俳優の松坂桃李が、ミステリー作家・貫井徳郎氏の“最恐”作品の実写ドラマ化に挑むことがわかった。テレビ朝日系日曜プライム枠(毎週日曜21:00)で今春、放送予定のドラマスペシャル『微笑む人』で、同局のゴールデン帯ドラマで初主演を務める。

映画[孤狼の血]では暴力犯捜査係の若き刑事、[娼年]では会員制ボーイズクラブの娼夫、[新聞記者]では苦悩する内閣情報調査室の官僚…、近年、数々の注目作品に出演し、役柄の幅を広げてきた桃李君が本作で演じるのは、妻子を溺死させた罪に問われるエリート銀行員・仁藤俊美(にとう・としみ)。柔らかな微笑みの裏に思いもよらない顔を秘めた、謎多き男を怪演する。

今作の原作となっているのは、映画[愚行録;'16]、スペシャルドラマ[乱反射;'18]など映像化が相次ぎ、2012年に発表した貫井氏の同名小説。2010年に[後悔と真実の色]で第23回山本周五郎賞、[乱反射]で第63回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞した貫井氏が、12年に実業之日本社から発表。貫井氏自身「ぼくのミステリーの最高到達点」を謳った衝撃作が初映像化される。
本作は、誰もがうらやむエリート銀行員が妻子を殺害するという世間を騒がせた事件を追ううちに、彼の過去に隠された衝撃の真実が判明していくミステリー作品。一流大学を卒業後、大手都市銀行に就職し、妻子とともに幸せな生活を送っていたはずが、突然、妻と娘を殺害。しかも、「本の置き場所が欲しかった」という殺害の動機に人々は驚がくする。世間が注目する裁判の行方、そして次第に明かされていく仁藤の過去と、ラストに待ち受ける驚がくの展開。

脚本は、[アンフェア]シリーズ、映画[サイレント・トーキョー And so this is Xmas;2020年12月公開]の原作者としても知られ、[天体観測][サマーレスキュー〜天空の診療所〜]、舞台・映画・小説…と幅広いフィールドで活躍する秦建日子氏。演出は、映画[呪怨;'96][パラサイト・イヴ;'99]、そして[世にも奇妙な物語]などを手掛けた落合正幸氏が担当する。貫井氏が描いた世界はそのままに、テレビドラマの“巧者”とも言える秦氏が、ドラマならではのスリリングな展開、ドラマオリジナルの衝撃的な結末を用意し、落合監督が作り出す独特の世界観によって視聴者を物語の深みへと誘っていく。

今回のドラマには小説にはないオリジナルのキャラクターも登場する。それが、週刊誌の女性記者・鴨井晶(かもい・あきら)。『週刊海潮』の契約記者で、夫に家事を任せ、再び第一線の記者として活躍しようと奮闘。ドラマ内で仁藤の事件は、晶の目線で語られていくことになる。

演じるのは、女優の尾野真千子。桃李君とは[この世界の片隅に;'18、TBS]以来、2度目の共演となり、前作での姉弟役から一転、今回は殺人事件の被告人と彼を追う週刊誌記者という立場で相対することに。

数々の作品でその存在感を発揮し、誰しもが認める演技の幅広さを誇る尾野サン。同じく実力派の俳優として名高い桃李君と共に、「微笑む人」という極上のミステリーで濃密な芝居合戦を繰り広げる。

このほか、晶の上司であり、彼女に仁藤の周辺取材を命じる『週刊海潮』のデスク・井上肇役に、生瀬勝久。晶とは旧知の仲で仁藤の事件を担当した所轄の刑事・佐藤役には福田転球。拘置所の刑務官・滝沢役で田中要次の出演が発表された。阿部亮平、薬丸翔、小久保寿人、佐藤乃莉らも出演する。


◎あらすじ
「本の置き場所が欲しかったからです」。妻子を殺害した罪で起訴された仁藤俊美(松坂桃李)は、公判で衝撃の動機を明かす。1年半前、神奈川県相模原市の西北部を流れる安住川で、仁藤が妻の抄子(かんこ)と娘の亜美菜(池谷美音)を溺死させたとされる「安住川事件」。被告人の仁藤は、日本最難関の大学に現役合格し、大手都市銀行に就職。結婚後は順風満帆な生活を送っていた。

