『亜紀から連絡くれるの久しぶりだね、嬉しいよ。』

副会長、米沢瑞樹は爽やかとしか言いようのない笑顔で言った。

昨晩、『会えないか』と送ったメールにはすぐに『喜んで。』と返事が返って来た
てっきり米沢の家に呼ばれる事を覚悟していたが、男が指定して来たのは裏庭。
先日、米沢と生徒会長が揉めていた、例の場所だった。

白石は米沢を見据えて口を開いた。
『単刀直入に聞く。今度の会長選について、何か知ってるのか?』
米沢は笑顔を貼り付けたまま、首をかしげる。
『何か、って?例えば?』

白石はグッ、と言葉に詰まった。
賭博が行われそうになっている事は、まだ何の証拠も掴めていない。
裏付けのない情報を明かす訳にはいかない。

白石が考え込んでいると、米沢は堪え切れない、といった様子で笑い出した。

『…相変わらず素直だね。ごめん、苛めるつもりは無かったんだけど。』
クククク、と可笑しそうに笑いながら、米沢が言った。

『賭博の事について調べてるんだろ?』
『……!!』

米沢から出た言葉に思わず目を見開く。
やはり、賭博は本当だったのだ。

『悪いけど、この件に関して裏付けになるような証拠は持ってないよ。たぶん、この先いくら調べても出てこないだろうね。』
『…何で言い切れる?』

米沢は笑顔とは裏腹に全く笑っていない目で白石を見つめる。

『ここから先は有料。俺の出した条件を飲むなら話してあげる。話せる事に制限はあるけどね。でも、聞く価値はあると思うけど?』
どうする?と首をかしげる目の前の男に、夏だというのに、ゾクリとした寒気を感じる。

『…何が条件だ?』
白石が答えると、米沢は口を開いた。

『俺が話す事を、新聞にすること。』
『…!!』

『さっきも言ったけど、この件には裏付けがない。それでもこの内容を新聞にして、校内中に配信してほしい。』

それは…、そんな事をすれば、犯人の生徒を追い詰める事になってしまう。
そして、普通、新聞として記事にする前に、綿密な取材と事実確認を要する。
そうして、きちんと精査した情報だけを新聞として記事にする。
それをすっ飛ばして、とりあえず記事に起こせ、というのは考えられない事だった。
万が一情報に誤りがあった場合、新聞部の責任は甚大だろう。

米沢は続けた。
『犯人の個人名は明かさない。校内で賭博が行われている、という事実だけを書いてくれれば良い。』
『え?』
『新聞部に責任は取らせない。副会長の俺がそう証言した、と書いてくれれば良い。』

白石は米沢を見つめた。
今聞いた話では米沢にメリットが無いのでは?
どうして、そんなリスクを負ってまで…?
口にした訳でも無いのに、考えが通じたのか米沢は自嘲気味に笑った。

『…俺らしくない、って思ってる?
俺もそう思うよ。俺の目的はこの計画を止める事だ。止めるだけで良い。』

呟く米沢はどこか苦しそうに見えた。

白石は意を決して口を開いた。
本当は野戸に確認を取った方が良いのだろうが、今でなければいけない気がした。

『飲むよ、条件。だから話してくれ。』