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ワンランク昇格?



「はい、これ」
「…何ですか、これは」
「チョコレートのお菓子です」


訝しげにこちらを見る彼の鞄に無理矢理箱を突っ込むと、「傾くだろ」と意外にも慎重に机の上に戻された。いらないならいらないって、言えばいいのに。
平日の真夜中、仕事終わりの時間を狙って彼を呼び出すと、いつも通りに飄々とした様子だった。バーに誘ったのは良いものの彼を落とせるような言葉なんて見つからず、結局強行突破することにしたのだが。


「なんでチョコレート?」
「バレンタインでしょ、今日。日本では好きな人にチョコあげるんだよ」
「好きな人なんだ?」
「うっ」


からかうような口調で言われて、あっという間に頬に熱が集まるのが分かった。しってるくせに!とつい可愛くない口をきいてしまう。今日は、素直になろうって決めたのに。
緊張をどうにか落ちつけようとして無駄にお酒を頼んでしまい、頭痛はもちろん、歩くだけで視界がぶれるほどに酔っ払ってしまった。ここで失態を晒すわけにはいかない。その一心で平静を装った。が。






「あたまいたい…」
「あれだけ飲めば、そりゃあな」


帰路につく頃には真っ直ぐに歩くことすらままならず、アルヴァンに背負われてファリオンの町中を歩いていた。幸いにも夜も遅いためか、人気はない。自分が情けなくて、悔しくて、涙がでてきた。


「うううう…アルのばかぁ」
「…酔っ払い」
「すきなひとに、こんなとこ、見せたくなかった」
「はいはい」
「どうせダメ女だよー!」
「はい、とりあえずシャワー浴びれば酔いも冷めるだろ」


ついた先でふかふかのバスタオルとワイシャツを手渡され、バスルームに放り込まれた。お湯を出してシャワーを浴びているうちに落ち着いて、すこしだけ酔いも冷めた。そしてここが自宅ではないことに気付く。叫びそうになる口元をばっと抑えて、酔ったときよりも数倍早く脈打つ心臓の音が遠くで響くのを聞いていた。




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女の子は恋でできてるの


ごめんなさいなんか途中であやしくなってしまったので追記に書きます
なんで皆こういう展開いくんだろ?←

でろ甘。ひがみヴィア。

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そっと手を繋いだ冬の日


天気予報は的中で、今日はとても澄んだ空が広がっていた。最近ずっと天気が悪かったせいでろくに星を見ることも出来ず、彼は結局夕食の時間になっても降りて来なかった。全く彼らしい。厨房へ行ってスープと焼き立てのパンを貰い、天文台へ向かう。こうして階段を上っていると学生の頃を思い出さずには居られなかった。天文学の授業と言えば山のような宿題が当たり前で、生徒の間では鬼畜教師と評判だったのに。手すりをなぞりながら、当時を思い出してつい笑ってしまった。
いつから彼のことを好きかと聞かれれば、一目惚れに近いものなのだと言うしかない。生徒の頃から今も変わらず、エーヴァは憧れで、最愛だった。


「…リラ?」


ゆっくり階段を上る足音を聞きつけてか、エーヴァが段上で驚いたようにこちらを見ていた。階段を駆け上がっておもむろに抱き着くと、どうした?と問いかけながらも背中に回される腕。ここが私の一番落ち着く場所だと再確認した。


「ご飯、食べてないでしょう。持って来た」
「ああ、今行こうと思ってたんだ。」
「今日は私も星を見たい」


抱き着きながら高い位置にある顔をじっと見上げ、だめかと首を傾げるとだめじゃないと視線を逸らされた。今日は一晩中、一緒に居られる。嬉しくてつい笑ってしまいながら、二人で天文台へ上った。
魔法で幾分か抑えられてるとは言え、ローブだけでは肌寒い。常備してあるらしいブランケットを広げて二人で包まると暖かさが広がった。そっと手を重ねると握り返されて、そんな普通の幸せがたまらなく愛おしい。