そんな仁藤がなぜ妻子を殺害するという凶行に至ったのか。事件前から仁藤とは面識があった週刊海潮の記者・鴨井晶(尾野真千子)は、その真相を明かすべくデスクの井上肇(生瀬勝久)に直談判。巻頭特集を約束された晶は仁藤の関係者に取材を続け、彼の人物像を掘り下げていく。

だが知れば知るほど、仁藤への疑念を深めていく晶。自分が以前から知っていた仁藤と、捜査関係者から聞く仁藤、いったいどちらの姿が本当の彼なのか…。やがて仁藤にまつわる衝撃の過去が明らかになり、これまでに彼に関わる何人もの人間が不審な死を遂げていたことを知る――。


▽松坂桃李コメント
仁藤という男がやってきた行為は、もちろん許されるものではないのですが、台本を読んだ最初の印象では、なぜか嫌な感じがしなかったんです。彼の振る舞いや言動は、ある種の正論を言っている部分もあるので、不思議な感覚でした。
そんな人物なので、僕自身も演じるにあたって「仁藤はこんな男だ」という風に思いすぎないほうがいいのかなと考えました。僕のものさしが挟まってしまうことによって彼の捉え方が変わってしまう気がしたんです。仁藤はどの局面、どんな場面においてもフラット。だからあまり「こうだ」と決めつけることなく、そのフラットであるという部分だけを心に留めていました。作品の全編を通して感情の揺れ動きやテンションが一定、という今回のような役柄は初めてだったかもしれません。
尾野真千子さんとの共演は「この世界の片隅に」以来。前回は姉弟役という関係性だったので、今回はまったく違う立ち位置です。罪を犯した人間と、それを調べるマスコミ側の人間──接見室で向き合うシーンも多かったので、以前とはまったく違う感覚でご一緒しました。共演シーンはそこまで多いわけではないのですが、ワンシーンワンシーンがとても濃いものだったので、お芝居をしていてとても楽しかったです。合間には以前と変わらず他愛もない話ばかりしていたのですけどね(笑)。この作品に出てくる言葉には、心に刺さるものがすごく多い。「自分だったらどうするだろう」ということを考える時間ができるような作品なのではないかと思っています。現場でもとても熱量を感じた落合正幸監督がどんな風に料理して完成させてくれるのか、ぜひ楽しみにしていただけたらうれしいです。

▽尾野真千子コメント
この作品を読んで、まず湧き上がったのは「異様だな」という感情でした。
完全に理解できるわけではないのだけれど、「あぁ結局人間っていうのはこういうものなのかな」と思わせるような、とてもリアルな人間の感情が描かれている気がしました。その異様さをどのように演じられるだろうかと考えることがとても面白く、さらにそれをどのくらい“普通”に演じることができるかを心がけていました。私が演じる鴨井晶という女性は、いわゆる“ジャーナリスト”なのですが、ごく普通の主婦だった女性が、家事を夫に任せ、外に働きに出ている──特別なことは何もない女性でいたいと考えて現場に入りました。
この作品で仁藤が語る「殺害の動機」って、一見しただけだと「え、それってどうなの」というものだけれど、実は誰しもが心の中に持ち得る感情なのかもしれないと思うんです。感覚というものは、人それぞれである、という面白さと、現実世界においても理由付けが難しい事柄が起きている怖さを、お見せできたらなと思いました。
松坂桃李さんとはこのたび二度目の共演となりました。前回は“弟”だったのですが、今回は“取材対象である殺人者”です。……何でしょうかね、彼の見せる「微笑み」。これまでに私が見てきた「本当にいい人だな」という微笑みから一転して、今回は「ぞっとするような微笑み」を見せられました。松坂桃李の中にあるまた新たな表情を垣間見た気がして、これからもさらに違う桃李くんが見たいな、と思わせてくれる作品になりました。


■日曜プライム ドラマスペシャル『微笑む人』
テレビ朝日系 2020年春 21:00〜