ブラベル
小さな頃から彼が好きでした。
そう、それはきっと、物心のつくまえ。
きらきらしたあの笑顔や、時折後ろを振り返ってのろまな私を待っていてくれたことが理由なんだと思います。
物心が付く前だから、記憶には無いことだけれど。
でも、きっと、きっとそうなんです。
ずっとそれに焦がれてきたんだから。
今だって、その笑顔を見るだけで、胸がどきどきして、苦しくて、でも、とっても幸せになるんだから。
ああ、すっかり長くなりましたね。
でも、私はあなたに伝えたかったんです。
あなたは彼が好きでしょう?
私も彼が好きなんですよ。
だから、早く
「ベル、何書いてんの?」
「あ、ブラック!」
突然呼ばれてベルははっと後ろを振り向いた。
そこには先程まで小さな子供達と笑い声を上げて遊んでいた青年。
ベルはふんわり笑って言った。
「手紙?」
「なんで疑問形なんだよ」
つられて笑う青年――ブラックは、窓の外を見やった。
そこには茶色い髪をして気難しげな顔をした水色の目の男の子と、金髪の、茶色い目をくりくり動かして笑う女の子が遊んでいる。
ブラックはいとおしそうに目を細めた。
「チェレンJr.本当にチェレンにそっくりだねぇ」
「…髪が心配だけどな」
「ホワイトの血が入ってるんだから、平気だよ」
本人が聞いたら怒りそうな会話をしながら、ベルとブラックはJr.の隣にいる女の子――自分達の娘に視線を移す。
「仲良しだね」
「…本当に、ホワイトが言ってた通りになりそうだ」
従兄弟同士にある自分達の娘とJr.は、本当に仲が良かった。
自分達が幼い頃、旅に出るその前からずっと、ブラックの妹であるホワイトは、幼なじみ全員を親戚にするんだと豪語していた。
その時はそんなにうまくいくものだろうかと思ったが、目の前で仲良く遊ぶ子供達が将来、そういう関係になればその願いは叶う。
どうやらその日は近いようで、夫婦は改めて妹(義妹)の偉大さを感じてた。
「あ、」
ふと思い出して、ベルは先程まで書いていた便箋の、最後の一言を完成させ、差出人の名前を書いて静かにそれを折り畳んだ。
真っ白な封筒に入れて、きちんと封をする。
それに気付いたブラックは、郵便局に持っていこうか?と手を差し出した。
その夫の優しさを嬉しく思ったが、ベルは静かに首を振って、けれど一つだけ、頼み事をした。
「セレビィ?」
「うん」
「確かにボックスにいるけど…何に使うの?」
「郵便屋さん!」
「……?」
首を傾げながらも快く貸してくれるブラックは昔から変わらない。
丁度過去に浸って手紙を書いていたところだから、尚更はっきり感じられる。
ボックスから引き出されたボールを手に、ベルはゆっくり立ち上がる。
ブラックはまた子供達と遊ぶようで、外へ行ってしまった。
それを見届けて、ベルはボールから薄緑の妖精を出し、届け物をお願いした。
それに頷いて、セレビィが光と共に消えてしまってから、静かに目を閉じて昔に想いを馳せる。
旅の途中、草むらを歩いているとき見えた光と不思議なポケモン。
渡された手紙は今もベルのレポートに大切に挟んである。
思えば、その手紙のおかげで気付けたのだ。自分の気持ちに。
のんびりやの自分の後押しをしてくれた手紙を、こうしてまた自分が出すのは不思議な気がしたけれど、どこか暖かい気持ちになった。
セレビィが帰ってきたら、最近シンオウの友人から教えてもらったポフィンと言うものを作ってあげよう。
ベルは窓の外、子供達と戯れる大好きな人に視線を向けた。
幸せだなあ。そう思った。
だから、早く、気付いてくださいね。
15年後のあなたより
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楽しかった!
子供の名前は会えて伏せました。
ご自由に想像くださいませ。