『……先輩?』
『っ!?』
気がつくと目の前に黒田の顔があった。
黒縁眼鏡越しにジイっと見つめられる。
その視線が何故かすごく恥ずかしくて、思わずバッと顔を逸らしてしまった。
『なんだよ、ジロジロみんなバカ』
悪態をつくと黒田はだってー…と呟いた。
『先輩何だかぼんやりしてないですか?大丈夫ですか?』
黒田は心配そうな声に、ジリジリと頬が焼ける感覚がする。…なんだこれは。
『…ちょっと寝不足なだけだよ』
顔を逸らしたまま一言呟くと、またそんな不摂生してー、と黒田がプリプリ言った。
それを見た野田が『まーた始まったよ、夫婦漫才!』とゲラゲラ笑った。
『その呼び方やめてくださいよ!』と黒田が応戦する。
黒田の視線が外れて少しホッとする。
白石は自分の頬に手を当てた。まだ熱い。
こんなやり取り、今に始まったことじゃない。むしろ日常茶飯事だ。
おかしい、どうして今こんなに黒田の顔を直視出来ない?
その時、教室の戸がガラリと開いた。
大きな封筒を入ってきたのは新聞部唯一の女性部員、木村明里だった。
『あっ、き、木村さん!』
黒田はパアッと顔を上げた。木村はキッと黒田を見据えて言った。
『黒田君、来月号の校内新聞の原稿だけど、誤植があったわよ』
木村は大きな封筒から原稿を取り出した。黒田は『ええっ!』と慌ててかけよる。
『どっ、どこに!?』
『こことここ。もう、毎月なんやかんやあるんだから、気をつけてよね!』
黒田は『すみません…』尻尾と耳がうなだれた犬のようにしゅんと小さくなった。
『まーまーいいじゃん、大した誤植じゃないしさ!』
『メチャクチャ言わないでください、野戸部長』
木村はキッと野戸を睨んだ。
『いいですか、私たちは真実を正しい言葉で全校生徒に伝える義務があります。適当は困るんです。』
ふぅ、と溜息を吐きながら木村は言った。
『全く…白石先輩だけですよ、真面目で丁寧な人は』
俺もちゃんとやってるぞー!と野戸が抗議したが、『部長は仕事は出来るけど、そもそも遅刻が多すぎです』と一蹴されていた。
黒田はまだしょんぼりとうなだれていた。