていて、安易で笑ってしまった。