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チョコレートはなんてあまい


外国と日本のバレンタインは大きく違う。前々から理解はしていたけれど、やっぱり日本のバレンタインって企業に踊らされてるだけなんだと思う。けど、長年の慣習を今更変えることなんて出来なくて、13日の今日、結局私はチョコレート作りに勤しんでいる訳で。


「ムツキ、ぜったいこっち来ちゃダメだよ」
「我慢して楽しみにしておくよ」


髪はまとめてエプロンもばっちり、レシピも揃えてある。ムツキを遠ざけておけば問題ない!そう思ってお菓子作りに取り掛かった。
日本で暮らしていた頃から元々お菓子作りは得意で、趣味の一つと言ってもいいくらい。ムツキを喜ばせる自信はある。どんな顔をしてくれるのかが今から楽しみで、緩む頬を抑えながらチョコレートのテンパリングを済ませ、生地を焼き、飾りを切り揃えていく。なめらかになったチョコレートをすくって口に含むと、粗のない舌触り。焼きあがって粗熱が取れた生地にフルーツとチョコレートクリームを挟み、チョコレートを上から掛けていく。表面を整えてザッハトルテを完成させると、テーブルの端によけて次のお菓子作りに取り掛かる。
義理チョコは生チョコにしようと決めていたので、チョコレートを溶かして生クリームを注ぎ、混ぜ合わせていたそのとき。


「ねえ、それは誰にあげるの?」


ひょいっとお腹に腕が回されて、驚いてヘラから手を放してしまった。楽しむように首筋に唇が落とされる。待って、と抗議の言葉を口にする前に塞がれてしまい、完全に今の状態からの脱出方法を失った。目の前でかわいらしく微笑むムツキくんに打ち勝つことは不可能なんじゃないか。そんなことを考えながら、チョコレートと私に交互に視線を向ける彼を見つめた。



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メルト


日本のバレンタインは女性が男性にチョコレートをプレゼントするものらしく、昼前にはシキが律儀にも可愛らしい包装の箱を届けに来た。少しだけ恥らったような笑顔で「義理です」と言われてしまえば何と返していいのか分からなくなってしまい、曖昧に笑って答えてしまった。今頃は恋人と楽しく過ごしているんだろうか。


一度チャイムを鳴らした後、少し躊躇うような間をおいて鍵が回る音がする。約束の時間にはまだ少しだけ早い。笑って玄関まで出迎えるとリオが立っていた。


「ユーティン、これ…」
「うん、ハッピーバレンタイン」


恐る恐る鍵を差し出すリオの手をやんわり握って、鍵を手のひらにしまうように包み込む。ありがとう、と笑うリオの頬に掠めるようなキスを送り、リビングに入る。意味を成さなくなっているケージが部屋の隅っこにあるのを見てリオが笑った。鼻をひくひくさせてこちらを見ていたウサギはリオを見つけると嬉しそうにすり寄る。そっとそれを抱き上げながら、こちらを見上げるリオが口を開いた。かわいい。


「今日はユーティンにチョコレートケーキを作ったんだ」
「ほんと?リオのお菓子、すげえ嬉しい。今紅茶淹れる」


ソファーに座ってウサギと戯れるリオをオープンキッチンから眺めているうちに二人の将来を色濃く想像してしまい、ついつい頬が緩む。実際はもう少し遠い道のりなのだが、彼女の家族の反応も決して悪いわけではない、と思いたい。俺としてはもう結婚しても良いんじゃないかな、と思うんだが。

色違いのマグをテーブルの上に置く。リオがじっとこちらを見ているのに気付いた。ウサギが彼女の腕から跳ねて暖炉の傍に落ち着く。立ち上がったリオをぎゅっと抱きしめると、応えるように背に腕が回されて、それだけのことで心がじんわり暖かくなった。出逢ったときに比べて彼女はもう、大人の女性だ。すっかり伸びた黒髪を耳にかけて、耳たぶに歯を立てると小さく声を上げる。背から腰へ、手が動いた。


「紅茶、冷めちゃ…」
「ごめん、我慢できなくなっちゃった」




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