涼しいと言うには少々寒すぎる冬のとある日。
期末テストの打ち上げと称して、サトシ、ヒロシ、ゴールド、シルバー、ソウルの大所帯はカラオケに来ていた。
一応言っておくが彼らは受験生である。
いくら中高一貫校とは言え、実力主義の私立ポケモン学園では高等部に上がるに際して受験がある。
その勉強をほっぽりだしての今回であるが、ただでさえ自由のない今年、テストという一種の呪縛から逃れた解放感が漂うこの時期ならそれも致し方ないのかもしれない。
と、今回そんな背景はスルーするとして、ともかくもカラオケに来た面子は歌いに歌っていた。
いや、面子というと語弊がある。
ゴールドが歌い、マイクを離そうとしないゴールドにヒロシが苦笑。シルバーがそれにため息をつき、ソウルは全員分の飲み物を注文し、サトシは歌っていないとは言えノリノリでゴールドに合いの手を入れる。
実はこの五人、バラバラに見えるが同じクラスで――ソウルは違うクラスだが――とても仲が良く、よくこうしてつるむのだ。
因みに普段ならここにシンジとシゲルも含まれるのだがシゲルは生徒会、シンジは剣道部の活動があると言うことで今回は涙を飲むことに相成った。
さておき、ずっと歌い続けるゴールドに痺れを切らしたシルバーは、ゴールドからマイクを奪い、のたまった。
「ゴールド、いい加減マイクを他の奴に譲れ!何曲歌い続ける気だ!」
「え、どういう」
「部屋にはいるなり十曲歌い続けてどう言うことだとか聞いたら殴るぞ」
――いっけね。
ゴールドは冷や汗をかきながら頭をかいた。
「悪ィ、すっかり忘れてた」
「いや…ゴールドは歌うまいから、それほど苦じゃなかったよ。僕は音痴だから歌わないし…」
ヒロシが苦笑いを浮かべて言う。
シルバーはふんと鼻を鳴らした。
「ヒロシ。甘やかすな」
実は実は。
この五人でカラオケに来たのは初めてなのだ。
シルバーとソウルはゴールドと。
サトシはヒロシと、それぞれ来たことは有るが、五人できたことはない。
いつもは金のかからない場所で集まるが、ではなぜ今回に限りカラオケにしたかというと、前述の通り、テスト明けの解放感がそうさせたとしか言えない。
ともかく、うんざりした様子のシルバーに次にマイクを渡されたのはゴールドの隣に座っていたサトシだった。
「悪かったな、サトシ。次歌え」
「おう!」
シルバーからマイクを受け取ったサトシはモニターに次に表示された曲名を見た。予約した曲を消すかと問うソウルを制して、知っている曲だから、とマイクを構える。
曲名は、『スパート!』。サトシの十八番だった。
イントロが流れてくると、ヒロシは目を輝かせた。
それを不思議に思いながら、シルバーとソウル、そしてゴールドはサトシが口を開くのに耳を傾ける用意をした。
サトシが歌い始める。
思い出今はしまっておこう。あの場所目指しスパートかけようぜ。
――戦慄した。
ヒロシの態度の理由を三人は悟った。
上手い。上手すぎるのだ。
ゴールドやシルバー、そしてソウルは下手ではない。
音痴のヒロシはともかく、上手い部類に入るだろう。
だがサトシの歌声は常軌を逸していた。
少年らしい元気な歌声であるが溌剌としながらもどこかしっとりと歌い上げている。
曲が終わるまで。否。
曲が終わっても三人はしばらく言葉を発することが出来ないでいた。
「どうしたんだ!?シルバー、ソウル!それにゴールドまで!」
「びっくりしたんだよ。サトシの歌声は一級品だから」
未だ声を出せない三人に変わってヒロシが答える。
サトシは照れたように頬をかいた。
「え。そんなことないだろ…」
「いやうめぇ!」
「なんだその歌唱力は!」
ようやく我を取り戻したゴールドとシルバーが叫んだ。
ソウルはそれに大袈裟とも言えるほど頷いて拍手をしていた。
「そ、そうかな」
「そうだぜ!サトシ、天職歌手なんじゃねえ!?」
ゴールドが鼻息荒く叫ぶ。
常ならば近所迷惑なその行為も、カラオケ店内なら流される。
それをわかっているからシルバーは何も言わずにゴールドに賛同してうんうんと頷いた。
だが、物事がいつもそんなに予想可能な方向へ進むだろうか。
答えは否だ。
「いや、俺ポケモンマスターになりたいから、パス」
ヒロシに関しては以前体験したことがあるものだが、ゴールド、シルバー、ソウルに至っては例えようもない感情だ。
その名は『がっかり』。
惜しすぎる才能に、サトシ以外の四人はそろって肩を落とした。
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先日の日記のメモより。
キミ想い〜より早く書き終わってしまったのであげてみる。
ヒロシ音痴ネタは中の人繋がりで某小さい探偵より。
書いててすっごい楽しかったです!(*^o^*)
あとスパート!は神曲。(主張)