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【中世】紅い涙

両国の王子同士の譲歩と妥協により協定が結ばれた。"互いの国の姫を、相手の国に嫁に出そう"と。和解策と言えば聞こえは良いが、詰まるところ、彼女らは牽制と盾の意味合いを持った人質だった。
リクフェスティ家からは第一王女リラールが、セシル家からは第二王女フィンが抜擢され、それぞれの侍女と共に第二王子の下へ嫁ぐことに決まっていた。

協定を告げたときのリラールは酷く冷静だったが、その表情に僅かな期待と恐怖が入り混じっているのをユーティンは見逃さなかった。

「アルエ王子は優しそうな方だった。心細いだろうが、ベラもいる」
「お兄様、私…」
「すまない」

リラールが変装して街に出ていることも、その先で敵国の第一王子に恋をしていることも、ユーティンは知っていた。酷な頼みごとだと重々分かっている。それでも戦争を早く終わらせたかった。この協定が上手く成されれば膠着状態は解け、状況は大きく変わってくるだろう。

「本当に、ごめん。リラ」
「…大丈夫。私、上手くやるから」

そんな兄の気持ちも、リラールには痛いほど伝わっていた。自分に言い聞かせるようにそれだけ言うと、荷物をまとめるために部屋に戻る。既にイザベラが荷造りを始めてくれているのを知っていたが、あの場にいることは耐え切れなかった。

たとえ想いが届かなくても、彼を見られる機会は増える。
自分の夫になる王子を愛そう。それが自分の愛する国と、彼のための平和に繋がるのなら。



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【中世】慟哭、そして喪失

いつまでも続く両国の膠着状態への不満が募り、やがてそれは大きな戦争へと姿を変えた。両国の騎士隊は城の護衛の最低限を残して次々に戦場に駆り出される。まるでこれで決着をつけるとでも言うかのように激しさを増す戦場は、最早ただの地獄だった。


東西の両端、戦場から少し離れた建物に設置された観戦席ではそれぞれの国の王子と王女が事の成り行きを見守っていた、はずだった。しかし王女に護衛をつけ、自身の従者のみを連れて四人の王子は激戦地へと足を踏み入れる。王子とは言え王位継承権がある者同士、今の状態は互いにとってもデメリットしかないことは分かっている。現状を打開すべく、話し合いの場を設けたのだった。


握手と共に挨拶が交わされ、それぞれの従者は主人を守るべく四隅に立つ。数十分にも渡る話し合いの末、交渉が成立したと思われたその時。金属音が木霊した。



「クライド!」


誰の声だったか分からない。胸を貫く熱い痛みにクライドの顔が歪む。しかし相手の姿を認めると安堵したような表情に変わった。初めて剣を交えたときから叶わない想いに焦がれていたのだから。クレアに向かって口の形だけで許しを請うと、剣を突き立てる銀髪の青年を見上げる。


「俺を殺すのが君でよかった」





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【中世】反逆の騎士


「やあ、ダリウス。元気かい?」

週末で賑わう酒場の一番隅に、彼の姿は在った。簡素だが質の良い黒服に身を包んだ彼は、ダリウスの数少ない親友だった。ディムは第三皇子の側近、兼お守りを勤めている。もしもダリウスが彼の立場だったならば、確実に皇子を刺しているだろう。
密偵として敵国の騎士団へ潜入していると知っていながら、わざわざ母国へ呼び戻すのだから、彼も人が悪い。念のため、目深にかぶったフードは外さないまま、ダリウスはディムの向かいに座る。

「ああ。お前はどうだ」
「本当、殿下の逃走癖には困ったものだよ。早く王位を継いでもらいたいね」
「思ってもいないくせに」

ジョッキに並々注がれたビールがどんと置かれる。互いに何も言わないままジョッキを手に取ると、軽く打ち鳴らす。中身を半分ほど飲み干した後、ダリウスは神妙な面持ちで口を開いた。

「セシル家の皇女を知っているか」
「当たり前だろう。東の姫君、ティーゼ皇女と西の姫君、フィン皇女。才色兼備の麗しい姫君たち」
「灰色の長い髪の姫は、西の姫君だろうか」
「さあ」
「…俺はどうしたらいいと思う」
「何。そんな気持ち悪い君を初めて見たよ」

まさか恋でもしたの、と笑いながら言うディムを今にも呪いそうな目で見ながら、ダリウスは項垂れた。

 

 

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【中世】中世のおはなし*

まとめ。ナチュラルにイザヤがセシル家の騎士団にいたので引き戻しました。←
増えたり消したり加えたりするかも!

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【中世】空を裂く


第二皇女が忽然と姿を消すのは日常茶飯事だった。第三皇子は騒動に紛れて逃げ出すし、第四皇子は皇女を探しに行ったまま迷って帰ってこない。第三皇女は泣きそうな顔でおろおろする。もちろん侍女のイザベラは彼女と共犯なのだが、口を噤む他ない。そうして、彼女は毎日のように城下街へ出掛けているのだ。

広場で子どもたちと遊び、道に並んだ店を見ながら楽しむ。勉強や作法の稽古付けの毎日に飽きていたのも、王家に生まれただけで道が決められているのも、すべてに嫌気が差していたのも事実だ。リラールは些か無鉄砲だった。

領地を越え、リクフェスティ家と争っているセシル家の領地へ踏み入ったのを、彼女は知っていた。


「ここが、」

城下町の入り口から見上げた敵国の領地は、彼女の見知ったものと似て非なるものだった。少しだけ街を見て帰ろう、そんなことを思っていた矢先に、大きな声が響く。

「第一皇子がお帰りになった!」

次々と頭を下げ、腰を落とし、皇子が通るために道を空けていく。リラールもそれに倣うが、どうしても敵国の皇子を一目見たかった。そして、彼が通る瞬間、顔を上げる。

とてもきれいな人だと思った。黒髪に左右で異なる色の瞳。

そして、彼もまた、リラールを見ていた。



逃げるように走り、自国の領地へ入ったとき、リラールは泣いていた。止めることが出来なかった。一目で恋に落ちてしまったことが分かっていたから。



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