あれから、黒田と木村は校内外に広く調査しているようで、少し部室に顔を出し、そのまま帰ってこない、という日が多くなった。
それでも、中々有益な情報を得られないようだった。

部長の野戸が溜息をつく。
『毎年何かしらやる奴いるけど、賭博はヤベーよなぁ。何考えてんだか…。』
ガシガシと頭を掻きながら、野戸は項垂れた。
『知ってそうな生徒にそれとなく聞き込みしてるんですけど、絶対に口を割らないんです…。何かに怯えてるみたいで。』
疲れた表情をしていた木村は、キリッと姿勢を正し、
『とりあえず、今日もまた聞き込み行ってきます!ね、黒田君!』
ニッコリと黒田に笑いかけた。
黒田の表情が引きつっている。

『あんまり無茶はするなよ。危険に巻き込まれる前に退け。いいな?』
野戸は真剣な目で黒田と木村を見た。
二人は、野戸につられて神妙面持ちで頷いた。

『それにしても、この事件のせいでやたら忙しくなっちゃったなぁ。俺ら、もう引退だってのに。』
野戸は面倒臭そうに言った。
この学校の新聞部は、3年生は夏休みで引退。
後は2年生に引き継ぐ事になっている。
つまり、3年の野戸と白石は夏休み終了と共に引退、という暗黙の了解になっていた。

『なーんか、部活最後の思い出がコレって嫌だな。…あ、そうだ。』
野戸は名案を思いついた、とでも言うように、パン!と手を叩いた。
『合宿しよう、合宿!1泊2日、場所は、隣山の宿泊施設借りてさ。どうよ?』
野戸はキラキラした笑顔で言った。
白石はハァ…と溜息をついた。
『お前、単にアウトドアしたいだけだろ。』
白石の言葉に、野戸は全力で
『うん!!!』
と親指を立てた。
『良いんじゃないですか。楽しそうだし。』
黒田も賛成、と言うように手を挙げた。
1年生もチラホラと手を挙げている。
『まぁ、息抜きも兼ねて、良いかもですね。』
紅一点の木村の言葉で、野戸は
『決まりだな。』とニヤリと笑った。
『よーし!お前ら、バーベキューやるから心しとけよ!あと、キャンプファイアーも、肝試しも…』
意気揚々と計画を語る野戸に白石は『マジに遊んでばっかじゃねーか!』と突っ込みを入れた。


その後、木村と黒田は調査に出かけて行き、そのまま部活終了の時間になっても帰って来なかった。
…まだ、二人で一緒にいるのだろうか。
少し痛む胸を無視して、白石は部室の戸締りを始めた。
『アッキー、』
と、後ろから野戸に話しかけられた。
『何かさ、最近、無理してない?』
真剣な顔で野戸は言った。
驚いた。
普段通りに振る舞うよう努めていたつもりだったのに、態度に出てしまっていたのか。
考えているのが、顔に出ていたのか、野戸は
『多分俺しか気づいてないよ。ほら、付き合い長いしさぁ。』
と言って、少し笑った。
そのあと真剣な顔をして、
『何かあったら、いつでも話聞くから。ってこれ、前にアッキーが言ってくれたんだけど。』
野戸は続けた。
『俺も同じ気持ちだよ。言いたくなければ無理に言わなくて良いし、吐き出したくなったら、どんな話でも聞くからさ。』
ポン、と白石の肩を叩いて野戸は笑った。
『とりあえず、合宿楽しもうぜ!』
やるぞー!と一人盛り上がっている野戸を横目に、白石は笑った。
『ありがとな。』
白石が言うと、野戸は『良いって事よ!』と笑った。

心が少し、軽くなった気がした。